7話 いよいよ告白タイム
旅行2日目、朝食の後は、数台のバスに分かれて伊豆の観光地巡り。
バスごとに見学する順番が違うので、桜子と別のバスになったら、何の意味もない。
圭介は桜子とはぐれないように朝から注意し、なんとか同じバスに乗り込むことができた。
しかし、一緒のバスにはしっかり茜も乗ってきているし、お目付け役と言わんばかりに薫子もいる。
(おれ、告白すんなって言われてるのか? それとも、桜子とくっつかないようにって、変な呪いがかかってるのか?)
桜子の楽しみにしていたイルカショーは、しっかりと隣の席を陣取ったというのに、反対側にはちゃっかり茜がいる。
そして、水しぶきが飛んでくるたびに「きゃあっ」と胸を押し付けられる。
蝋人形館で「なんか、気味悪いね」と、怖がる桜子が圭介のTシャツの裾をつかんできたというのに――
「いやあ、圭介くん、こわーい。置いてかないで!」と、茜にがっつり腕にしがみつかれた。
牧場でしぼりたて牛乳のソフトクリームに至っては、抹茶味を選んだ桜子が「やっぱり、プレーンの方が牛乳の味が濃いのかな」と、圭介のプレーン味が気になるようなので、これはチャンスだと「味見る?」と差し出そうとしたところ、茜が乱入。
「桜子、あたしのと交換。抹茶、味見させてー」と、圭介の出る幕なし。
オルゴール館でついに薫子の怒髪天を抜いたのか、「ちょっとこっちに来て」と、茜がトイレに行っているすきに、無理やり腕を引っ張られて館内から連れ出された。
「ダーリン、なんで茜ちゃんに鼻の下伸ばしてるの!?」
「そんなことは断じてない!」
「だったら、なんで茜ちゃんのやりたい放題にしているわけ? 嫌だったら、やめろって言えば済むだけの話でしょうが! それをしないってことは、おっぱいくっつけられて喜んでるとしか思えないよ!」
「よ、喜んでるわけねえだろ!」
「今、言いよどんだね?」
そこを突っ込まないでくれ、と圭介は内心がっくりと頭を落とした。
「……あのなあ、これでも、おれだって告白しようって努力してんだぞ。桜子といい雰囲気に持っていこうって頑張ってんのに、あの女がいちいち邪魔に入って……。桜子の親友だから、無下に追い払うわけにもいかんし」
「ふーん、一応困ってるんだ」
「何をいまさら……。何とかならねえのか?」
「あたしに頼るのはお門違いじゃない? 桜ちゃんが好きなら、自分で何とかするってもんでしょ。
そんなこともできないんだったら、桜ちゃんの相手には全然ふさわしくないんだから、選択肢からすぐに外してあげる」
「外されると、どうなるんだ……?」
「桜ちゃんに2度と近づけないように、茜ちゃん以上に邪魔してあげる」
薫子は口に笑みを浮かべているものの、目が笑っていない。
これまで薫子と付き合ってきた経験上、これが本気で言っているということは、圭介にも容易に理解できた。
「わかった。おれの力で何とかするから、選択肢から外すとか言うなよ」
「では、お手並み拝見ということで」
確かに薫子が何度邪魔に入っても、茜の勢いは止まったためしがない。
それは結局、圭介がオロオロとしていて、茜に取り入られるスキを作ってしまうからだ。
(そうだよな、ここはガツンと、きっぱり遠ざけるしかないよな)
「悪かったな、いろいろ気をもませて。おまえには何度も助けてもらったよな」
「ありがと」と、頭ひとつ小さい薫子の頭を撫でてやった。
「……別にダーリンを助けようと思ったわけじゃないもん」
「おまえがどういうつもりでも、結果的におれがそう思ってんだからいいんだよ」
薫子はぷいっとそっぽを向いたかと思うと、圭介を置いて館内に駆けて行ってしまった。
(それにしても参ったな……)
旅行は残り1日と少し。
子供たちはそこら中にウロウロ。
茜も近くにいる状況では、いっこうに告白のチャンスはめぐってこない。
こうなったら、子供の就寝時間が過ぎてから、桜子をひとり呼び出して告白するしか方法はない。
どうせ旅行の後にしても、告白するために1度は呼び出さなければならないのだ。
それくらいなら、この開放的な海という絶好の背景の中の方が、告白は上手くいきそうな気がする。
今夜が決行のチャンスだ。
***
圭介はホテルに戻ってから、桜子をどこに呼び出そうか、ウロウロと歩き回ってロケーションハンティング。
せっかく海まで来ているのだからビーチがいいかと思ったが、前に変な夢を見たので、なんだか縁起が悪い気がする。
よって、却下。
その代り夜の屋外プールはライトアップされて、かなりロマンチックな雰囲気になりそうだ。
しかも、わざわざ夜に泳ぐ人もいないので、二人きりになりやすい。
『話がある。プールサイドで待っている』
圭介は風呂を上がった後、桜子にメッセージを送って、屋外プールに向かった。
女子の方が風呂は長そうなので、待つのは仕方がない。
圭介はビーチベンチに腰掛けて、長期戦に備えた。
幻想的に光る緑色のプールの水、空には三日月、遠くから聞こえる波の音をBGMにかすかな風に乗って潮の香りが届く。
告白の場所をここに決めてよかったと改めて思う。
――ところが、30分以上経っても返事があるわけでもなく、周りに人影らしいものが見えない。
さすがに不安になってくる。
(まさか、おれ、すっぽかされた?)
次話、桜子は現れるのか?