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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
番外編 人形に『愛』を知ってもらいます。

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25話 健全すぎるのが変な感じ

前話の続きです。

 ひまわり園を出発してからは、予定通りお台場に向かってもらった。


 お昼は公園に来ていたワゴンのホットドックとジュース。

 天気がいいので海に面したベンチに座って、潮風に吹かれながらのランチは悪くない。


 ホットドックをかじっている妃那も満足そうな顔をしている。


「そういうわけで、今日は財団からのお礼ってことで、1日君を接待するよ」


「接待? デートではなくて?」


「同じようなものだけど。君に1日楽しんでもらうのが目的」


「あら、すでに楽しんでいるわ。ひまわり園も楽しかったし、ホットドックもおいしいし」


 そう言って妃那が笑顔を向けてくるので、彬も「よかった」と、ほっとしながらニコリと笑った。


「この後は?」


「ゲームセンターとか、行ったことある?」


「ないわ」


「すぐ近くにあるから、そこで遊ぼうかと思ってたんだけど。どう?」


「ええ、ぜひ行ってみたいわ」


 公園からゲーセンまで手をつないでてくてく歩いて行った。




 中に入ると、妃那は辺りを見回して、予想以上に好奇心に目をきらめかせていた。

 真っ先に目に入ったUFOキャッチャーに向かって駆けていく。


「ねえ、ねえ、彬。このクマ、髪留めと同じクマでしょう?」


 妃那はクマの巨大なぬいぐるみがゴロゴロ入ってるガラスケースに顔をくっつけている。


「うん、そう」


「これがほしいわ。買えるの?」


「いやいやいや、買うんじゃなくて、ゲームの景品。やってみる?」


「どうやるのかわからないわ。彬がやって見せて」


「え、僕、こういうの下手なんだけど。今まで1度も取れたことないし」


「いいから!」


 妃那にせかされて、とりあえず小銭を投入。

 クレーンを動かして、一つだけ孤立しているぬいぐるみを狙ってクレーンを動かした。


 位置は悪くなかったが、クレーンで持ち上げようとすると、重みに耐えかねず、クレーンから外れて落ちてしまった。


「てな感じで、簡単には取れないということ」


 クレーンが元の位置に戻ってきて、妃那を振り返ると、ガラスケースの中を見つめて、じいっと目を見開いている。


(……なんか、考え中?)


