表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第2章-2 『友達』返上、まずは告白してみます。~赤い宝石編~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/320

1話 学費を稼ごう

第2章パート2、開始です。


この話から圭介の視点に戻ります。

 圭介は電卓に表示される数字を見て、バタリとちゃぶ台に頭を落とした。


 退学を回避する方法――。

 頭をどうひねったところで、解決法は一つしかない。

 桜子を好きだという事実を公にしながら青蘭学園に通うには、自分で学費を何とかすること。


 とはいえ、その『解決法』に頭を悩まされる。


 青蘭学園の学費は月15万円。

 このアパートの家賃の倍近い金額を毎月捻出(ねんしゅつ)しなければならない。


 天の思し召しと言うべきか、昨夜のバイトの帰り道、圭介は最寄り駅近くのファミレスで『アルバイト募集』のポスターを発見した。


『時給1000円 高校生可』


 週末に20時間働くとして、週2万円、月8万円。

 差引7万円が足りない。


 追加で平日の夜に5時間、1回働くことにしてみる。

 勉強する時間は減るが、週25時間になる。

 週2万5千円、月10万円。差引5万円。


(まだ足りねえ……)


 限界の限界まで働けるとして、平日2回にすれば週30時間。

 週3万円、月12万円。差引3万円。


(どうやっても足りねえだろうが!)


 そもそも、そこまで必死に働いてでも学費を払う価値のある学校なのか。

 圭介からすると首を傾げたくなる。


 確かにセキュリティー万全、冷暖房完備、備品はどれも傷ひとつないものばかりで、金をかけている学校だということはわかる。

 しかし一方で、ハイレベルな教師をそろえて、高度な教育を施しているかというと、「別に普通」としか言いようのないものなのだ。


 桜子の話によると、ほとんどの生徒は家庭教師を付けているので、学校で勉強する必要がないとのこと。

 青蘭に通う目的は、『高卒』の資格と上流階級の横のつながりを得ること。

 つまり、社交場というやつだ。


 そんな上流階級に縁のない圭介にとって、青蘭学園というのはほぼ無価値にしか思えない。


(いやいやいや、おれが行きたいのは青蘭じゃなくて、『桜子のいる高校』なんだって。そこ、カン違いしちゃいかんだろ!)


