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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
最終章 テッペン目指して頑張ります。

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15話 婚約者(仮)から始めよう

本日(2023/06/23)は二話投稿します。


最終章の最終話となります。

 翌日、3月最初の土曜日大安、圭介は再び紋付き袴で都内のホテルの日本庭園にいた。


 神泉家、藍田家の両家で相談し、桜子との婚約を正式なものとするため、結納を行うことになったのだ。

 もっとも出席者は桜子の両親と圭介の母親だけなので、結納にかこつけて、両家の顔合わせに近い。


 予定の時間より早く着いて、結納品を準備していたのだが、思ったより早く終わってしまった。

 ヒマを持て余して、ぷらぷらとホテル内を散策していたところだ。


 庭の池には橋がかかっていて、その上に赤い振袖姿の女性が立って水面をのぞき込んでいる。

 その背格好から、どう見ても桜子だった。


「おーい」


 声をかけると、桜子は振り返って、圭介を認めると笑顔になった。


 淡い桜模様の着物は、元旦の時の明るく華やかなものよりずっとあでやかで、桜子を大人びて見せている。


(こっちの振袖姿の方が色っぽいなー)


 ボケっと見とれてしまうのは止められなかった。


「圭介も来たの?」


「なんか、時間が余ったから」


「うちもー。気合入れて、早く来すぎちゃった」


「着物、似合ってるよ」


「ありがとう。圭介もね。新年にすでに見ちゃったから、ちょっと残念」


「男はどうでもいいんだよ。おまえがきれいなら」


 うふふっと照れたように笑う桜子を見て、圭介はでれっと顔を崩してしまう。


「いよいよだね。圭介は緊張してない?」


「してる。この日のために礼儀作法、叩き込まれたけど、おれ、やらかすかも」


「大丈夫だって。身内だけなんだから、失敗しても笑って終わりだよ」


「いや、でも、一生の汚点になりそうだから……」


「ともあれ、そろそろ行こうか」


 差し出す桜子の手を取って、会場に向かった。


「ところで……この後は空いてる?」


「うん。予定は入れてないよ」


「じゃあ、ここのホテル、寄っていっていい? 部屋取ってあるんだけど」


「部屋って……」と、桜子は顔を赤くする。


「新年会のリベンジ」


「リベンジなの?」


「だって、あの夜約束してたのに、入院になっちゃっただろ?」


「そうだね。ていうか、あれから圭介の方が忙しくて、デートらしいデートもできなかった……」


「すまんなー」と、圭介は謝るしかない。


 退院したからといってすぐに体調が戻ったわけもなく、お泊りデートに誘うには『ちょっと……』な状態だった。


 しかも、入院中に学校を休んだ分を取り戻さなければならず、短い3学期はあっという間に期末試験の時期に入ってしまった。

 その間、もちろん『花婿修行』の家庭教師の予定もぎっしり。


 それもこれも、今日、恥をかかないようにという目的があれば、致し方がない。


(まあ、バレンタインは人生初、カノジョの手作りチョコをもらえたから、おれとしては充分だったりするんだけどさー)


 そんなこんなで期末試験も終わり、結納の日を迎えた今日、圭介の頭を占めるのは儀式より、その後のお楽しみの方なのだ。


(これで正式な婚約者になるんだから、誰にも文句は言わせないぞ! ていうか、今日こそ何も起こらないでくれ!)


 ここまで何度チャンスを逃してきたかと振り返ると、その過去が走馬灯のように頭の中をかけていく。


「けどまあ、最初は着物姿がよかったから、今日を待ってたというのもあったりして」


「そうなの?」


「実は手術中、それを妄想しててさあ。やっぱ、妄想じゃなくて、本物としたいって思ったら、息を吹き返したんだよなー」


「圭介ってばそんな理由で生き返ったの……」


 桜子は呆れが混じった笑顔を向けてくる。


「あの時、これ以上、大事な理由はなかった。そういうわけで、準備万端にしてきたんだけど、ダメ?」


「だ、ダメじゃないけど……」


 うっすらと赤い顔で目をきょときょとさせる桜子がかわいらしい。


「じゃあ、決まりな!」


「もう、そういうことを大事な結納の前に言わないでよ! 頭の中、そればっかりになっちゃうじゃない!」


 桜子は圭介の腰をぱしっと叩いた。




 結納は形式が決まっていて、『幾久(いくひさ)しく』を繰り返しながら、結納品を交換するだけ。15分がいいところで、あっという間に終わった。

 その後は庭で写真撮影と、ホテルの世話人の案内でつつがなく進行していく。


 食事会に入ると、母親同士の同窓会でもあり、結納はどこへ行ったと突っ込みたくなる盛り上がり。子供そっちのけで、酒を飲みまくりのどんちゃん騒ぎとなっていた。


(まあ、おれの目的はこの後、着物姿の桜子と『あれー!』をすることだからなー)


 圭介の向かいで食事をする桜子の左の薬指には、渡したばかりの婚約指輪が光っている。

 ダイヤモンドがいくつも並ぶそれは、源蔵が用意してくれたものだ。

 値段は知らないが、圭介の目にも高価なものというのはわかる。


 正式な結納とはいえ、まだまだ『仮予約』でしかないと言われている気分だった。

 『返すね』で簡単に終わってしまう結婚の約束。


 自分の力で何一つ()したことのない今、婚約者(仮)でしかない。

 桜子の隣にふさわしい人間だと、藍田グループの後継者だと、今は誰も認めてくれない。


(さあ、ここから頑張るってもんだろ!)


 いつか本物の婚約者になるために、グループのトップとして認められるために――。


 その時が来たら、自分の稼いだ金で、改めて婚約指輪をプレゼントしよう。


 圭介はそう決めた。

次話は本編エピローグとなります。

あとがきと一緒に楽しんでいただければうれしいです<m(__)m>

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