3話 金と権力はこういう時に使おう
1話と同じ日、この話は圭介周りになります。
2年生になる時にクラス替えが行われ、圭介は妃那と下宿人3人と同じクラスになった。
明らかに神泉の力が働いていると思われるクラス替えだ。
そして、もちろん桜子とも引き続き同じクラス。
妃那が智之に「圭介と同じクラスでなければイヤ」と、ワガママを言った時に、圭介も「あ、ついでにおれも桜子と同じクラスにしてください」と、ちゃっかりお願いしたのだ。
これから1年、同じクラスかどうかで、全然過ごし方は変わってくる。
なにせ、5月には修学旅行があるのだ。
同じクラスの方が都合がいいに決まっている。
というわけで、家の金と権力をありがたく使わせてもらった。
普通のサラリーマン家庭で育った3人の下宿人たちが、青蘭学園でどう扱われるのか――
圭介はそんな心配をしていたのだが、妃那の婿候補とわかると、クラスメートたちもチヤホヤとまではしなくても、イジメの対象にしたりしなかった。
要はクラスメートとして仲間入りをさせたのだ。
おかげで、2年生からの編入とはいえ、わりとなじんでいるようだった。
家では縮こまっていた3人も、学校では普通の高校生。
妃那がたとえ現人神と称されようと、婿になるためには射止めなければならない。
だから、一生懸命自己アピールをしたり、あの手この手で気を引こうと頑張っていた。
智之の作戦は成功らしい。
もっとも妃那は相変わらず学校では圭介にベッタリで、3人には見向きもしない。
それどころか、一緒にお昼を食べようと誘われても、「邪魔だわ」の一言で追い払ってしまった。
「なんだか、圭介の家、また大変なことになってない?」
昼休み、桜子と妃那、中等部からやってきた薫子と、いつものメンバーで食事をしている時に、桜子が聞いてきた。
「まあ、おれはあんまり関係ないし」
「あら、圭介がお父様に賛成したのでしょう? 関係ないとは思えないけれど」
妃那に話した覚えはないのだが、彼女に『なんで知っているんだ?』と聞くほどムダなことはない。
(伯父さんもわざわざ言ったとも思えないし)
「ていうか妃那さん、彬は? 婿候補なんか来ちゃって、どうするの?」
「何も変わらないわ」
桜子の問いに、妃那はあっさり答える。
「そう?」
「それより、薫子。遅くなったけれど、圭介を救ってもらったお礼、先ほどメールで送ったわ」
圭介が出血多量で死にかけた時、伯父の智之の外にも、薫子が同じ血液型だったので、血を分けてもらったのだ。
「え、別にお礼なんていらないよ。桜ちゃんのためでもあったし」
「なに、妃那からのお礼って? おれも改めてしなくちゃいけないと思ってたんだけど」
「大したものではないわ」
薫子は自分のスマホを開いて、確認している。
「……特許?」と、薫子は首を傾げる。
「ええ。前に家に来た時にお札の読み取りセンサーを解析したでしょう? あなたのアイディア、出願しておいたのよ。昨日、審査が降りて受理されたわ。お礼はそれにかかる費用だけだから、ほんの気持ちよ」
「……あたし、何か言ったっけ? 全然覚えてないけど」
「ほら、自販機でお札が1回は通らなくても、2回目に通るのはセンサーがおかしいのではないかと言っていたでしょう?」
「それは言った」
「だから、入れ方が悪かったとしても、きちんとしたお札なら読み取りのできるセンサーを作ってみたのよ。それなら、ダメなものは完全にはじかれて、何度入れようと受け付けないシステムになるわ」
「ええー、それ、あたし、関係なくない?」
「あら、発明はすべてアイディアから生まれるものよ。思い付きこそ大切なのだから、あなたのものでしょう?」
「う、うーん、そういうことなら、ありがたくいただいておくけど」
「よかったわ。受け取ってもらえて」
「ていうか、あたしの名前で登録されてるから、受け取らないわけにいかないでしょ?」
「気持ちの問題よ」
「でも、薫子、特許なんてすごいじゃない。もしかして、特許使用料とかもらえちゃうんじゃない? で、億万長者」
大グループの御令嬢とは思えない桜子の発言に、圭介はこっそり苦笑してしまう。
(ほんと、貧乏生活、ていうか、節約生活がしみついてるよな……)
「桜ちゃーん。世の中にどれだけ特許があって、いくつ儲かる特許があると思ってるの? ほとんど使い物にならないゴミだよ?」
「えー。そうなの?」
「そうね。誰かに買ってもらうか、使ってもらう人がいない限りはゴミ同然。あなたの特許なのだから、好きなようにするといいわ」
妃那と薫子は、頭のレベルが近いせいか、よく意見が一致する。
最初は完全に犬猿の仲だったのだが、今では仲の良い友達になっていた。
「微妙に形のないお礼だよな。おまえにしてはけっこう、気が利いてるじゃん」
「あら、圭介に言われるとうれしいわ」と、妃那は笑顔を見せる。
「おれもなんか考えないとなー。薫子、何か欲しいものないのか? してほしいこととか。命救ってもらったんだから、できる限りのことはするぞ」
「だから、もういいよー。こっちは献血したのと大して変わりないんだから。『エトワール』のガトーショコラくらいで充分」
「こら、薫子!」と、桜子は恥ずかしそうに肘を突っつくが、圭介は笑ってしまった。
相変わらずいいタイミングで、薫子は気の利いたことを言う。
明日は桜子の誕生日。お昼にケーキがあってもおかしくない。
「よし、決まり。『エトワール』のガトーショコラな。明日の昼は、それで桜子のプチ誕生日会をしよう」
「ほんと?」
「いいじゃん。本番前にちょこっとみんなでお祝いも」
当然、放課後は誕生日デートを入れている。
「へへ。それはうれしいかもー」
桜子は幸せそうな笑顔を見せてくれた。
「でしょー? あたしも食べたかったケーキを食べられるから、超楽しみ」と、薫子も無邪気に笑った。
次話はこの日の放課後、彬の方の話になります。
妃那から爆弾発言が……!?




