表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
番外編 人形に『愛』を知ってもらいます。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

291/320

5話 うちの親はガメツすぎる

桜子視点です。

この番外編、唯一かもしれません……。

 その夜、藍田家ではいつものように7時に家族全員がそろった。

 彬だけはギリギリ飛び込んできて、何もなかったように座る。


「あ、で、ねえ、お父さん」と、薫子が声をかける。


「なに?」


「もらい物したら言うように言われてるから、一応言うけど、妃那さんから血を分けてあげたお礼って、特許をもらったの」


「は? 特許? 礼に?」と、父親は怪訝(けげん)そうな顔をする。


「驚くよねー。これなんだけど」


 薫子はプリントアウトしてきたものを父親に渡す。


「調べたら特許申請にかかる費用は1万5千円で、あたし、中学生で収入ないから、たぶんそれ以外の費用はかかってないと思うんだ。返すにしてもどうしていいかわかんないし、もらっておいていい?」


 父親は食べるのもの忘れて、受け取った紙の束をめくっている。


「これ、おまえが考えたの?」と、父親は読みふけりながら聞いた。


「うーん、アイディアはあたしみたいだけど。もろもろ細かいことは妃那さんが全部やったみたい。あたしにもわからないこと、いっぱい書いてあるし」


「けど、あのお嬢さんの名前が入ってないけど?」


「あたしの特許だから好きにしていいって」


「でかした、薫子! この特許、数億の価値があるぞ」


 父親は興奮したように顔を上げた。


「は?」と、薫子は首を傾げる。


「ほんとに、儲かる特許なの!? 億万長者?」と、桜子も思わず身を乗り出してしまった。


「いや、まあ、うちに金が入ってくるっていうより、うちの会社で製品化して、売れば(もう)かるって話なんだけど」


「音弥、製品化したら、売れそうなものができるってこと?」と、母親が父親の手元をのぞき込む。


「ああ、間違いない。センサーの構造と画像の読み取りシステムは汎用性(はんようせい)があるから、センサー付きの製品のどれにでも搭載可能。たとえば、自動販売機なんかのお札の読み取りセンサー。政府とコラボして標準規格が取れたら、販売台数は半端ない」


「あら、うちの株価も上がっちゃうレベルかしら」


 両親がウヒウヒと顔を崩しながら難しい話をしているので、桜子は終わるまで黙々とご飯を食べていた。


「要は製造設備のある工場とかないと、その特許を持っていても意味がないってことなんでしょ? そういうことなら、お父さんにあげるよ。会社で使って」


 隣で話を聞きながら、同じくご飯を食べていた薫子が言った。


「本当か!?」と、父親は目をキランと輝かせる。


「その代わり、おこづかいを今の2倍にして」


 薫子の発言に、父親は母親の機嫌をうかがうようにちらりと顔を見る。


「いい?」


「まあ、大金を持たせるわけにはいかないから、それくらいならいいでしょ」


 お財布の口の固いはずの母親があっさりとうなずくと、彬が憤懣(ふんまん)やるかたない声を上げた。


「ズルい、薫子だけ! 僕だって、高校生になったんだから、もう少しおこづかい増やしてほしいのに!」


「彬くん、妃那さんに全部お金出してもらってるんだから、いいじゃない」


「自分でほしいものだってあるんだよ!」


「あたしももう少し上げてほしいなー。デート代、結構かかるし」と、桜子も便乗してみた。


「音弥ー? それ、本当に儲かるんでしょうねえ? 当てが外れたなんてこと、許さないわよ?」


 母親がじいっと父親を見つめる。


「大丈夫だって。明日、さっそくプロジェクトを立ち上げるつもりだし」


「わかったわよ。じゃあ、薫子は2倍で、おまけで桜子と彬は2割増し」


「やったあ」と、子供たち3人で手を叩き合った。


「ああー、やばい! 剣道遅れる! 行ってくるねー」


 彬はあわてて飛び出していった。


「あーあ、妃那さんの婿候補のこと、聞いてみようと思ってたのに」


 桜子はそれを見送って、ため息をついた。


「なに、婿候補って?」と、母親が興味津々に聞いてくる。


「ほら、圭介が婚約しちゃったから、妃那さんには新しい婚約者が必要になるでしょ?」


「まあ、神泉の方としては当然よね」


「で、この新学期から婿候補っていう男の子が同じクラスにいるのよ。しかも、3人も」


「あら。向こうもいよいよ本格的に動いてきたのかしら」


「今日見た限りでは、妃那さんは相手にしてる様子はなかったし、彬とも別れるつもりないみたいだったけど、彬の方は大丈夫なのかなーって思って」


「今日も会ってきたみたいだけど、元気そうだったから、大丈夫なんじゃない? ちなみにどんな男の子たちなの?」


「まだあいさつしたくらいだから、何とも言えないけど。見た目はイケメンまでは行かないけど、そこそこじゃない? 普通の家庭育ちみたいだし、どこにでもいる一般的な高校生って感じ。あの冷たーい妃那さん相手に、頑張って声をかけてたよ」


「そりゃ必死にもなるよねー。うまくいけば、神泉家当主の婿。超逆玉でしょ。そうでなくたって、性格はともかく、妃那さん、超美人で巨乳ちゃんだから、男の子はそそられちゃうだろうし」


 薫子がウヒヒと笑いながら言う。


「確かに。同族婚の神泉だから、今まで誰も近づけなかったけど、あの男の子たちは問題ないんだよね」


「彬くんにとっては、強敵登場。妃那さんがちょっとでも気に入ったら、即婚約だよ?」


「正念場だよねー」


「ああでも、彬、真面目に頑張って、婿に行ってくんないかなー」


 父親がどこか夢を見ているようなぼうっとした顔で言った。


「お父さんも応援してあげるの?」


「だって、あのお嬢さん、腹が立つほどすごいから」


「うん?」


「実はここのところ、ガンガン特許申請しててさあ。うちで開発してた製品やら何やら、特許取る準備してたのに、端から先に取られちゃって、全部抵触(ていしょく)するんだよ。こっちの取れる方法は、使用料を払うか、開発を中止するか。毎度毎度、煮え湯飲まされてるんだよな。あの湧き水のように出てくるアイディア、逆にほしいよ」


「彬くんが婿になったら、あたしみたいにポーンと特許くれたりするって?」


 薫子が面白そうに目を光らせる。


「ダメ?」


「それもアリなんじゃない? 二人が本当に愛し合っているなら、タナボタでオマケを期待したって」と、母親は笑う。


 そして、「あたしも寄付してほしいもん」と、真顔で続けた。


「お母さん、最初からそれを狙って、彬を()きつけてたね……」


 うちの親は何気にがめつい、と桜子は思った。

次話、彬が妃那の父親と初(?)対面です。

さて、どんな話になるでしょうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