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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第6章-3 みんなからの祝福、いただきます。~ジイさん編~

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7話 こういうデートがしたかったらしい

本日(2023/05/19)は、二話投稿します。


圭介視点です。

 冬休み初日、圭介は桜子と葉山に行くことになったので、10時に車で家を出た。


 葉山までは1時間半ほど。約束の時間は2時なので、早めに葉山まで行って、海沿いのレストランでランチをしようということになった。


 桜子の話では、海を見ながら手頃な値段で食事を楽しめる店がいくつもあるのだという。訪ねる家もその付近にあるとのことで、場所的にもちょうどいい。


 ラッシュ時を外したおかげで、桜子の家の裏門に着いたのは、予想していたのより早かった。


 着いたことをメッセージで知らせると、しばらくして裏門が開くので、圭介は車を降りて桜子を出迎える。


「おはよう、圭介」

「おはよ」


 今日の桜子はクリーム色のステンカラーのコートに、今日が初下ろしだという茶色のロングブーツがひざ下からのぞいていた。


「どうぞ」と、桜子を先に乗せてから、圭介も後に続き、運転手にドアを閉めてもらった。


「うわ、やっぱり車の中は暑いね。コート脱がせてもらうよ」


「もちろん」


 桜子のコートの下は、胸元の広く空いたロングセーターにチェックのミニスカート。スカートが短めなので、シートに座り込んだおかげで、なまの太ももがむき出しになっている。


(その見えそうで見えないラインが非常に気になるんだけど……)


「どう、見えるでしょ?」と、桜子が突然聞いてきたので、反射的に「見えないよ!」と答えていた。


「え、見えない? ほら、ネックレス。制服だとブラウスで見えないから、今日はちゃんと見える服にしてきたんだ」


 言われて初めて、桜子の首筋に視線を上げた。

 シンプルな白いセーターだから、細い小さなネックレスでも充分目立っている。


「あ、うん、ネックレスな。似合ってるよ」


 圭介があわてて言うと、桜子は首を傾げた。


「なんだと思ったの?」


「……スカートの中の話かと」


 桜子は気づいていなかったのか、はっとしたようにうつむいてスカートのすそを引っ張った。


「見た?」と、桜子は赤い顔でにらんでくる。


「だから、見えないって……」


「やだ、もう、恥ずかしい!」


「てっきり狙ったのかと思ったんだけど……」


「狙うって?」


「んー、刺激的な服で誘っているのかなと」


「ご、誤解だからね! ロングブーツならミニスカートかなって、それだけだから!」


 桜子は赤い顔であたふたと言う。


「それだけなの?」


「うん、それだけ。他に深い意味はないの」


(ないんだ……)


 圭介は内心がっかりしながら、今日に期待するのはやめた。




 桜子のお目当てのレストランには12時前には着いたが、店はすでにオープンしていた。

 この時期、テラス席は閉鎖されていたが、窓際の席は充分に日当たりがよかった。


 店が小高い場所にあるおかげか、窓の外からは真っ青な空と海がよく見えた。そのまぶしさに思わず目を細める。


「素敵な眺めだね。あっちが江ノ島かな」


「富士山まで見える。いい天気でよかったなー。デート日和」


 ご機嫌な桜子を見て、圭介も顔をほころばせていた。


 ランチプレートを二種類選んで、半分ずつ食べることになった。


「実はね、いつかこういうデートがしたいなって思ってたの」


「こういうって?」


「海の見えるレストランでランチするの」


 桜子は頬づえをついて窓の外を眺めている。どこか懐かしそうで、幸せそうだった。


「雰囲気とか?」


「うーん、なんていうか、『デート』という言葉が初めてピンと来たからかなあ」


「つまり?」


「覚えてる? 羽柴さんに無理やり連れだされて、ランチごちそうになったって話したこと」


「覚えてるよ。学校を抜け出してデートしてきたんだろ?」


「あたしとしては全然デートとか考えてなかったんだけど。単にお願い事があって話を聞いて、ご飯を食べてきたって感じで」


「……それをデートと言うんだけど」


「で、圭介にその時そう言われて、『ああ、これが圭介相手だったら、素敵なデートになるんだなあ』なんて思ったの。ドライブして、海の見えるレストランでランチして、素敵な一日になるんだろうなって」


