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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
番外編 人形に『愛』を知ってもらいます。

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1話 あいさつくらいしようか?

番外編スタートです!

毎週火・金曜日に1~2話ずつ更新していきますので、よろしくお願いいたします<m(__)m>


この1話目は本編のおさらいも入っていますので、内容を覚えている方はさらっと読み流していただければと思います。


彬視点です。

 四月、新学期の始まり――


 彬は高校生になったのだが、中高一貫の青蘭学園は、校舎が同じ敷地内にあるので、登校する場所は変わらない。

 ただ建物が変わるだけだ。

 学年のメンツも同じ。


 クラス替えはあったが、大半が顔見知りで、何の新鮮味もなかった。


「おー、彬、また同じクラスだな」

「彬くーん、一緒のクラスでうれしい!」


 そんなこんなで新学期初日、彬は顔なじみの生徒に囲まれていた。


 彬は中学時代、クラスでのカーストは常にトップ。

 高校に入っても変わらないと思っていたが、幼なじみの杜村貴頼が同じクラスになったことで、想定外の状況になった。


 貴頼もカーストトップだったのだ。


 そんな二人が同じクラスになったので、元のクラスメートは、それぞれの元ボスに付く。

 残りは個人的知り合いや過去のクラスメートという理由でなんとなく分かれ、完全に二つのグループに分断された。


(僕、別に争う理由ないんだけどな……)


 正直、彬は縄張り争いには興味ない――が、貴頼本人には大変興味がある。


 貴頼はもともとの性格がどんくさいので、頑張って『立派』にふるまっていることを知っている。


 必死に勉強して、運動して、人気を集めるものすごい努力家だ。

 それもこれも『立派な大人』になって、姉の桜子と結婚したいがための涙ぐましい努力だった。


 ところが、何をやっても彬には絶対にかなわない、かわいそうな奴なのだ。


 というのも、彬は要領がいいので、そこそこ頑張ればそれなりの成果が出せる。


 あまり必死にはなる必要はないのだが、わざわざ頑張ってトップに居続けたのは、とにかくこの貴頼を蹴落とすため。


 桜子の小学校卒業の日、ちゃっかりプロポーズした貴頼を許さないのだ。


 彬がせっかく弟として、桜子に一番近い男のポジションを守ってきたというのに、貴頼はそこに割り込んできたムカつく奴。

 彬と違って、何かの間違いで結婚も不可能ではない。


 もっとも、プロポーズされても、桜子は本当に貴頼を弟扱いしていただけで、まったく相手にしていなかったが。


 それでも、貴頼はずっとしぶとく思い続けて、桜子にふさわしい男になろうと努力を続けていた。


 努力だけならまだ許せる。


 しかし、桜子を手に入れるために、権力や金を使って人を陥れ、その結果、死んだ人までいる。

 人間としても許すべき相手ではない。


 なにより、貴頼の策略のせいで、桜子は圭介に出会い、恋に落ちてしまった。

 そして、この春、二人はめでたく婚約、将来を誓い合った仲となった。


 『墓穴を掘って、ざまあみろ』と、言うだけでは済まないのは、彬にとっても桜子を奪われる結果となったからだ。


 子供のころから恋というものに縁のなかった桜子は、これからも一生、誰にも恋をしたりすることはないと思っていた。

 いつか結婚しても『夫』と名のついたその他大勢の男の一人。

 弟である彬にかなう男はいないのだ。


 それでいいと思ってそばにいたのに、貴頼のせいで全部台無しにされた。


(この恨み、一生かかっても返してやる)


 ということで、桜子が圭介のものになった今も、彬は貴頼をこき下ろすことに余念がない。


「貴頼、同じクラスになるの、初めてだよな? よろしく」


 彬はとても親し気な笑みを作って、貴頼に声をかけた。


「よろしく」と、貴頼は警戒心バリバリの顔で見返してくる。


「姉さんが婚約したのは、知っているだろ? 改めて、君にはお礼を言わないといけないと思っていたんだ。実は誰でもない、君が愛のキューピッドだったんだもんな」


「僕には関係ないよ」と、貴頼はむっつりと黙り込んでしまった。


「なんか、嫌われちゃったかな」


 冷たい空気が漂い始める中、彬は他のクラスメートたちに困ったように眉を下げて笑ってみせる。


「なんか、感じ悪ーい」

「がっかり。もっといい人かと思っていたのに」


 女子たちの好感度は下がったようなので、彬は至極満足だった。


「そういや、おれもついに見た! 青蘭名物『両手に花』!」


 一人の男子が叫んだことで、クラスメートたちの興味はあっという間にそちらに移っていく。


(あれ、いつのまに『青蘭名物』になってたの?)


