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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第2章-2 『友達』返上、まずは告白してみます。~赤い宝石編~

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11話 藍田姉妹、ご来店

 同窓会で夜まで遊びまくった翌日、圭介は朝からバイトに戻っていた。

 身体は元気なのだが、カラオケでつぶしたノドがひと晩たっても治らず、ガラガラ声での接客。

 そんな圭介を見て、同じく朝からバイトに入っていた涼香はケラケラ笑っていた。


 涼香は圭介が立ち聞きしていたことを知らない。

 だから、圭介も何も知らなかったことにして、いつも通りに接した。


(……おれも何気に表と裏を使い分けてる?)


 そんな器用なマネができるとは、今まで思ってもみなかった。

 が、涼香が何の疑いも持っていないところを見ると、うまくできているらしい。


(これも大人になったってことか?)


 昼時のピークを越えて片付けをしていると、同じフロア係の工藤(くどう)(たかし)嬉々(きき)とした顔で近寄ってきた。


「瀬名、今案内した103の客、めっちゃ美人。モロおれ好みっ」

「え、まじっすか?」


 というより、圭介は「またっすか?」と答えたかった。


 1学年上の工藤は美人の客が来るたびに色めき立っている。

 何をしにバイトに来ているのか、と問いたいところだが、カノジョ募集中の看板を堂々と掲げているので、妙に憎めない。


「一人で来てるんですか?」


 圭介は奥のフロアが担当なので、道路に面した入口付近にある窓際の席、103は見えない。


「女同士二人。もしかしたら、芸能人かも」

「芸能人なんて、ファミレスに来ますかねえ」

「ほら、おまえも見てみろよ。今度は絶対だって」

「ほんとですかー?」


 工藤はあまりに必死にカノジョを探しているので、ある意味手あたり次第。

『美人の客が来た』と言われるたびに圭介は見に行かされるのだが、必ずしも美人ではないということをすでに知っている。

 もちろん、好みもあるのかもしれないが。


 圭介はほぼ何も期待しないで、工藤にくっついて入口のフロアを覗きに行く。


「ちょっと、二人とも仕事そっちのけで、何やってるのよ!」


 涼香がいつものことながら目を吊り上げる。


「涼香ちゃーん、そんなに怒らないでよー。ちょこっと見たら、すぐに戻るからねー」


 工藤が調子のいいことを言って逃げるのもいつものこと。


 そういう涼香もイケメンの客が来ると、率先して接客。

 ニコニコ笑顔を振りまいているので、お互い様といったところだ。


 103の席が見えるところまで来て、客の姿が目に入った瞬間、圭介は反射的にカウンターの陰に隠れてしまった。


(心の準備がない!)


 窓際の席に向かい合って座っていたのは、見間違えようもなく桜子と薫子だった。


「おい、瀬名、なに隠れてんだよ? な、言った通りだろ? めっちゃ美人」


「そりゃ美人だろう!」と返したかったが、圭介はバクバクする胸を抑えて、深呼吸を2回。


 やっと口に出せたのは「そうっすね」だった。


(二人が来たのは偶然か? それとも、おれが働いてるって知ってて来たのか?)


 理由はともかく、休みに入ってずっと会いたかった桜子がすぐそこにいるのだ。

 気持ちが落ち着けば、隠れている理由はない。


「じゃ、おれ、注文取りに行ってくるわー」


 工藤は伝票を掴んで、踊りだしかねない勢いで二人のところに飛んでいく――が、その数十秒後、暗い顔をして戻ってきた。


「どうしたんすか?」


「おまえ、知り合いなのかっ? 『瀬名圭介くん、いますか?』って、かわいく聞かれた! ご指名だとよっ」


 圭介は工藤に恨みがましい目でにらまれ、伝票を押し付けられた。


「知り合いってか、クラスメートとその妹で……」


 工藤の恐ろしい勢いに、圭介は思わずたじろいでしまう。


「カノジョ?」

「はあ、妹の方と……」


「てことは、クラスメートの方は? カレシいるのか?」

「いまんとこ、いないと思いますけど……」


「よっしゃ! 瀬名、おれを紹介してくれ!」


 立ち直りも早い。

 満面の笑顔で肩を叩いてくる工藤に、圭介はめまいを覚えた。


 とはいえ、他の男なんか紹介したくない、というのが圭介の本音だ。


(もっとも、工藤さんを紹介したところで問題ないとは思うけど)


 工藤は眉が太く、かなり濃いオッサン顔。しかも、体育会系のゴッツイ身体。

 メンクイという桜子の好みとは思えない。


(……て、自分も墓穴掘ってるじゃねえか!)


