3話 海といったら、やっぱり水着だよな
伊豆に到着後は部屋に荷物を置いて、桜子母の運営する藍田財団からのあいさつを聞きながら、ホテルのレストランで昼食。
その後はさっそく子供たちを連れて、ビーチに向かった。
やれ、浮き輪をふくらませろ、ボールをふくらませろと、圭介も含めた高校生ボランティアは子供たちにせっつかれた。
とはいえ、ひと通りやることが済めば、子供は波打ち際で勝手に遊んでいる。
圭介はひと息ついて、改めて目の前に広がる青い海と雲ひとつない空を見上げた。
ようやく自分が今、海に来ていることが実感できる。
そして、視線を下げれば、波打ち際で子供たちとビーチボールで遊んでいる桜子が見えた。
(やっぱ、海って水着だよなあ)
桜子はずいぶん着やせして見えるらしい。
水色のストライプのビキニに包まれた胸は、普段の服装からは想像できないほどボリュームたっぷり。動くたびにふるふると揺れるのを目で追ってしまう。
ほっそりとした腰の下のお尻は、小さいながらもプリッとしていて形がいい。
(ヤバいヤバい。あんまり直視してると、収拾がつかん)
かといって、せっかくの桜子の水着姿を見ないのも惜しい。
圭介はコソコソとサンオイルを身体にぬりながら、『監視』で培ったチラ見を大いに利用させてもらった。
ふと圭介の手元に影が落ちて顔を上げると、白いビキニにかろうじて包まれた巨乳が目の前に迫っていた。
「うぎゃっ」と、圭介は変な叫び声をあげて身を引く。
「サンオイルなら、あたしがぬってあげるよー」
そう言ったのは、茜だった。
髪から水をしたたらせて、まぶしい笑顔を圭介に向けている。
「……あ、いや、自分でできるし」
「遠慮しない。背中、ぬりにくいでしょ?」
茜はサンオイルのボトルを奪い取って、圭介の背後に回るとペタペタとぬり始めた。
(なんか、さらにヤバいような……)
背中をすべる手の感触が妙な快感を与え、体中の血液が股間に向かって流れて行ってしまう。
(サポーター、はいてきてよかった)
「気持ちいいの? 顔真っ赤だよ」
ウフフという茜のからかうような声が異常に近くに聞こえる。
耳にかすかな風を感じて振り返れば、茜の顔がすぐ目の前だった。
「え、あ、おい……!」
茜の手がするりと圭介の背中から腰へ、腹まで滑り込んできたかと思うと、背中にやわらかな胸を押し付けられる、
(もうもうもう、限界!)
圭介がそこから逃れようと腰を浮かせた瞬間、飛んできたボールがボスボスっと頭に当たった。
しかも、二つも。
「あ、ごっめーん!」と、そのボールを取りに来たのは薫子だった。
「茜ちゃーん、あたしのダーリンにちょっかい出さないでって言ったよねー!?」
怖い笑顔をした薫子が茜の手からサンオイルのボトルを奪い取る。
「やだなー。一人で大変そうだったから、手伝ってあげてただけだよ」
「そういうのはカノジョのあたしの役目なのっ。ダーリンも鼻の下伸ばして、みっともないっ」
「それは仕方ないんじゃない? ほら、前か後ろかわかんないマナイタより、ナイスバディの女の子の方が男の子は、ねえ」
茜に意味ありげに微笑まれて、圭介は返す言葉が見つからなかった。
改めて薫子を見れば、セパレートの水着の下にあるはずの胸は、かろうじてふくらんでいる程度。
(マナイタ……なんて適切な表現なんだ)
「ダーリン、『目は口ほどに物を言う』って言葉、知ってる?」
思わずうなずきかけた圭介に、薫子の冷たい視線が降ってくる。
これ以上、どんな言葉を発しても、ドツボにはまるだけだ。
「あ、おれ、そろそろ子供たちの様子を見てこないと」と、つまり、逃げた。
すぐ近くにいた小学生を危うく蹴飛ばしそうになりながらも、うまくかわして波打ち際に向かう。
「もう、桜ちゃーん、どこにボール投げてるんだよう」
「ごめん、ごめん」
そんな声が遠くから聞こえた気がした。
「よーし、兄ちゃんが相手してやるぞー」
圭介は気合いの笑顔で子供たちのもとにやってきたものの、そこもまた逃げ場にはならなかった。
「兄ちゃん、ああいうの、チワゲンカっていうのか?」
「違うよ、サンカク関係っていうんだよ」
「なに言ってんだよ。この兄ちゃんがウワキしたんだよ」
おかげで、初日早々『ウワキ兄ちゃん』にあだ名が決定。
圭介は立場がなかった。
(おれ、カノジョの1人もいないのに、なんで全部すっ飛ばして『ウワキ男』になってんだよ!)
しかも、茜の存在のせいで、告白する雰囲気がさらに遠くなったような気がした。
次回、温泉の男湯にて、どんな話になるのか?