 彬はクラスメートたちは違う意味で、驚きながら話を聞いていた。


「ウワサ通り、あのインパクトはすごかった。半径1メートル以上、絶対近づいちゃいけないオーラが、すごいのなんの」


「美しすぎて近づけないって奴か!?」


「おう、まんま。桜姫と氷姫。彬の姉さんが美人なのは国中に知られてるけどさあ、氷姫もかなりやばい!」


「シンセン製薬のご令嬢でしょ? なんか、人形みたいにきれいってウワサよね?」


「あの冷たい目に一瞥(いちべつ)されただけで、くらっと倒れそうになる。冷たく(ののし)られたい! 足蹴(あしげ)にされたい!」


「きゃあ、もう、変態!」


「それより、そのお二人が夢中になる神泉先輩はどうだった!? わたしはそっちの方が興味あるわ」

「あたしも早くお目にかかりたい!」


「あれはうなずける。二人の美女に囲まれてもそん色なし。余裕の笑みで会話を交わすあの度胸。藍田社長にも認められた将来性。どれをとっても一級品だ!」


(なんだかなあ……)


 人の目に映る他人の姿というものは、『主観』でしかないのだと、彬はしみじみ思う。


 入学した頃、誰にも見向きもされず、果てはイジメのターゲットになっていた圭介が、今では下級生にあこがれの存在として映っている。


 それもこれも、桜子と付き合い始め、神泉の名をもらったおかげだ。


 加えて、イトコの妃那が圭介にベッタリ引っ付いているせいで、それに対抗するように桜子もくっついて歩く。

 おかげで、圭介はどこに行くにも二人に両手をつかまれ、引っ張り合いになっているのだ。


 おまけにその二人が最高級の美少女だから、それを称して『両手に花』と、中等部まで聞こえてくるウワサになっていた。


 みんなに言われる『余裕の笑み』も、実のところは、二人をなだめているだけなのだが。


「なあ、彬。何とかしてくれない?」と、圭介が泣き付いてきたのも一度や二度ではない。


 みんなが思うほど、圭介はかっこよくて憧れる男ではなく、意外と情けないことも言ったりするのだが、彬は圭介が好きだった。


 一見どうってことのない見た目で特に目立ったところもないので、桜子がどうしてそこまで夢中になるのか、最初はわからなかった。


 でも、徐々に話をしたりする中で、彬にもわかってきた。


 人を理解してくれる人なのだ。


 誰でも自分のことをわかってくれると思うと、心を開く。

 圭介はするりと人の心の中に入って、安心感を与える人なのだ。

 この人は大丈夫だと。


 人としての度量が違うと思ったことも、一度や二度ではない。


 桜子が自分の幸せのためにどうしても手に入れたいと思った最高の男――彬も今ではちゃんと認めている。


 それでも、繰り返しわき上がる嫉妬や憎しみを、抑えられないこともある。


 それを吐き出せる相手がいるおかげで、彬はこれからもずっと『いい弟』でいられるのだ。




 その日、彬も『両手に花』を見る機会があった。


 階段を下りてくる三人の周りは、確かに人を寄せ付けない雰囲気を出していた。


 歩いている生徒たちも、ふと立ち止まって、ボケッとした顔で見送る。


 元気のある女子たちは「桜子様よ」、「妃那様、今日も素敵」といった感じで、きゃあきゃあ言っている。


「あれが藍田の後継者か」と、圭介は尊敬と憧れのまなざしを向けられていた。


 それだけにあの三人の醸し出す空気は、他を圧倒している。

 校長も教師も逆らえない、王様とお妃と愛妾といったところか。


(……なんて、みんな言ってるけどさ)


 圭介と桜子は彬には気づかず階段の踊り場を過ぎていったが、妃那とだけは一瞬、目が合った。


 なんの表情も浮かばない顔。

 冷たい一瞥。

 他人を見る目で彬を見ていた。


 そして、何もなかったかのように去っていった。


 彼女が身をひるがえした時、彬のよく知る甘く刺激的な芳香が風に乗ってかすかに届いた。


(気づいたら、普通、あいさつくらいしない!?)


 彬は苛立ちながら自分の教室に向かった。

本日、夕方ごろまでにもう1話投稿します。

この番外編は彬&妃那がメインですが、圭介も裏方として活躍(?)します。

次話でどうぞ!


続きが気になると思っていただけたら、ぜひブックマークで。

感想、評価★★★★★などいただけるとうれしいです↓

今後の執筆の励みにさせてくださいm(__)m

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