「……じゃあ、一応、それとなく言っておきますけど」

「よろしくな! 成功のあかつきには、うまいもんおごってやる」

「了解です。じゃ、おれ、注文取ってきます」


 圭介は工藤から離れて103の席に向かいながら、次第に心臓がドキドキするのを感じた。


 少なくとも二人は、圭介がここで働いていることを知っていて来たのだ。

 どのような理由であれ、会いに来てくれたのは舞い上がりそうなほどうれしいことだった。


 ただ、あまりうれしそうにしていても、カノジョでもない薫子と友達の桜子に対しておかしすぎる。

 驚きは出しても控えめに、笑顔であいさつくらいがちょうどいい。


 圭介は1回深呼吸してから「いらっしゃい」と、声をかけた。

 と同時に、桜子が笑顔で振り仰いだが、直後、心配そうに顔を曇らせる。


「圭介、その声、どうしたの? カゼ?」


「あー、いや……」と、圭介は苦笑するしかなかった。


「昨日、カラオケで歌い過ぎた」


「なーんだ」と、桜子はほっとしたように表情をゆるめる。

 一方、薫子はぷははと笑っていたが。


 そのおかげかどうか、学校で一緒だった時の空気が戻って、圭介も変なドキドキ感から解放されていた。


「それより、いきなりびっくりするだろ。用事かなんかでこの近くに来たのか?」


「そういうわけじゃないんだけど、圭介に話があって。買物帰りに寄ってみたの」

「今日は桜ちゃんと一緒にバーゲンセール行ってきたんだよー。見て見て、いっぱい買っちゃった」


 二人の座席の横には、確かにいくつもの紙袋が置いてあった。

 デパートの名前から渋谷に行ったとすぐにわかる。

 ただ、このファミレスは同じ路線上とはいえ、藍田家をはさんで渋谷とは反対側にある。

 大量の紙袋を抱えながら『帰りに寄る』にはずいぶんな遠回りだ。


「おれ、今日がバイトの日って、知ってたっけ? いなかったらムダ足だろうが。

 来るなら事前に連絡すりゃいいのに」


「そこはほら、赤い糸で結ばれてるから、必ず会えるようになってるんだよー」


 薫子が小指を立てて意味ありげな笑みを浮かべる。


 本当に薫子と付き合っていれば、そういう理屈は通るのかもしれないが、ウソの付き合いに『運命の赤い糸』が存在するわけがない。


 圭介の気持ちを知っている薫子が、暗に桜子との『赤い糸』を匂わせるので、桜子にバレないかと冷や汗をかいてしまう。


「あ、で、話って何? おれ、仕事中だから、ゆっくり話できないんだけど」と、圭介は話をそらすように聞いた。


「バイトは何時まで?」と、桜子が聞いてくる。


「4時で1回終わって、飯食わなくちゃいけないから、5時半戻り。その間なら時間あるよ」


「じゃあ、4時までここで待っててもいい?」

「時間、大丈夫なのか?」


「うん、大丈夫。ここ、涼しいし、冷たいものでも食べようって話になってたから、ちょうどよかった」


「そういうわけで、ここは瀬名さんのおごりねー」と、薫子がニコニコしながら言った。


「薫子、実はおれにタカリに来たんか?」


「ちょっと、薫子、恥ずかしいこと言わないでよっ。圭介、冗談だからね」と、桜子が慌てたように間に入った。


「いや、いいって。この間、ケーキごちそうになったし、それくらいおごってやる」


「うれしー。やっぱ、瀬名さん、やさしいなー」

「もう、薫子ってば……」


 桜子は困ったようにため息をついて、ご機嫌な薫子を呆れたように見つめる。

 と、その時、突然涼香の声が背後で聞こえ、圭介の身体はびくりと震えた。


「ねえ、瀬名くん、紹介してもらっていい?」

次話、この場面が続きます。

涼香も入って、微妙な雰囲気に?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 涼香ちゃん……怖いなぁ(;´・ω・) こんな子ばっかりじゃない……けど、こういう子もいるよねぇ(;´Д`) 私だったら態度にでちゃいそうだけど、何事もなかったかのように接する圭介くん……大…
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