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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
最終章 テッペン目指して頑張ります。

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8話 生きててよかった

本日(2023/06/09)、二話目になります。


圭介視点です。

 圭介がふと目を覚ますと、いつものベッドの天蓋(てんがい)は見えなかった。代わりに無機質な白い天井。


 なんだか夢も見ずに寝ていたような気がする。深い眠りから突然目が覚めたようだ。


 起き上がろうとして、ずきりと腰に痛みが走った。


「いってえ……」


「圭介!?」


 目を上げると、桜子がそこにいた。


「おう、桜子」


「『おう』、じゃない! いったい何日、目を覚まさなかったと思ってるのよ!」


 桜子の目が怒っている。


「ええと、何日……?」


「刺された日からもう三日目だよ。今日は一月四日」


「……マジで? てことは、ここは病院?」


「そうだよ。もう目を覚まさないんじゃないかって心配して……」


 桜子は目に涙を浮かべて、圭介の掛布団の上に突っ伏した。


「ごめん。心配かけて」


 桜子の頭をなでてやると、しばらくしてむくりと顔を上げた。


「で、圭介。何があったとか、ちゃんと覚えてる?」


「パーティの会場で、貴頼に刺されたとこまでは。あいつ、どうなったの?」


「家に閉じ込められてるって。圭介が目を覚ますのを待って、どうするか決めることになったって、お母様が言ってた」


「そっか」


「人のことより自分のことは? 圭介、心臓止まっちゃったんだよ? あたしも後で知って失神しそうだったけど。死ぬところだったんだよ?」


「……やっぱり? で、薫子と伯父さんが血を分けてくれて?」


「……誰かから聞いたの?」


「ヤバい。おれ、マジで死ぬところだったのかよ。あれ、全部夢じゃなかったのか……」


「夢ってどういうの?」


「手術中の自分の姿が見えて、廊下に出たら、おまえたちがいた」


「で、どうしたの?」


「死にたくないから、なんとか自分の身体に戻ろうとして、けど、自分の身体にくっついても戻れないしで……。結局、頭の中で自分の状況を描いてみた。今、自分は手術中とか、自分の姿が見えるはずないとか」


「それで戻れたの?」


「いや。で、変なスイッチ入って、変な妄想しているうちに、死んでたまるか、と思ったのが最後」


「変な妄想?」と、桜子が不思議そうな顔で首を傾げる。


(そこは突っ込まれたくない……!)


「妄想というのは、人に話すには恥ずかしいことが多々あってな……」


「あたしでも恥ずかしいの?」


「……うん、とても。いつかその妄想が現実になったら話す」


「ふーん」


「ダメ?」


「いいけど。話してくれるつもりはあるみたいだし。けど、圭介、元気そうだね。傷は大丈夫?」


「ズキズキするくらい。動かなければ大丈夫」


「あ、ちょっと待ってて。先生を呼ばなくちゃ。お母様にも連絡しなくちゃいけないし」


 桜子はあわてたように出ていった。


 入れ違いに医師が入ってきて、あちこち検査された。三日も目を覚まさなかったものの、ケガの回復も順調で、記憶等にも異常はないとのことだった。


 結果、全治2週間。冬休みがかかっているおかげで、学校を休む日は減るが、それでも新学期早々の欠席となる。


(しかも、妃那の奴、おれが行かないと学校休むし)


 医者と看護師が出ていくのと入れ替えに、桜子が戻ってきた。


「お母さん、すぐ来るって」


「心配かけたよな」


「うん。お母さんも泣いてたよ」


「そっか……」


「ねえ、ヨリと何があったの? 何も言わずに襲ってきたわけじゃないよね?」


「さすがにそれはないぞ。そもそもあいつと目が合って、声をかけたのはおれの方だったし。ただのあいさつのつもりだったんだけどな」


「そこから、何か話したの?」


「当然、おまえのことだけど――」


 隠すことは何もないので、覚えている範囲で貴頼との会話を桜子に話した。




「まあ、結局のところ、おれが変な挑発した形になったってことかな」


「いくら圭介が邪魔だからって、そのまま殺すことを思いつくなんて、明らかにおかしいでしょうが!」


 桜子はキッと目を吊り上げる。


「あいつ、見るからに冷静じゃなかったし。おれたちの婚約の話を突然聞いて、ショック受けてたって、あいつの親父さんも言ってたじゃん」


「それはそうだけど……。冷静な時だって、人を陥れるような計画を立ててたわけだから、いずれは圭介を狙うことを考えてたかもしれないよ」


「その可能性は否定できないけど。桜子、あいつのことは小さい頃から知っていたんだよな。弟みたいにかわいがってたって言ってたけど。その頃は残虐性みたいな、変なところはなかったのか?」


「ないよ。どっちかっていうと、要領悪くて、もたもたしていて、泣き虫で、彬や薫子より手のかかる子だったよ」


「そっか……」


「けど、最初は泣かない子だったんだよね。お母さんが厳しい人で、人前で男の子が泣くなってしつけられていたみたい。転んで痛い思いしてる時も、じっとガマンしてた。だから、『子供同士で遊んでいる時くらい、泣いたっていいんだよ』って言ってあげた。それからかな、ほんとよく泣く子になっちゃったんだけど。もともとがそういう子だったから、タガが外れちゃったのかな」


「そうやって甘やかしてくれるおまえが大好きだったんだな」


「たぶん。お母さんに甘えられなかった分、あたしにそれを求めてきたんだと思う。それはヨリにとってきっと居心地のいいものだったんだろうね」


「で、大人になってもその居心地の良さを求めて、プロポーズ?」


「その頃はあんまりわかってなかったけど、今思えばそういうことだったのかな。ただあたしの方は、そういう恋とか結婚とかよくわからなかったから、『年上で、背が高くて、頼りがいのある人』って、よくいる理想の人を掲げて、断ったんだけど」


