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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
番外編 人形に『愛』を知ってもらいます。

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16話 なんでドキドキするの?

前話からの続きです。

 彬が妃那の手を引っ張りながら街をずんずん歩いていると、自分を呼ぶ声に気づいた。


「ねえ、ねえってば。彬!」


 立ち止まって振り返ると、妃那が息を切らせていた。


「どうしたの?」


「どうしたの、ではないわ! そんなに早く歩かれたら、わたし、ついていけないわ!」


「あ、ごめん。気づかなかった」


 彬はつないでいた手をぱっと放した。なんだか先ほどとは違った恥ずかしさがこみあげてくる。


(僕、考えてみたら、姉妹以外、女の子と手をつないで歩いたことなかった!)


「……どうしたの? もしかして、具合が悪いのかしら? 顔が赤いわ」


 妃那が顔を近づけてのぞき込んでくるので、余計に顔が赤くなってしまう。


「な、なんでもない! ちょっと恥ずかしかっただけ。ほら、行こう。今度はゆっくり歩くから」


 彬はそう言って歩き出した。その隣を妃那がついてくる。


「恥ずかしいって、何が?」


「何がって……。人前で手をつなぐとかしたことなかったから」


「彬はイヤなの?」


「別にイヤじゃないよ。単に慣れないっていうだけで」


「なら、はい。今日はボディガードもいないし、手をつないでいた方が安心だわ」


 妃那はそう言って彬の手を取った。


「え、う、うん……」


 数えきれないくらいに手をつないだことがあるのに。

 身体の隅々まで触って、何度も抱いたことのある相手なのに。


 今さらこんな風に恥ずかしいなどという感覚がやってくるとは思ってもみなかった。


 それもこれも街ゆく人がチラチラとこちらを見てくるからだ。


(ねえ、なんか、僕たち変なの? もしかして、カップルで歩いていると、こうやって人に気にされるものなの?)


「……ねえ、彬ってば聞いている?」


「え、なに?」


「やはり変よ。まだ恥ずかしいの?」


「なんというか、やたら人が見てこない? 気になって……」


「そうね。お父様と一緒に歩いていても、よく人に見られるわ。みんな人間観察をしているのではないかしら」


 そこまできて、ようやく気付いた。


(……この人、外見は半端ない美少女だった!)


 街ですれ違う人が振り返ってもおかしくない。そんな相手と手をつないでいたら、一緒に歩いている自分も注目される。


 思わず手を放そうとして、そして、ためらってしまった。


(この人と恋人同士になるって、こういうことにも慣れなくちゃいけないってこと? ていうか、何かの試練?)


 妃那が不思議そうな顔で見つめている。それをじいっと見返して、彬は気持ちを切り替えるように息を吐いた。


「もう、大丈夫。行こう。どこか見たいところでもあった?」


「……本当に大丈夫なの?」


「大丈夫。ちょっとデートって意識しすぎただけ」


「あまり意味がよくわからないわ。デートというのは意識するものなの?」


「人によると思うけど。僕、こういう風に女の子と二人で歩いたことないから、ちょっと緊張する。慣れれば平気なんだろうけど」


「どうして緊張するのかしら。まさか、危険が迫ってきているの? ボディガードを付けておいた方がよかったのではないかしら」


「いやいやいや、そういう緊張じゃないから。……あれ、じゃあ、どういう緊張かって言われても、よくわかんないんだけど」


「それではわたしもよくわからないわ」


(そもそもなんで緊張したりするんだ? 人目が気になるから?)


「……君にドキドキしてるのかな」


「わかったわ。興奮しているのね。なら、すぐにホテルに戻りましょう。ガマンはよくないわ」


「いやいやいや、そういうドキドキじゃないから!」


「あら、違うの?」


(……あれ、違わなくもない? ドキドキするということは、手に触れて、その先を期待するから?)


 小さい頃、桜子に抱きしめられたり、頬ずりをされると、ただ心がほんわかと温かくなって、幸せな気分だった。

 けれど、思春期を迎えてからは、触れられるとドキドキと心臓が高鳴るようになった。


 それはつまり、もっと触れたいという欲求、その先に性欲を満たしたいという欲求があったからではないのか。


 彬は立ち止まって改めて妃那を見つめた。


 彼女相手にドキドキすることがなかったのは、そんな感情を抱く前に、性欲を発散してしまったからではないのか。

 だから、桜子とは違う『好き』になってしまったのではないか。


「僕、やっぱり、君に恋してるみたい」


「わたしにドキドキするから?」


「うん。君は違う? 僕にドキドキしたりしない?」


「ドキドキすると恋なの? わたしはあなたを見ると、興奮してセックスしたくなってしまうけれど。パブロフの犬の話をしたでしょう?」


「他の男を見てもそうならない?」


「ないわ。それはあなたがわたしの性欲発散の相手だと認識しているからじゃないかしら」


「じゃあ、他の人ともしてみるといいよ。同じことが起こるのか、試してみればいい」


「彬はイヤだと言ったでしょう?」


「言った」


「わたしは彬が嫌がることはしたくないわ」


「けど、その先に『正解』はあると思うから。そのためだと思えば、嫌ったりしないよ。比べてみるなら、それが一番わかりやすいんじゃない?」


「わかったわ」


 妃那はうなずいたけれど、どこか不安げな顔をしていた。


 彬は手を伸ばして、その頬をそっとはさんだ。


「そんな顔しなくても大丈夫。約束破ったりしないから。君の1番好きなことをするだけなんだから、もっと喜んでいいと思うよ」


「約束よ」


 彬はうなずいてやさしくキスした。


 唇を放すと、妃那は頬を赤く染めて、潤んだ目で自分を見つめていた。


「部屋、戻ろうか。僕ももっと触れたいから」


 妃那はコクンとうなずいた。

今日はもう一話投稿します!

次話は恒例(?)藍田家食卓の会話です。

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