23話 デートの行く先は決まった?
あさってのデートまで日がないので、彬はその夜、寝る前に桜子の部屋を訪ねた。
桜子は勉強机に向かって、勉強中だった。
「ごめん、邪魔して」
「どうしたの?」と、桜子はイスをくるっと回して振り返る。
「ねえ、姉さんはデートって、どこに行くのが楽しい?」
「あたし? そうだねー。圭介と一緒なら、どこでも楽しいけど」
「どこでもって言われても……」
「街をプラプラでも、1日電車で遠出するのも、パーティに一緒に行くのも。要はなんでも」
「そういうものなの?」
「だって、デートって1番の目的は、好きな人と一緒にいることでしょ?」
「けど、場所によっては退屈したりしない?」
「それはある程度二人で決めたりするし、二人とも興味ないところには行ったりしないけど。妃那さんとデート、しょっちゅうしてるのに、今さらどうしたの?」
(デートっていっても、ホテルの部屋にいるだけだったから……)
――とは言えない。
「いや、うーん、いつもはあっちが行きたいっていうところについて行ってた感じだったんだけど、今度は僕が行きたいところがいいって言われて」
「妃那さん、好奇心旺盛みたいだもんね。彬はカノジョができたら、一緒に行きたいところってなかったの?」
「考えてもみなかったし」
「彬が好きなことっていうと、スポーツとか? プールとかフットサルは? 圭介とも一緒に行ったけど、面白かったよ」
「……あの人、運動できないと思うよ」
「……だよね。彬は友達とどこで遊ぶの?」
「それは普通にカラオケとか、ゲーセンとか」
「妃那さんは行ったことあるの?」
「もしかしたら、ないかも。今まで行ったって話、聞いたこともないし」
「それなら、お台場は?」
「なるほど。あそこなら見るところもあるし、ゲーセンもあるし。そうしてみようかな」
「いつ行くの?」
「あさって」
「楽しみだねー。頑張ってね」
「ありがと」と、彬は自分の部屋に戻った。
そして、財布の中をのぞく。
(まあ、行く先は決まったとして、問題はこっちだよな……。何気に小銭も使うだろうし)
先月、ホワイトデーのお返しのおかげで、現在ためていた貯金はゼロ。
今月のこづかいだけでは、少々不安になる。
(僕が行く先選んで、お金出してもらうわけにいかないよな……。せめてワリカン)
仕方ないので、翌朝、母親を捕まえて、手を合わせた。
「母さん、お願い。おこづかい、前借させて」
「何に使うのよ?」と、母親は眉を上げる。
「明日のデート代。月末だからかなりピンチで……」
「お金が足りないって、どこに行くつもりなの?」
「お台場で遊んでくる予定なんだけど」
「あら、そう。いいわよ」
「へ?」
あまりにあっさりオーケーされて、彬の方が拍子抜けした。
そして、財布から大金2万円を出してくれる。
お金にうるさい母親が子供に渡す金額ではない。
「余ったら返しなさいよ。で、使ったら全部領収書をもらってくること」
「……なんで?」
「ほら、妃那さんに寄付してもらったでしょ? お礼状はとりあえず送ったけど、改めて何かお礼でもとは思っていたの。あんたが接待してくれるなら、ちょうどいいわ」
「つまり、これはおこづかいじゃなくて、財団の接待費?」
「そういうこと。あたしの代わりにちゃんとお礼言ってよ」
「で、ゲーセンとかでいいの?」
「いいんじゃない? 相手は高校生なんだから。お酒を飲みに連れていくわけにもいかないし」
「う、うん、わかった……」
「じゃ、そういうことで、よろしくねー」
面倒なことを片付けたと言わんばかりに、母親は行ってしまった。
(……とりあえずの軍資金ができてしまった)
彬はなんだか、狐につままれた気分だった。
次話、接待デート(?)のスタートです。
夕方までに、続けて投稿します!