「今のでわかったわ」


 妃那は目を覚ましたように彬を振り返る。


「何が?」

「クレーンの強度とぬいぐるみの重心。これなら、取れるわ」


「え、ほんと?」


「ほら、貸して。わたしがやるわ」


 妃那は彬をドンと突き飛ばして、ボタンの前に立つ。


 やる気満々に準備をしている妃那がなんだかおかしくて、笑ってしまった。


「じゃあ、お金入れるよ?」


 妃那はじいっとガラスケースを見つめたまま、最初のボタンを押す。


「ここよ。え、ひどいわ。ボタンと止まるタイミング、ずれてるじゃないの。なんなの、このレスポンスの悪さは! 誰がこんな機械の設計しているのよ!」


 空のクレーンが戻ってくるのを見て、妃那はご立腹だった。


「そんな、怒っても……。そういう機械なんだし」


「いいわ、もう1回。今のでボタンと止まるまでの時間差は計算できたから、次は外さないわ!」


 妃那がムキになっているので、もう一回お金を入れてやった。


 妃那は今度はぎらぎらした目でクレーンを操作している。


「そうよ、今度はタイミングばっちりだわ。最初のボタン、位置はパーフェクト。次は……ええ、いいわ。この位置よ!」


 二つ目のボタンを放すと、クレーンが目当てのぬいぐるみに下りていく。


 微妙に外れているところに向かっているような気がする。

 が、クレーンは胴体をはさんでそれから滑って、クマのあごにひっかかり、そのまま引きずりながら戻ってくる。


 ぽろりと穴に落ちた。


「やったわ!」


 妃那が飛び跳ねて喜んでいる。


「マジで……?」と、彬は唖然としてしまった。


 それから、妃那は取り出し口からぬいぐるみを引っ張り出し、自慢げに彬に見せた。


「どう、すごいでしょう!」


「うん、すごい。僕、そんなでっかいの取る人、初めて見た。しかも、たった2回目で」


「ふふ。わたしを誰だと思っているの? これくらい、簡単に計算して取れるわ」


「おみそれしました」


「さあ、次に行きましょう。あ、あれはプリクラというものでしょう? 一度撮ってみたかったの。一緒に撮りましょう」


 妃那はぬいぐるみをわきに抱えて、空いた手で彬をぐいぐい引っ張っていく。


「いろいろあるのね。どれがいいのかしら」


 妃那はいくつも並ぶブースを端から見て歩いている。


「ねえ、彬。こっちとこっちどっちがいい? こっちはカップルポーズ指定で、こっちはたくさんお絵かきができるらしいのだけれど」


「君の好きな方でいいよ」


「では、両方。まずはカップルの方で」


「両方撮るの?」


 ブースに入ると、妃那はまず中をきょろきょろ見回し、映し出される画面やカメラの位置をチェック。


「いいわ。始めましょう」


 妃那が言うので、コインを投入。

 じきに音声でポーズの指示が飛んでくる。


 二人で並んでオーソドックスに、はいポーズ。

 後ろからハグして。

 二人で向き合って両手をつないで。

 背中合わせで。

 おんぶして――などと次から次へと指示されるので、なんだか狭い室内でバタバタとしていた。


 最後にお姫様抱っこまで言われ、彬は「ええー」と叫んでしまった。


「ほら、早く!」と、妃那にせかされ、よいしょと抱き上げてポーズ。


「これ、全部の写真、まともに撮れてるの……?」


 ものすごい忙しさの中で、ポーズを作る方が先で、まともに笑顔になっていたかどうかも思い出せない。


「ほら、彬もこっちに来て。背景を選ぶのよ」


 画面の前のイスに座って、ペンを片手に妃那が手招きする。


「よく知ってるね」


「外に書いてあったわ」


 二人でああだこうだ言いながら背景を選び、今日の日付や名前を入れていく。

 気になっていた顔は思ったよりひどくはなかった。


 出来上がった写真はそのままスマホに送ってもらって外に出た。

 そのまま、二つ目のブースへ。


 そこでもポーズや視線まで指定され、バタバタとすることになった。


 プリクラを終えて、ゲームコーナーに向かっている間、妃那は届いた写真を見て、ご満悦だった。


「この間投稿された写真より、ずっと素敵に写っているわ」


「投稿されたって、あの隠し撮り写真?」


「ええ。わたし、とても気に入ったのよ」


「ええー、どこが?」


「どうして? ポーズもだけれど、構図とか背景の感じとか、なかなかきれいだったと思うけれど」


「僕、そんなにじっくり見てなかったし……」


「気に入ったから、自分のスマホにもダウンロードしたわ。彬にも送ってあげましょうか?」


「え、いいよ。キスしてる写真とか恥ずかしいし……」


「彬は恥ずかしがり屋さんなのね。さっき撮った写真も、何枚か恥ずかしそうな顔をしていたわ」


「そりゃ、いきなり抱きしめてとか言われても……」


 妃那はふふふっと笑って、彬の手を引っ張った。


「次はダーツをやってみたいわ」


 そんな調子で、妃那は始終テンションが高く、彬を引っ張り回してくれた。




 夕食はそのまま館内のフードコートへ行って軽食にしたが、妃那ははしゃぎ過ぎたのか、ぐったりと疲れているようだった。


「大丈夫? 疲れたんじゃない?」


「わたし、あまり体力がないみたいで」


「休憩なしで遊びまわるから。ちょっとここで休憩して、遅くならないうちに帰る?」


「うーん。ビリヤードもやってみたいし、ボウリングもまだよ」


「一度に全部やろうとしなくても……。また来ればいいだけのことだし」


「それ、今日2度目ね。圭介にも言われたことがあるわ。わたし、せっかちなのかしら」


「あれもこれも1度にやろうとするからじゃない?」


「頭の中ならいくらでも1度にいろいろなことができるのに、身体というのは不便なものね」


「けどまあ、少しずつ体力はつけていった方がいいとは思うけど。まだ若いんだし」


「わたし、平均的な高校生の体力がないのかしら」


「見るからに」


 妃那はショックを受けたように目を見開いた。


「知らなかったわ」


「自覚なかったんだ……。ていうか、ほんと子供だよね。子供ってさあ、夢中で遊んで、いつのまにかコテッと寝ちゃうんだよ。体力温存とかできないの」


「失礼ね! わたしはまだ寝てしまったりしないわ!」


 ムキになる妃那に思わず笑ってしまった。


「でもまあ、楽しんでくれたみたいでよかった」


「ええ、とっても楽しかったわ」


 それから車を呼んで迎えに来てもらう間、撮った写真を見たりしながらゆっくりと過ごした。




 今日1日妃那と過ごして、やはり奇妙だと思った。


 楽しかったし、会話も弾んでいて、それはいつもと変わりないのだが、妃那の言葉に一切性的なものが入ってこなかった。


(生理期間中って、この人でも人畜無害になるのかな。パブロフの犬にもならなかったし)


 1日、初々しいカップルのように過ごして、いかにも普通のデートだったのが、それがかえって他人行儀に感じなくもなかった。


 妃那との距離が遠のいたような気さえする。


(性欲ないならないで、圭介さんにはベタベタして平気なのに)


 結局、自分はそういう存在ではないのかと思ってしまう。


(この人からすると、恋には程遠い感情なのかな……)


 帰りの車の中、妃那が景品のクマのぬいぐるみを抱いて、こっくりこっくり居眠りをしているのを見ながら、彬はそんなことを思っていた。


 車が自分の家に着いたので、一応、妃那に声をかける。


「ねえ、僕の家に着いたけど」


 妃那ははっとしたように目を開いて、彬を見た。


「わたし、寝てしまっていた?」


「うん。ぬいぐるみ抱っこして、子供みたいにすーすー寝てた。かわいかったよ」


「また子供って言う」


 むうっと妃那は不満げに口をとがらせる。


「じゃあ、また」


「おやすみなさい」


 あっさりと別れるのもしゃくだったので、妃那の腕を引き寄せ、唇を押し付けた。


「おやすみ」


 驚く妃那に彬はにっと笑ってみせて車を降りた。

次話は数日先、妃那が三回ずつ婿候補とのデートを終えた後の話になります!

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