「そんなこと、思ってたのか?」


「うん。初めて具体的にデートのイメージがわいた瞬間だったな」


「おまえがそんな夢を見ている瞬間、おれは嫉妬でドロドロだったんだけど?」


「え、そうなの? 『呪い』があるのに軽率なことをしてって、注意してくれたよね?」


「そんなの半分建前に決まってるだろうが。相手は大企業の御曹司(おんぞうし)。目の前でおまえをかっさらっていって、おれはただの友達だから、引き留めることもできなくて、こっちは呆然自失。『呪い』を理由に止める以外にすべがなかったんだから、それ以外に言いようがないだろ」


 そっかあ、と桜子はうれしそうに微笑んだ。


「なんだ、ちゃんと想ってくれてたんだね」


「まあ、今思い返しても、『呪い』があった以上、それ以上もできなかったとは思うけど」


「そうだね」


「そういえば、羽柴って奴、それっきりどうしたんだ? しばらく連絡取ってたんだろ?」


「ああ、でも、圭介と付き合うようになったって伝えたら、ぱったり来なくなったよ」


「ずいぶんあっさり身を引いたんだな」


「うーん、そこまであたしのことを好きだったわけじゃないから、当然といえば当然じゃない? そこまでの野心家ってわけじゃないし。努力しないで手に入るものだけで満足するタイプ」


「なんだか意外だな。もっとおまえにのめり込むのかと思ってたのに」


「結局、ちやほやされるのが好きな人なんだよ。自分が好きになるより好かれたい。

 ドライブして、船上パーティに行って、『あきらめない』なんて真面目に訴えたら、あたしがあの人に夢中になるって思ってたんじゃないかな。

 そうじゃなければ、面倒くさくて追いかける気もなし、みたいな」


「それもあるかもしれないけど、怖くなったんじゃないのかな。おまえにこれ以上近づいたら、後に引けなくなるって。突っ走って、もしも何も得られなかった時に傷つくから」


「結局のところ、あたしのことをそこまで好きじゃなかったってことでしょ?」


「まあ、そうなんだけど」


「たいていの人はそうなんじゃない? 自分が一番大事だもの。傷つかないように選択するのが普通でしょ? 単にあたしはそういう人を好きになったりしないだけの話で」


「おれからすると、自分が一番大事だから、自分のために本当に欲しいものは手に入れないと、後悔するって思うけどな。傷つくより後悔するほうが怖い」


「圭介はそういう人だよね。あたしも同じだよ。自分の幸せのためならなりふり構わない。どこまでも突っ走って、最後まであきらめない。ダメだった時のことは考えない。でないと、本当に欲しいものは手に入らない。圭介を好きになって、わかったの」


「その結果、藍田の権力総動員なんだもんな……。おまえの全力は恐ろしいぞ」


「全力尽くす前に幸せになれるといいね」


 桜子がにっと笑うので、圭介も吹き出した。




 料理が運ばれてきて、それぞれの皿で食べ始めた。


「このシーフードカレー、おいしいよ。そっちは?」


「ローストビーフもなかなか。値段の割にはボリュームたっぷりだよな」


「うん。やっぱりランチはお得だよね」


「そういえば、おまえは年末年始って、なんか行事あるの?」


「元旦からお年賀を持ってくる人がいるから、親は家にいなくちゃいけないんだけど。

 あたしたちは初詣に行ったり、施設の子供たちのところへ行って、かるたとか書き初めやったりとか、お正月の遊びをしてる。圭介は?」


「年越しは何にもないけど、元旦は一族が集まってパーティ。翌日、全員で初詣。おれも強制参加」


「そっかあ。一緒に初詣に行けるかなって思ってたけど、なかなか忙しそうだね」


「それなら二年参りは? 大みそかの夜、ちょっと寒いけど」


「それいいかも。で、一緒にカウントダウン」


「ああ、それは考えてなかった。いいな、年が明けて最初に見るのが桜子の顔って」


「うん!」と、桜子は最高の笑顔でうなずいてくれた。

第2章-1 【人魚姫編】2~6話辺りの思い出話となりました。

次話、このデートの本来の目的の人物に会いに行きます。

よろしければ、続けてどうぞ!


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