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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
最終章 テッペン目指して頑張ります。

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7話 元気になるって信じてるよ

本日(2023/06/09)は、二話投稿します。


前話からの続きの場面です。

 翌朝、圭介の母親、百合子に声をかけられて、桜子ははっと目を開いた。

 ガラス窓に寄りかかって、立ったまま寝ていたらしい。


「どう、圭介は?」


「まだ目を覚まさないですけど、異常はないそうです。看護師さんが時々見に来ていました」


「そう。あなたも疲れたでしょう。少し休んだ方がいいわ」


 百合子はいたわるように桜子をベンチに腰掛けさせた。


 足が棒のようになっている。そんなことにも気づかないで、一晩中立っていたらしい。


「あの、家の方は?」


「今日は予定通り初詣に行っているわ。圭介の無事も確認できたし、これ以上親族を不安がらせるのもね」


「警察とかは?」


「ああいう家だから、圭介の無事が確認できるまで、警察に連絡するのは待っていたみたい。わたしたちが病院にいる間、父と杜村氏があちこちに働きかけて、箝口令(かんこうれい)を敷いたって」


「お母様はそれでよかったんですか? 圭介を殺されてしまうところだったんですよ」


「そうね、もしもの時はさすがにわたしも黙ってはいられなかったでしょうけど。無事とわかったら、甥っ子を警察に突き出すことは、やはりためらってしまったわ。あなたは許せない?」


「そもそもの原因はあたしにあるんです。ヨリが……貴頼くんがどんなことをしてでも、あたしを手に入れようとしたことを知っていて、ただ絶交って突き放しただけで、そのままにしていたから……。人を傷つけることもするってわかっていたのに」


 桜子がうつむくと、百合子はそっと手を握りしめた。


「それはあなたが責任を感じることじゃない。あなたはちゃんと断ったのでしょう? それでもしつこく追いかけてくる方に問題があるのよ」


「けど、あたしがもう少し注意していたら……。あの場に貴頼くんも来ていることを知っていたのに、警戒もしなかった。婚約って浮かれて、大事な圭介を失うところだったかと思うと……」


「起こってしまったことに後悔してもどうにもならないわ。これからは注意して、二度とこんなことが起こらないようにする。圭介が助かったということは、神様がそのチャンスをくれたってことだと思うわ。これからは気を付けるようにって」


「はい……。それで、貴頼くんの様子は?」


「どうもまともに話をできる状態じゃないみたい。周りの人の話だと、圭介を刺した後、笑っていたって。父が杜村氏に連れ帰るように言ったから、家にいると思うけれど」


「そうですか……。罪の意識はないんですかね」


「わたしも甥っ子とはいえ、ずっと縁がなかったから、どういう子なのかもあまりわからなくて……。ただ姉にとっては大事な一人息子で、息子のしたことに取り乱していたから、わたしも何も言えなかった。もう少し落ち着くまで話は待った方がいいと思うわ」


「そうですね。少なくとも圭介が目を覚ますまでは」


「あなたも一度帰った方がいいわ。着物のままだし、ひどい顔よ。そんな顔を圭介に見せたら、あの子、自分のことよりあなたのことを心配しちゃうわ」


 冗談まじりの百合子の言葉に、桜子は笑みをもらした。


「そうですね。圭介はそういう人でした。早く元気になってもらうためにも、あたしが元気な顔を見せなくちゃいけないですね」


「そうよ。ゆっくり休んだ後、また来ればいいわ」


「では、お言葉に甘えて」


 百合子にタクシー代を渡されて、一度は断ったのだが、ありがたくいただいた。

 心身ともに疲れ果てていて、一人で帰れそうもなかった。


 薫子の言っていた通り、タクシーでワンメーターの距離がいいところだった。これならお見舞いに行くにも、自転車ですぐに行ける。


(そんなことまで妃那さんは計算していたのかしら……)


