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14話 告白は『呪い』が解けてから

「あのさ、桜子……」


 この込み上げてくる『好き』という感情は抑えられそうにない。

 圭介は桜子を振り返って声をかけていた。


「うん? なに、改まって」と、桜子に興味津々といった様子で見つめてくる。


 魅力的な桜子の顔が間近に見えてしまうと、圭介のノドは急に乾いてしまったかのように言葉が出せなくなった。


 圭介の頭の中では『言え! 言ってしまえ!』と叫ぶ声が何度も聞こえるが、そのたびに『ムリムリ!』と反対する声も聞こえている。


 心の準備なくいきなり告白はやはり無理だ、というのが最終的な結論になってしまった。

 それに、告白してもしも気まずい状態になったら、海で過ごす3日間が台無しになってしまう。


「あー……前におまえと結婚するとか言ってた二人、どうなったのかと思って」


 結局、圭介の口から出てきたのは、告白の代わりにこの話題だった。


「羽柴さんは毎日メールしてくるけど、ヨリからは特に連絡もないな」


(あいつ、毎日メールしてるのか……てことは、桜子も毎日返事してるのか? おれがこの1週間何の音沙汰もなくて落ち込んでたってのに……!)


「それがどうしたの?」と、桜子は不思議そうな顔で圭介に問い返してくる。


 圭介は「ちくしょう」と思いながらも、慌てて笑顔を貼り付けた。


「あ、いや、呪いの影響ってなかったのかなって。一応、ニュース見たりしてるけど、表立った不幸はないみたいだったからさ」


「うん、よかったよね」

「じゃなくって、やっぱ、『呪い』なんてないんじゃないか?」

「圭介はそう信じる?」


「おれは……そう信じたいけど。そしたら、おまえももう悩まなくていいだろ?」


「うん、そうだね。自由に恋して、せっかくの夏を楽しみたいもんね」


 桜子は圭介から目をそらして、小さく笑みを浮かべていた。

 その横顔は誰かを思い浮かべているように見えて、圭介は心臓がきゅっと縮んだ気がした。


「桜子、もしかして好きな奴がいるのか……?」


 圭介の質問に桜子はすっと笑みを消してうつむいた。


「今はいないよ」

「……そう?」


 桜子の暗い顔を見ていると、圭介も「いなくてよかった」などと素直には喜べなかった。


「たとえいたとしても、言わない。『呪い』が解けたって確信が持てるまでは」

「好きな奴に告白されても、断るのか?」

「うん。好きな人なら、なおさら不幸になんかなってほしくないもん。少しでもそんな危険があるって思えば、言えないよ」


 顔を上げた時の桜子は笑顔だった。

 しかし、瞳がうるんでいて、今にも泣きだしそうな顔だった。


(そんな顔されたら、抱きしめたくなるじゃないか……!)


