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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
最終章 テッペン目指して頑張ります。

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13話 いざ、藍田グループ本社へ

本日(2023/06/20)は、二話投稿します。


時は二か月ほど飛びます。

 三月、期末試験の終わった金曜日の放課後、圭介は日本橋まで来ていた。


 スマホのマップを見ながら目指す先は、藍田ホールディングス株式会社――藍田グループの本社と呼ばれるビル。


『今日の4時に本社まで来られる?』


 そんなメッセージが音弥から入ったのは、今日の昼休みだった。


 何の用事かと桜子に聞いてみたが、朝は何も言っていなかったという。


 未来の『お父さん』からの呼び出しとあれば、断る理由はない。


『了解しました』とだけ返しておいた。


(普通に考えれば、話があるってことだよな。明日のことかな……)


 音弥に最後に会ったのは、圭介が入院中のこと。

 あの時は、『思ったより元気そうでよかったよ』と、特に事件のことを話すわけでもなく、ほんの5分ほどの滞在で帰って行ってしまった。


 どうやら仕事の合間に抜けてきたらしく、長居するほどの余裕はなかったらしい。


 圭介としては、日本一忙しいだろう大グループ企業の社長さんが、わざわざお見舞いに来てくれたというだけで、舞い上がったものだ。


 それきり直接の連絡もなく、そろそろ2か月が経とうとしている。


 スマホの地図で表示されている場所には、8階建てのビルが建っていた。周囲のビルに比べると、こじんまりとしていて、埋もれるように低い。


(これが藍田グループの本社?)


 もっと豪華な超高層ビルを想像していたので拍子抜けしたが、歴史ある石造りの建物の存在感は大きく、社長室があるという最上階は、遥か高く見えるような気がした。


(おれが目指す先は、あの一番上なんだよな)


 そんなことを思うと、にわかに緊張で手に汗がわいてきた。


 スーツ姿の男女が出入りする中、制服姿の圭介は場違い感を味わいながらもガラスドアをくぐって、まっすぐ受付まで歩いていった。


「藍田社長と4時に約束があるんですけど」


 受付の若い女性に告げると、「少々お待ちください」と電話での確認があり、それから入館証を渡されて、ロビーのイスで待つように言われた。


 しばらくして、「圭介くん」と声をかけてきたのは、夏休みの伊豆旅行で一緒だった佐伯だった。


 あの時とは違って、今日は春らしい淡いグレーのスーツを着ている。

 想像していた通り、『知的です』がにじみ出ている男前なビジネスマンといった様子だ。


「お久しぶりです」


 圭介が立ち上がってぺこっと頭を下げると、佐伯は気さくな笑顔を向けてきた。


「夏以来か。君の話はいろいろ聞いていたから、久しぶりに会った感じがしないよ」


「いろいろな話って、社長から?」


「もちろん。それこそ、会社を巻き込んでいろいろあったしね。ともあれ、社長が待っている。案内するよ」


「あ、はい」


 佐伯の後に続いて、圭介もエレベーターに乗り込む。

 ボタンを押したのは8階。壁の案内板には『社長室 役員室』となっている。


「ドキドキする?」


 佐伯に問われて、圭介は素直にうなずいた。


「それは、まあ……」


「そんなかわいい顔をされると、押し倒したくなっちゃうな」


 色気の混じった流し目を送られていることに気づいて、圭介はずささっと壁まで身を引いた。


(この人、そっちの人だった!)


「いやいやいや、おれ、桜子一筋ですから! ご期待には沿えません!」


「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。会社の中でどうこうしようとはしないって。一応、内緒にしているし」


「は、はあ……」


 話が通じているのかいないのか、理解に苦しんでいるうちにチャイムの音と同時にエレベーターが止まり、扉が開いた。


「ここが最上階。社長室はこっちだよ」


 何もなかったかのように佐伯がエレベーターを下りていくので、圭介も後を追った。


 佐伯のおかげで、それまであった緊張はとりあえずなりをひそめてくれたのは幸いか。


 佐伯は『社長室』とプレートのあるドアをノックもせずに開ける。

 その向こうに音弥がいるのかと思えば、そこは書類棚に囲まれた小部屋だった。

 パソコンが乗ったデスクが一つ置かれている。


「ここが僕の仕事場で、その奥が本当の社長室」


「あ、なるほど……」


 佐伯は小部屋の奥のドアをノックする。


「社長、圭介くんがいらっしゃいました」


「どうぞ」と返事があってから、圭介だけその中に入った。


 広々としたフロアが広がり、向かい合う革張りの黒いソファが九つ。その1番奥にデスクがある。

 音弥はそこにいた。

 背後の大きな窓からは、午後の日差しと共に向かいの高層ビルの窓がいくつも見える。


「急に呼び出して悪かったね」


「いえ、特に用事が入っていたわけではないので、問題ないです」


 音弥は立ち上がり、デスクを回ってその前に寄りかかった。


「このイスを目指すために、君が今できることは何かって、前におれに聞いたよね?」


 音弥がポンポンと叩いた机は、間違いなく『藍田グループ総帥の席』だった。


『お父さんみたいな経営者になるのに必要なことって何ですか? これからどう頑張ったら、ふさわしいと思われる人間になれるんですか?』


 以前に音弥が神泉家を訪れた時、圭介が聞いたことだった。


「はい。あの時は、人をよく観察することだって教えてもらいました」


「それは経営者の資質について聞かれたことに対する回答。今日は具体的にどうたどり着くかを君に話をしておこうと思って」


 桜子との婚約が決まった今だからこそ、話してくれる内容なのだと即座に気づく。


(あの時はまだ妃那との婚約が完全に白紙になったわけじゃなかったし……)


「はい、ぜひ聞かせてください」


「かけて」と言われて、ソファの一つを勧められた。


「ここに九つのソファがある。この藍田ホールディングスの取締役は9人いるということ。ここで取締役会議が行われる」


 上座に音弥が座っているところを見ると、そこが代表取締役の席だということはすぐにわかった。


「君も少しは経営について勉強していると思うけど、『社長』というのは、取締役の中から選ばれて、株式総会で承認されなければならない。つまり、まずは取締役になることが求められる。なら、どうやって取締役になるのか。グループ内でも会社によって違うから、ここに限る話をするよ」


「はい」


 音弥の話によると、9人のうち3人は社外取締役。経営の相談役ということで、大学の教授やその道の専門家が選ばれるという。

 その中から代表取締役に選ばれることはないので、圭介には該当しない。


 残りは6席。


 1席はもちろん現在の代表取締役である音弥のもの。圭介がたどり着くまでは、その席に座っている予定でいる。


 もう1席は、創業者一族――藍田家当主の桜子の母親、華のもの。いずれは次期当主である桜子に譲られる席なので、圭介は座れない。


 残りは4席。圭介が狙うのはそのどれかになる。


「す、少ないですね……」と、思わずこぼしてしまった。

次話、この続きの場面になります。

よろしければ続けてどうぞ!

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