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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第2章-2 『友達』返上、まずは告白してみます。~赤い宝石編~

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16話 3つの『呪い』の共通点

前話からの続きの場面です。

「それにしても驚いたな。あれから3年も経って、桜ちゃんがおれを探してるなんて。何か理由でも?」


 圭介の隣に座っている九嶋祐希が話題を変えるように聞いてきた。


「桜子は九嶋くんの後、二人に告白されたんだけど――そのことは知ってる?」


 九嶋は「いや」と、首を振った。


「実はその二人も九嶋くんと同様、家に不幸があって彼女の前から姿を消したんだ。それで、彼女は呪われているってウワサになって。

 3件もそういうことが続いたから、桜子自身も『呪い』を信じていて、誰かを好きになることをあきらめてた。

 けど、最近、九嶋くんのウワサを聞いて、もしかしたらその『呪い』が解けるかもしれないってことで、過去を調べ始めたんだ」


「それで、瀬名くんが手伝ってるのか?」


「まあ、手伝ってほしいって頼まれたこともあるけど、そのことであいつが悩んでいるのを知ってたから」


「そっか。まあ、残りの二人も同じような事情だったと思うよ。大金積まれて、それを受け取ったか、断ったか。受け入れていれば、その不幸とやらもおれの時と同じで、形だけ」


「断ったら――」


「不幸はそのまま不幸になったんじゃない?」


「実際、二人目は父親がリストラになって、三人目は家業で破産して両親が心中したんだ。少なくとも三人目は断ったってことか」


「誰? 同じ中学の奴?」


「池崎冬馬って名前だけど、同じ中学だったから知ってるか?」


「ああ、知ってる。そっか、あいつの両親、亡くなったのか……」


 九嶋はショックを隠し切れない様子で、押し黙った。


「桜子もそれが1番こたえたみたいで、恋をするのを完全にあきらめたのも、それからだったと思う」


「おれ、池崎が桜ちゃんを好きだったことは知ってたんだ。それで、焦って先に告白したっていう経緯もあったんだけど。

 自分に自信のある奴だったし、正義感も強かったから、おれみたいにあっさり身を引かなかったのかもしれないな」


「それきりそいつも行方不明なんだけど、知ってるわけないよな?」


「おれは完全に過去の人間とは縁を切ってるから。けど、何かわかったことがあったら、連絡するよ」


「ありがとう。そうしてもらえると助かるよ」


(『藍田家の使い』は、人まで追い詰めて殺すのか……?)


 九嶋の話を聞いて、圭介はすべてが()に落ちたわけではなかった。


 藍田家の関係者が桜子に近づく男を排除しようとするのなら、圭介のもとにも『使い』が来ていなくてはならない。

 今は『友達』として仲よくしているとはいえ、付き合いたい気持ちがあることは、藍田音弥にすでに宣言してあるのだ。


 過去の3件と違うのは、桜子本人に告白をしていないという事実のみ。


(告白した時点で『不幸』が始まるのか? そんなバカバカしい話はないだろ)


 ここまで桜子に近づく男なら、それまで待つ間にとっとと排除したほうが手っ取り早い。

 それに何より、音弥がそんなことをする人間でないことを圭介自身が確信している。


 誰かが『藍田家の使い』を(かた)った、と考える方がよほど納得ができる話だ。

 知らない金持ちがやってきて、桜子をあきらめろと言うより、藍田家の人間から直に近づくなと言われる方が、九嶋のように告白した本人にはこたえる。


「なあ、九嶋くんの店の移転資金って、本当に藍田グループから出てるのか?」

「いや。直接的にはシンセン製薬が資金提供しているんだ」

「シンセン製薬って、よくCMやってるよな」


「製薬会社では最大手だよ。資金力があるから、店舗もいいところに置いてもらえたし、開店後はシンセンと提携(ていけい)して、売り上げの一部を支払う代わりに、製品を安く仕入れられるようになってる。

 おかげで店は順調。この3年で3店舗まで増やせたんだ。古い商店街の薬屋のオヤジだった父親が、今じゃ社長とか呼ばれてる。

 人生、わからないものだよね」


「そのシンセン製薬と藍田グループのつながりってあるのか?」


「詳しいことは知らないけど、シンセンの社長と藍田総帥は旧知の仲だって聞いてる。藍田グループの傘下に製薬会社は入ってないから、シンセン製薬に頼んだんじゃないかな。それなりの金を支払ったりして」


