6話 おれ、タイプなの?
再び圭介視点に戻ります。
圭介が風呂を出て、ご機嫌で部屋に戻ると、同室の4人の男子が車座になってトランプをしていた。
「お、瀬名くん、遅かったな。一緒にトランプやる?」と、一人が声をかけてくる。
「何やってんの?」
「大貧民」
「やるやるー」
夜9時を回った今、小学生以下は寝る時間。
その他は特に就寝時間があるわけではない。
こんな風に部屋でトランプをしていると、中学の修学旅行を思い出す。
「天城の学生って、仲良いよな」
配られたトランプを手に取りながら圭介は言った。
「仲良いってか、みんな寮生活してるから、いつもの延長って感じだよ」
「夏休みも寮にいるのか?」
「実家がある奴は帰省したりするけど、大半は寮に残ってる」
圭介の第1志望だった高校だけあって、話を聞いていると、やはりうらやましくなってしまう。
自由な校風、家族のような寮生活、なにより学生が明るくてのびのびしている。
「そういや、瀬名くん、茜にロックオンされてねえ?」
一人に聞かれて、圭介は首を傾げた。
「ロックオン?」
「はたから見てるとあからさまだよな。あのナイスバディに迫られたら、断れねえだろ」
「あいつの場合、後腐れないし、せっかくだから、1発やらせてもらったら?」
「やらせてもらったらって……。そもそも、倉科茜ってどういう女なんだ?」
桜子の親友と紹介されただけで、その後は迫られるばかり。
圭介の方はたじたじになってしまい、実際のところよくわからないのだ。
「あいつ、学校では『童貞キラー』とか『歩く性教師』とか言われてんだ」
「なんだそりゃ……」と、呆れたコメントしか出てこなかった。
「美人でナイスバディ、ああ見えて頭もいいし、性格も明るくて人付き合いもいいんだけど、男関係はちょっとヤバい」
「すでにこの1学期で、うちの男子と5人はやってるってウワサ」
「え、おれ、10人って聞いたー」
「おれ、そのうちの一人だよー」
そう言って、手を挙げたのは富永という丸刈りの素朴な顔をした男だった。
(げ、こんな女に縁遠そうな顔して、もう経験したことあんのか!?)
「ちくしょー、うらやましい奴め!」
他の3人も圭介と同じことを思ったらしい。
「けど、何のために、彼女はそんなことしてるんだ?」
「さあ、理由なんてないんじゃねえ? 男に性欲があるように女だってあるだろうし」
「あの身体で男なしじゃいられないって、この世の男には朗報だよなー」
「それで付き合った男とかいないのか?」
「皆無。しかも、1回ぽっきり。後はそんなことあったっけーって流されるだけ」
「あいつ、何気にサド入ってるからなあ」と、富永がしみじみと言う。
「え、おまえ、そういうプレイしたのか?」
「そうじゃなくって、正確には主導権を握るのが好きって感じ? だから、何にも知らない童貞君がいいんじゃないかなあ」
「変な女だな」と、圭介はそれ以外の言葉が見つからなかった。
「変な女だけど、1発やって損はないぞ。本命の女とやる前の予行練習だと思えば。本番で失敗したくないもんなー」
「けど、瀬名くん、薫子ちゃんと付き合ってるんだろ? 茜って、カノジョ持ちには絶対手えださねえのに、どういう風の吹き回しだ?」
「ああ、おれも意外に思った。瀬名くんみたいな普通にカノジョできそう系には興味ないと思ってたもんな。ブサ・デブ・ムサ男専門」
桜子の親友だけあって、薫子と付き合っていないことを実は知っていて、圭介も『カノジョのいない男』として認識されているのかもしれない。
(つまり、あの女からするとおれも『ブサ・デブ・ムサ男』のカテゴリーに入れられるのか……)
男たちの話から想像すると、モテなさそうな男としか関係を持たない茜は、女子にやっかまれることなく、モテない男からは感謝され、変なあだ名がついていても、他の生徒といい関係を作っているらしい。
現に今、目の前の男たちが茜の話をしていても、嫌味はまるで入っていないし、仲の良い友達の話をしているくらいにしか聞こえない。
「おれはカノジョいるわけだし、迫られても困るんだけどなあ……」
「とっとと童貞卒業したら、茜に狙われなくなるかもよ」
「でも、相手は薫子ちゃん? かわいいけど、女として見るには、あと数年は待たなくちゃいけないって感じだけど」
「さすがに中学生相手は犯罪だもんなあ」
「その前に藍田社長にぶっ殺されそう」
「それ、笑えねえから……」と、圭介は引きつった笑みを漏らしていた。
薫子はニセのカノジョとはいえ、妹のようなものだから、正直、そういう目で見たことはない。
(けど、桜子と付き合ったら、やっぱ『健全なお付き合い』って、結婚までお預けになるんかな……)
なんだか、理性と本能の戦いになりそうで、想像するだけで疲れそうだ。
(ちがーう! その手前でコケてるのに、その先の心配してどうする!?)
とにかく、茜に迫られてオタオタしているようでは、桜子に幻滅されるのは時間の問題。
どんなに股間が反応しようが、断固として拒否しなければ、桜子との未来はないのだ。
(おれは初めての相手はやっぱり本気で好きになった女がいい!)
次話は旅行二日目。圭介も告白のチャンスを窺うわけですが……。