「なあ、母ちゃん、もしかして学費が月3万だったら払えるか?」


 圭介はちゃぶ台に突っ伏したまま、キッチンで夕食の用意をしている母親に声をかけた。


「なんで学費が必要なのよ? イトコが払ってくれてるんでしょ?」


 母親は返事をしてくれるが、背を向けたままだ。


「その……イトコともめて、学費はもう払わない、みたいな話になってさあ」


 正確にはそうなる予定なのだが、ここではそういうことにしておく。


「青蘭やめて、別の高校に行くの?」

「別の高校に行くくらいなら、高校やめて大検取る」


「冗談でしょ? 青蘭の授業料なんて払えるわけないじゃない」

「だから、おれ、バイトする。頑張って母ちゃんの負担分は3万円。それくらいなら行ける?」


「バイトって、そんなことしてたら、勉強する時間がなくなるじゃない。大学、行けなくなったらどうするの? 本末転倒でしょ。

 それこそ、バイトしなくてもいい程度の授業料の私立に編入して、普通に勉強する方が楽じゃない」


「大学なんて数年先のことは、その時になってからでいいんだよ。おれにとって、今が正念場なの。あの学校、どうしてもやめたくねえんだよ」


「どうして、青蘭がいいの? あんた、イヤイヤ通ってなかった?」

「今は事情が変わった」


 母親は手を拭くと、ようやく圭介を振り返った。

 その顔は明らかにヤバいものを見る表情だった。


「あんた、まさか藍田桜子さんと付き合いたいとか、変な妄想してるんじゃないでしょうね?」


「変な妄想って……。しょうがないだろ、好きなんだから付き合いたいって思ったって。

 頑張って何が悪いんだよ?」


 母親は圭介のいる居間までやって来て目の前に正座すると、真顔で見つめてきた。


「圭介、悪いことは言わない。目を覚まして、鏡の中の自分をよーく見てみなさい。

 あんたは自慢の息子だけど、天地がひっくり返っても、藍田桜子さんとお付き合いできる男ではない」


「断言するなよ! こっちは必死でやってんだから、やる気を削るようなことは言ってくれるな」


「それでおかしな夢から目を覚ましてくれるなら、いくらでも削ってあげるわよ」


「おれはくじけねえ! 絶対ダメってわかるまでは全力を尽くす! あきらめたりしねえ!」


 立ち上がって抗議する圭介を見上げて、母親はニコリと笑った。


「青春っていいわねえ。若いっていいわねえ」

「バカにしてんのか?」

「うん」

「母ちゃん……!」


「まあ、バイトでも何でも気が済むようにやってみれば? 一時的に熱くなってる頭も冷えて、現実が見えてくるでしょうよ」


「なら、月3万出すって約束してくれるか?」

「いいわよ、それくらいなら。なんとかしてあげる」


「約束破るなよ。じゃあ、おれ、バイトの面接行ってくる」


「もう連絡してあるの?」と、母親は驚いたように目を丸くする。


「当たり前だろ。せっかくの休みの時間がもったいねえ」


 そう叫びながら、圭介は家を飛び出した。




 人生初めてのバイトの面接は、圭介が思っていたよりスムーズに済んだ。


 学費を何とかしなくてはならないという切羽詰(せっぱつ)まった圭介の熱意。

 バイトが一人急に辞めて、人が足りなくて困っていたという相手の、これまた切羽詰まった状況。

 この二つの要因がうまくマッチしてくれたのだ。


 すぐにでも働いてほしいとのことで、面接をした後、圭介はそのまま働くことになった。


 新人の指導するのは、大学生のアルバイトの女性。

「よろしくね」と、顔を合わせた彼女、杉本(すぎもと)美咲(みさき)は化粧気のない顔にメガネ、無造作に束ねた髪と、地味でおとなしそうな印象を受けた。


 美咲はそんな印象とは裏腹に、テキパキと仕事の説明を進めていく。


 圭介はフロア係なので、まずは客を席に案内。

 注文を取って料理を運び、客が帰ったら片付け。

 次の客を迎える準備をする。

 細かい仕事はいろいろあるらしいが、当座はメニューを早く覚えて、サービスの仕方を覚える方が先らしい。


 ひと通りの説明が終わると、圭介はすぐに客の前に出された。


 とにかく、このバイトが安定すれば、授業料が払えるようになる。

 そうしたら、貴頼との契約は破棄できる。


 そして、その時、桜子に告白する。


 相手の返事がどうであれ、自分が桜子を好きだということを知ってもらいたい。

 今はそれがモチベーションになる。




 圭介は身も心も疲れ果ててバイト1日目を終えた。

 美咲は1週間もすれば慣れると言っていたので、そうあることを願いたい。


 店を出ながらスマホを見ると、薫子からの着信履歴が残っていた。

 昨日のことを桜子から聞いて、笑いものにでもしようと思ったのか。


 どうせ明日の朝には会うんだから、と放置しようとしたところ、薫子の方から電話がかかってきてしまった。


「ちょっとー、愛しのカノジョからの電話を無視するって、どういうこと?」


 開口一番、薫子の甘えたような一言は、圭介を脱力させるのに充分な威力を持っていた。


「誰が『愛しのカノジョ』だ? 用件なら手短に済ませてくれ。おれ、1日バイトで疲れてんだよ」


「バイト? 昨日もしてたじゃない。今日も実は桜ちゃんを監視してたの?」


「バカ言うな。普通のバイトだよ。ファミレスで始めた」


「へー。もしかして、稼いだお金であたしの誕生日プレゼントでも買ってくれるの?」


「アホか。だいたい、おまえの誕生日知らねえし」


「7月20日、もうすぐでしょ? ちなみに桜ちゃんは4月5日」


「毎度ありがとよ、情報をくれて」


「冗談はさておき、学費でも稼ぐつもり?」

「桜子の誕生日も冗談なのか?」


「それはホントだよー。もしかして、イトコにバレて、契約を打ち切られちゃったの?」


「それはまだ。けど、遠くないうちにそうなることを想定して、今から少しでも稼いでおこうと思って。桜子には言うなよ」


「わかってるよ。話したら、イトコのことまでバレちゃうもん」

「そういうこと。今はその時じゃないからな」


「なら、瀬名さんは桜ちゃんにどう言い訳するつもり?」

「言い訳? 単純に夏休みに旅行したいとかでよくない?」

「ウソつくなら、旅行先とか予算とか、ある程度決めておいた方がいいよ」


「……了解。ところで、おまえの用件は?」

「今の話でわかったから、もういいや。おやすみー」


(おい……)


 一方的に切られたスマホの画面を見て、圭介はため息をついた。


 桜子に話を聞いた薫子は、当然貴頼と圭介が鉢合わせしたことも知ったはずだ。

 そこから圭介が桜子を連れて逃げたと聞いて、貴頼に圭介の気持ちがバレたのか確認したかったのかもしれない。


 興味本位なのか、心配してのことなのか。

 正直、薫子のことはよくわからない。


(もういい。今日はいろいろ考える気力なし。マジで早く寝たい)

次話はこの翌日の話。

圭介は桜子と2人目の呪いの被害者について調査に出かけていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] どっちも家族には素直なのね(っω<`。) 圭介くん、自立してて偉いし正論言いながらも子供の好きにさせてくれるお母さんも流石ね!(๑•̀ㅂ•́)و✧
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