 圭介はうっかり伸ばしそうになる腕を抑えて、代わりに桜子の頭にポンと手をのせた。

 くしゃくしゃと髪を撫でるだけになんとかとどめる。


「そんなおまえに朗報。九嶋祐希が見つかった」


「え?」と、桜子は驚いたように目を丸くした。


「昨日の同窓会で、同じ高校に通っている奴を見つけたんだ。ちゃんと連絡が取れた時点でおまえに言うつもりだったんだけど、早いに越したことはないだろ?」


「圭介、探しててくれたの?」


「ずっとってわけじゃないけど、たまたま同窓会でいろんな学校に行ってる奴がいたから、聞いてみただけ」


 本当は、桜子に連絡をするきっかけが欲しかったというかなり打算的な動機。

 さすがにウソまでついて『おまえのために頑張ったんだ』とは言えなかった。


 それでも桜子は圭介の手を取ると、ぎゅうっと握りしめて「ありがとう!」と、晴れ晴れとした笑顔を向けてくれた。


「ほら、圭介、あんまり乗り気じゃなかったみたいだし、無理やり付き合わせて悪いなーなんて思ったりもしてたから、余計にうれしいよ!」


「『呪い』を解くきっかけが見つかればいいな」

「うん」


 やっぱり悲しい顔は、桜子には似合わない。

 この笑顔が見られるなら、なんでもしてやりたい。


 圭介は心からそう思った。


***


『九嶋くんと連絡が取れたよ』という藤原玲からのメッセージは、圭介が夜のバイトをしている間に届いていた。


 バイトが終わった時には11時。

 電話をかけるには遅すぎるので、明日の朝、電話するとメッセージを返しておいた。


 来週の休みも先輩の杉本美咲と交渉して、なんとか3日間を確保。

 九嶋祐希の件と合わせて、桜子に連絡できるのも明日だ。


 いろいろなことがいい方向に向かっていくような気がして、圭介はその夜、ご機嫌で家に帰った。




 翌日、早朝バイトが終わって休憩時間に入ると、圭介は予定通り、藤原玲にまず電話をかけた。


 ひと通りのあいさつの後、玲が言ったのは意外なことだった。


「なんかねー、九嶋くん、藍田桜子さんには会いたくないんだって」

「なんで?」


「あたしは部外者だから、突っ込んで聞けなかったよ。詳しく聞きたいようなら、瀬名くんが直接会って聞いたら?」


「おれは会ってもいいのか?」


「それはいいと思うよ。夏休み中はほとんど部活で学校にいるから、話をしたいようなら学校まで来てくれればいいって言ってたし」


「部活って何やってんの?」

「テニス。コートは校舎の裏なんだけど。わかんないようなら誰かに聞いて」


「わかった。とりあえず明日は昼のバイト入ってないから、学校に行ってみる。そう伝えてもらえるか?」


「おっけー」


 礼を言って電話を切ると、しばらくしてから『明日、大丈夫だって』と、玲からメッセージが届いた。


(桜子には会いたくない、か……)


 その理由はやはり、桜子が原因で実家の薬屋がつぶれたことを今でも根に持っているということなのか。


 この場合、桜子にそのことを伝えたほうがいいのか、圭介としては迷う。


 内緒でまず九嶋に会って、詳しい事情を聴いてから桜子に話をした方がいいのか。


 もっとも会いたくないと言っている相手に、無理やり会おうとする桜子ではないとは思う。

 だから、圭介がとりあえず一人で会うことを伝えたところで、問題はない気もする。


 圭介は散々悩んだものの、とにかく海に行けることは決まったので、それだけは電話で伝えることにした。

 後のことは話の流れ次第だ。


 桜子に電話をかけるのは、思い返しても初めてのこと。

 番号は知っていたものの、毎日学校で会うので、使うこともなかった。


 画面に桜子の番号を表示すると、今さらながら緊張して、圭介の胸はドキドキしてくる。

 おかげで桜子が電話に出た時、思わずどもってしまった。


「あ、お、おはよ」と。


「おはよう。圭介はバイト中?」


 桜子の口調がいつもと変わりがないので、圭介もすぐに自分を取り戻せた。


「ああ、今、休憩時間。話しても大丈夫か?」

「うん。今日は1日、家でお母さんのお手伝いだから」

「そっか。来週の休みが取れたから、早めに伝えておこうと思って」


「ほんと? よかったー。じゃあ、『旅のしおり』があるから後でメールするね。詳しいことは行く先々で説明があると思うけど、一応、動きは頭に入れておいた方がいいと思うから」


「『旅のしおり』って、修学旅行みたいだな」


「似たようなもんだよ。団体で行動するには、そういうのがあった方が何かと都合いいからね」

「なるほどなー」


 結局、九嶋の話をするきっかけがなかったので、ひとしきり旅行の話をしてから、電話を切ることになった。


(……さて、明日は九嶋とサシで話をすることになったわけだけど)


 圭介としてはどんな話が聞けるかより、相手がどんな男なのかの方が気になってしまった。


(おれが落ち込みたくない程度のイケメンだといいな……)

次話、圭介が九嶋祐希に会いに行きます。

どんな話を語ってくれるのでしょうか?


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