1話 人魚姫の思い出(回想) ★
圭介が5歳の時、保育園のお楽しみ会で劇をやることになった。
圭介にあてられた役は『王子様』。
周りの男の子たちは恥ずかしいからと嫌がっていたが、実際は1番カッコいい王子役を狙っていたことを、圭介はよくわかっていた。
だから、圭介は自分が選ばれた時、「えー、やだなあ」とか言いながら、実は「やったぜ」と思っていた。
しかも、お姫様役はクラスで1番かわいいユメコちゃん。
男の子たちから羨望の眼差しを受けるのも、もちろん悪い気分ではない。
しかし、圭介は題目の『人魚姫』という話を知らなかった。
海で事故に遭った王子は人魚姫に助けられたというのに、岸で見つけてくれた姫に助けられたと思いこんで、恋に落ちてしまう。
人魚姫は自分の美しい声と引き換えに人間になって、恋をした王子を追いかけるが、結局、愛を伝えるすべもなく、かといって人魚に戻るために王子を殺すこともできず、最後は海の泡となってはかなく消えてしまう物語。
ユメコちゃんは当然主役の『人魚姫』。
圭介の『王子』とはハッピーエンドにならない設定。
最悪なことに、『別の姫』をやるのはクラスで1番凶暴なアカネちゃん。
圭介は何度も蹴飛ばされた経験を持っている。
最悪だ、と圭介は台本を読んだ後、頭を抱えた。
「だいたい、なんでこの王子はこんなにバカなんだよ! 気づけよ、アホ! お前の相手は間違ってるだろ!」
そう叫ばずにいられなかった。
次話から本編スタート。
圭介のライバルになるキャラ(アイドル系チャラ男?)が登場です!