 あまり考えすぎると、頭がおかしくなりそうなので、やめておいた。




 家に入ると、薫子と彬が先を競うように勝手口まで走ってきた。


「桜ちゃん、帰ってきた!」

「姉さん、大丈夫!?」


「うん。さっきお母様と交代してきたところ」


 桜子は家に上がってまっすぐに自分の部屋に向かう。


「ダーリンは?」


「まだ目を覚まさないの。でも、異常はないって。とりあえず、着替えて何か食べて休んだら、また病院に戻るよ」


「ヨリくんは?」


「話は着替えながらでもいい?」


「それだと、僕が聞けないんだけどー?」と、彬が口を尖らせる。


「じゃあ、薫子、早く着替えられるように手伝って」


「はーい」


 いったんドアを閉めて、着物を脱ぎ、崩れかけた髪をほどく。ゆったりした部屋着を着て、ほっと息をつけた。


 ドアを開けてやると、彬が入ってくる。


 貴頼については百合子から聞いたことしか伝えられない。実際に桜子も現場を見ていないので、それ以上に詳しく話すこともできなかった。


 話を聞いた弟と妹はというと、激しく怒った。


「そんな奴、なんで警察に突き出さないんだよ! 殺人未遂じゃないか!」


「そうだよ。だいたい『呪い』の件だって、自殺した人がいるんだよ! いい加減自分のしていることに気づくべきだよ!」


「けど、神泉側の意向もあるし、あとは圭介が目を覚ましてからになるんじゃない? 被害者である圭介がそうしたほうがいいって思えば、警察に訴えることもあると思う」


「圭介さん、甘いから……」

「ダーリンのことだから、すぐに許しちゃうよ」


 弟妹は顔を見合わせてため息をつく。


「そうかもしれないね。お母様も甥っ子のしたことだからって、訴えようとしない人だったから」


「それでね、桜ちゃん、こんな時に聞くのもどうかと思うんだけど、婚約の話はどうだったの? 昨日、聞くに聞けなくて……」


 薫子が気づかったように聞いてくる。


「ああ、それは無事に。おじい様が親族の前で発表してくれたの。まだ若いからって、ちゃんと口止めもしてくれて」


「おじいさん、怖くなかった?」


「最初は怖かったよー。だって、やっぱり神泉の当主って、神懸ってるもん。親族は信者って感じで、『ははーっ』て頭下げてるの。妃那さんなんか、顔も直視しちゃいけない神扱いだったよ」


「それは一度見てみたかったねー。ねえ、彬くん? カノジョが神な姿」


 薫子がウヒヒと彬に笑いかける。


「見たら笑っちゃいそうだけど……」


「二人とも笑ってるけど、あたしは普通に驚いたよ。妃那さん、別人だったもん。声の感じとかしゃべり方とか、本当に神様が降りてきてるんじゃないかって思った」


「妃那さんを知っている桜ちゃんでもそう思うの?」


「うん。圭介も言ってたし」


「ごめん。全然イメージできない」と、彬が頭を抱える。


「そりゃ、彬くんは神様の部分より、とっても肉々しい人間の部分しか見てないもんねー」


「薫子!」


 不毛な争いが起こる前に話を変えた。


「ところで、お母さんたちは?」


「お客さんが来てる。朝からばんばん、休みなし」

「合間に姉さんが帰ってきたか聞いてきたけど、連絡もなかったし」


「そっか。でも、圭介が無事だったことは知っているんでしょ?」


「うん、あたしが伝えた。桜ちゃんから電話もらった時、すごく心配してたから。あたしが帰った時も寝ないで待ってたよ」


「そっか。でも、いい報告ができてほんとよかった」


「その前に桜ちゃんが元気そうでよかったよ。疲れてるみたいだけど、どうする? 先にご飯にする? お風呂? 寝る?」


「とりあえず何か食べてからにしようかな。お節料理が余っていれば、ちょっとつまむ」


「じゃあ、居間に行こう」


 家に帰ってきて、やはりほっとする。心配してくれる家族がそこにはちゃんといてくれる。


 だから、圭介はじきに元気になると信じて、今は休むことができると思った。

次話は目を覚ました圭介の話になります。

よろしければ、続けてどうぞ!

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