「なんだかあやふやな話だな。そういった事情をはっきりさせないで、店の移転を決めたのか? ダマされるとか思わなかったのか?」


「そりゃ、そんなうまい話があるなんて、うちの親だって最初は半信半疑だったよ。

 けど、夜逃げみたいにあの家を出た後、とりあえず都内のホテルに住まわせてもらってたんだけど、その間に開店の準備で建設業者やらシンセン製薬のお偉いさんが来て打ち合わせになって、話はトントン拍子。もう疑う余地なんてなかったよ」


「そこに藍田グループが関与していようがいまいが、どうでもよかったと?」


「だいたい、うちみたいな小さな薬局に大手製薬会社が普通だったら目をつけることはないだろ? 裏で藍田グループが動いていると考えれば、かえって納得できる話になるよ」


「確かに……」と、圭介もうなずくしかなかった。


「店舗の建設にも藍田グループは参加してないのか?」

「店舗はたしか四ツ井建設が受注したはずだよ。それが何か?」


 九嶋の口にした言葉に、圭介はゴクリと息を飲んだ。


(また四ツ井グループ系列の会社が出てきたぞ)


 これで3件が3件とも四ツ井グループがらみになった。


 九嶋の件に本当に藍田グループが関係しているなら、競合相手の四ツ井建設に店舗建設を任せるのは明らかにおかしい。

 シンセン製薬のような大会社がバックアップしている店舗の移転なら、リスクがあるどころか(もう)けが期待できる。

 にもかかわらず、競合会社に仕事を丸投げするということは考えられない。


 会社の裏事情は改めて確認したほうがいい。

 四ツ井グループとシンセン製薬に、藍田グループがどう絡んでくるのか。

 詳しい人間は、九嶋より他にいる。


「いや、何でもない」と、圭介は取り(つくろ)うように九嶋に笑顔を向けた。


「いろいろ詳しい話が聞けて良かった。時間を取ってくれてありがとう」


 ペコリと頭を下げて礼を言う圭介に、九嶋はふっと表情をゆるめて聞いてきた。


「瀬名くんは、桜ちゃんのことが好きなの?」

「好きだよ。まだ伝えてないけど」


 圭介は素直に答えた。

 正直にすべてを話してくれた九嶋の前で、ウソはつきたくなかった。


 無謀(むぼう)だと思われようが、桜子にふさわしくないと思われようが、覚悟の上。

 この恋をあきらめないと決めたのだ。


「瀬名くんは勇気あるな」と、九嶋は意外にも感心したように言った。


「……そうか?」


「この間、テレビで久しぶりに桜ちゃんを見たよ。きれいになっていて、本当にお嬢様だったんだって思った。本当におれとは関係ない世界の人間だったんだって。

 おかげでおれはいろいろすっきりした気分になれた」


 九嶋が言っているのは、先日映画の試写会で桜子がマスコミの前であいさつをした時のことらしい。

 結局、圭介はテレビでは観る機会がなかったが、ドレスアップした桜子を遠目に見て、情けなくもその場から逃げ出したことを思い出さずにはいられない。


(こんな風に違う世界の人間だって割り切れてたら、落ち込むこともなかったんだろうな……)


「桜子は確かにそういう公の場では、その場にふさわしいお嬢様になるけど、本質は九嶋くんの知ってる『桜ちゃん』のまま、変わってないんじゃないかな。普通の、どこにでもいる女子高生だよ」


 圭介は九嶋にというより、自分に言い聞かせるように告げた。


「そっか。でも、それは聞かなかったことにしておく。今の彼女はもう手の届かない人だって思ってるほうがいいから。桜ちゃんは思い出の中にいるだけでいいんだ」


 圭介は「うん」と、小さくうなずいてベンチを立った。


 九嶋の中に桜子とのいい思い出は、たくさんあるに違いない。

 それでも、実らなかった苦い初恋の思い出もまた、完全に消すことはできない。


 後悔していないと言っても、自分から手放してしまったからこそ、悔いは抜けないトゲのように、思い出したようにチクチクと胸を刺すだろう。


 遠くを見つめている九嶋のはかなげな横顔がそんな思いを表しているようで、いつまでも圭介の脳裏(のうり)に残った。

次話、『詳しい人間』=薫子ということで、圭介は電話をかけます。

どこまで解明できるか。


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