「……それはチビで年下のあいつにとっては致命傷だよな。ていうか、マジで『背が高い』が理想に入っていたのかよ」


「だから、よくいる『理想の人』で、あたしの理想ってわけじゃないからね! 思わせぶりなことを言うのはイヤだったし、はっきり断るには一番いいと思っただけだよ!」


 ムキになる桜子をどうどうと笑ってなだめた。


「それはわかってるから、大丈夫。単にその断り文句を聞いたあいつが、何を考えたのかわかった気がして」


「どういうこと?」


「あいつ、おまえの前に姿を現さなかっただろ? 背が伸びるのを待ってたんだ。年下ってのはどうしようもなくても、背さえ伸びれば『頼りがいのある人』は、努力で何とかできる。そうしたら、おまえの理想の男になれるというわけだ」


「それで、背が伸びるのを待っている間、あたしに近づく人を排除していたってこと? 背が伸びたらあたしがプロポーズを受け入れると思って。バカじゃないの?」


「好きな女の子に言われたら、頑張る奴なら、頑張っちゃうだろ。理想の男になれるように。その子にふさわしい男になれるように」


「あたし、確かにメンクイの自覚はあるけど、そこまで外見にこだわったりしないよ」


「だよな。おれよりイケメン、世の中に刷いて捨てるほどいるし」


「圭介ー? あたしは圭介の顔、好きだって言ったよね?」


「けど、やっぱモデルになるとか芸能界から声をかけられるってレベルじゃないし、一般論で言うとってこと。ともかく、あっちはおまえがそういう男が好きなんだと信じたわけで、おまえの行動なんかをずっと監視していたわりには、そうじゃないってことに気づけなかったと。まあ、バカっちゃバカだけど」


「そうだよ。背のこと気にする前に、あたしに嫌われるようなことしない方が先でしょうが」


「その通り。そんな話もしてやったんだけど、あいつには理解できなかったみたいだな」


「あたしだって言ったのに。だから、絶交って言ったのに、どうしてわかんないかな。あたし、そんな人を好きになったりしないよ」


「もしくは、それ以外に自分が断られる理由が見つけられなかったのかも」


「はあ? そんなに自分に自信があるってこと? ヨリに限ってそれはないんじゃない? 彬なんかに比べても、いろんなところで負けてたし」


「それは客観的に見てだろ? 少し会話を交わしただけだったけど、自分は悪くないって奴だったから、自分というものを客観視できないのかもしれない」


「どういう意味?」


「んー、例えば、学校の成績で2番になったとする。客観的に見れば、1番になった奴の方が頭がいい。けど、あいつはこう思うんだ。あの日はちょっと調子が悪かったとか、1番の奴がズルしたんだとか。だから、実力は自分の方が上。自分が1番だって思い込む」


「そんなの、ただの言い訳でしょ」


「普通に考えればそうなんだけど、何事においてもそういう考え方をしていったら、自分は非の打ちどころがない人間だって思い込める。もちろん、限りなくそうなるための努力はあったと思うけど。ただ唯一、背の低さは思い込みではどうしようもない。目で判断するものだからな。だから、あいつは背さえ伸びれば、何とかなると思っていた」


「とどのつまり、そう思い込んだところで、あたしの理想をカン違いして、余計な努力をしてたってことじゃない」


「そりゃそうだけど。ただ、こう考えれば、あいつの行動につじつまが合うってだけの話だよ」


「なるほど……。けど、そういう相手って、どうしたらわかってくれるのかな。言葉で通じない相手」


「残念ながら、おれにもわからん。失敗して刺された」


 圭介はお手上げ、と両手を上げた。


「だからって、放置しておくわけにはいかないでしょ? こうなったからには、警察に任せるって方法もあると思うけど」


「それはあんまり意味ないと思うぞ」


「どうして?」


「おれが死んだのならともかく、全治2週間程度のケガ。警察に届けたところで、神泉と杜村の間で起こったことじゃ、もみ消して終わりだよ」


「……お母さんもそう言ってたけど。それで圭介は許せる?」


「許すかどうかはまた別の話。反省はしてもらわないとな。二度とこんなことをしないように。じゃないと、おれがこうして痛い思いをしているのもムダになる」


「圭介、何か考えがあるの?」


「具体的にはまだ何も。今はそういう方向性でっていう話」


「危険なことはなしだよ? あたし、圭介が死んじゃったらって思っただけで、生きた心地しなかったんだから。二度とこんな思いはごめんだよ」


「ごめんな。泣かせないって言いながら、結局、何度も泣かせてるよな。これからはこういうこともあるんだって、気を付けるよ」


「絶対だからね」


 桜子の頭に手を伸ばし、やさしく髪をなでた。


「で? 目が覚めてから、いつキスしてくれるかなーって期待してたんだけど。全然そういう気分じゃない?」


「バカ」


 桜子は口をとがらせて、それから圭介の上にかがみこんでキスをしてくれた。


 温かい唇がようやく現実の世界に戻れたことを教えてくれる。


「生きててよかった」と、圭介はつぶやいて、目を細めた。

次回は家族のお見舞いなど、圭介の入院中の話になります。

二話同時アップ、お楽しみに!


続きが気になると思っていただけたら、ぜひブックマークで。

感想、評価★★★★★などいただけるとうれしいです↓

今後の執筆の励みにさせてくださいm(__)m

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