12話 二人でカウントダウン
本日(2023/05/26)、二話目になります。
【ジイさん編】及び、第6章の最終話です。
大みそかの夜、夕食に年越しそばを食べた後、圭介は二年参りに出かけた。
妃那も彬と約束があったので、一緒に車で藍田家に向かう。
「妃那、そんな薄着で寒くないか?」
妃那は厚手のワンピース一枚、コートもマフラーも手にしていない。
暖房の効いた車内はともかく、外に出たら風邪を引いてもおかしくない格好だ。
「別に外を歩くわけじゃないもの」
「……二年参りに行くんじゃ?」
「行かないわ。いつもと同じ、ホテルに行くだけよ」
「うーん、こういう機会くらい、二人でどこか行けばいいのに」
「あら、圭介はセックスするより神社に行く方がいいというの? 今年最後のセックスをして、年の初めにセックスをしたくならない?」
「そ、それは否定しないけど! ていうか、ひと言でそこまで連発するな!」
「だって、もうじき彬に会えるかと思うと、興奮してしまうんだもの」
「おまえの頭の中は、現在それだけなのか?」
「そうよ。彬と会うというのはそういうことだもの」
ホテルの部屋の中でしか成立しない関係とは、何なんだろうと思ってしまう。『デート』には違いないのだろうが。
(……おれたちがまだそういう関係になってないから、優先順位が違うだけなのか?)
圭介としては、こういうイベントの一つ一つを二人で過ごすのも大事だと思う。
食事をしたり、街をプラプラ見て歩くのも楽しい。
結局、好きな相手が一緒ならどこでも、何をしていても幸せということだ。
「妃那、今幸せ?」
「ええ、幸せよ」
ためらいなく笑顔で答える妃那を見て、圭介は微笑んだ。
「それならよかった」
藍田家の裏口に到着すると、桜子と彬がそこに立っていた。
「じゃあ、明日のパーティに遅れるなよ」
圭介は妃那に言いながら車を降りた。
「圭介もね」
「おれは朝帰りする予定ないよ。明日に取っておくんだから」
言いながら、圭介はむふふっと笑ってしまう。
パーティで源蔵に紹介した後は、桜子は晴れて正式な婚約者。
そのまま自分の部屋に泊めても文句は言われない。
新しい年の始まり、一歩進んだ関係になるには、最高のタイミングだ。
(来年の初夢は、桜子と一緒に見る!)
「先延ばしにして、後悔しないといいのだけれど」
妃那は理解できないといったように肩をすくめた。
「あと一日くらい待てないほど、おれはがっついてねえよ。じゃあ、よいお年を」
「圭介も。よいお年を」
圭介は振り返って、桜子と彬に「よっ」とあいさつした。
「こんばんは」と二人が返してくる。
「彬、妃那をよろしくな」
「はい。こちらこそ、姉さんをよろしく」
彬は笑顔でそう言って車に乗り込んでいった。
「さて、あたしたちも行こっか?」
「おう。じっと立っていると寒いしな」
暗い夜道とはいえ、桜子はいつものメガネの変装をしている。
「暗いから、駅くらいまで大丈夫よね」
「うん」
桜子が出してくる手を握った。
「なんだか、今でもあの二人の組み合わせって、イメージがわかないんだけど」
「彬と妃那?」
「何をしゃべったりしてるんだろうって」
「妃那は誰と話をしても変わらんと思うぞ。おまえでも薫子相手でも。彬は普段よりちょっと多めに本音ぶちまけてるんじゃないかな」
「やっぱり男の子って、年頃になるといろいろ秘密にしたりするんだね」
「まあ、女兄弟なら特に言いたくないこともあるんじゃない?」
「そうなんだろうけど、お姉ちゃんはなんだか淋しいよ。昔はなんでも話してくれたのに。妃那さんと付き合ってることもずっと話してくれなかったし」
「自分にくらいは内緒で話してほしかったって?」
「うん」
「おれの場合、妃那は聞けば何でも素直に答えるのは変わらないな。
けど、いつの間にか彬に会うのが優先になってて、なんか淋しいと思った。あんなにベッタリくっついてたのに」
「……今でも充分くっついていると思うよ? 学校とか」
「けど、今みたいに彬に会う時は、近寄っても来ないからな」
「じゃあ、来年は期待できるかなー。彬も高等部に来るわけだし、あたしは圭介を独り占め」
へへっと桜子は顔を見上げて笑う。
「そうじゃなくても充分独占してると思うぞ。それより、明日は大丈夫?」
「うん。ちゃんと着物、用意してあるよ。明日の午前中に美容院で髪をセットしてもらったら、ばっちり」
「おれも紋付き袴用意された……。今まで着たことないのに」
「でも、親族が集まるパーティなんかに、あたしが行ってもいいのかな」
「まあ、決めたのはジイさんなんだから、いいんじゃない? あの人、当主だし」
「……なんだかなあ。圭介、神泉家の当主を甘く見てるような気がするんだけど」
「そう? ただの意地っ張りのジイさんだよ」
電車を乗り継いで、明治神宮まで行った。かなり早く着いたはずなのに、すでに参拝客が列をなしている。
予想以上の混雑で、桜子とはぐれないようにしっかりと手をつないだ。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫。けど、零時までに参拝できそうもなくない?」
「気合入れても間に合わないものは、間に合わないもんな」
「行列の中でカウントダウン……」
「いや、まだ望みはある」
そんな時、ゴーンと最初の鐘の鳴る音が響いてきた。
「除夜の鐘が鳴り始めたね」
「今年も終わりだな。いろいろあって大変だったけど、いい年になった」
「あたしも。なんといっても圭介に出会えたし」
「おれも。人生最高の年かも」
「なに言ってるの。これからもっといい年が来るって期待しなくちゃ。まだまだ序の口なんだから」
「今が幸せすぎて想像できねえ」
「圭介は欲がないねえ」
「どこが? おまえのことに関しては、めちゃくちゃ欲張りだろ。みんながほしいっていっても、遠慮なんかできなかったんだから。欲張りどころか、ものすごく貪欲」
「それはきっとあたしも同じだよ」
「同じか……? おれのことをほしい奴なんてそうそういないし、そこまで頑張んなくても大丈夫じゃない?」
「それは圭介が気づいてないだけだよ」
「そう?」
「そうなの!」と、桜子は頬をふくらませる。
(ああ、もう、かわいいなあ)
圭介は桜子の顔をのぞき込んで、そのまま口づけた。
「今年のキスの仕納め」
「あ、もう、変な顔している時にしちゃダメ! やり直し!」
そう言って目を閉じる桜子をそっと抱き寄せて、もう一度キスをした。
「これでいかがでしょうか?」
「よろしい。いい締めくくりになったわ」
桜子と顔を見合わせて笑った。
そして、零時少し前に参拝を終わらせ、スマホで時間を確かめながら、カウントダウン。
二人で「あけましておめでとう」を言い合って、新しい年はキスで始まった。
この話をもって、【第6章 みんなからの祝福、いただきます。】が完結いたしました。
次回からは【最終章 テッペン目指して頑張ります。】が始まります。
長々と続いてきた物語もいよいよ終わりが見えてまいりました。
最後まで楽しんでいただけるように頑張ります!
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