19話 未来のことより、『今』を楽しもう
本日(2023/05/05)、三話目になります。
前話からの続きの場面です。
第6章-2【妃那&彬編】、最終話となります。
妃那の気のすむように抱いてやり、シャワーを浴びてから、ようやく話し相手になってくれる気になったらしい。
とりあえずベッドに座っても、押し倒してこないからだ。
「もしかして、わたしに何か聞きたいことがあるの?」
「ああ、うん。とりあえず1個、君に質問」
「どうぞ」
「やっぱり最初に君が僕を誘った理由って、姉さんたちを邪魔するためだったの?」
「違うと言ったはずだけれど。まさか、忘れたのかしら」
「忘れてないけど、確認。その結果、僕たちの関係がお父さんたちに知られて、姉さんたちの婚約を邪魔することになるって思わなかった?」
「意味が分からないわ。お父様たちがわたしたちのことを知ると、桜子と圭介の婚約を反対すると言いたいの?」
「そう」
「どうしてお父様たちが反対するの?」
「もともと君のお父さんは、圭介さんとの婚約に賛成なんだよね?」
「そうね」
「そんな君に近づく男がいたら、当然怒るわけだ」
「ええ。だから、お父様には内緒にしていたのでしょう?」
「つまり、お父さんからすると僕は君を傷つけた悪い男で、僕の家を訴えるかもしれない」
「それで?」
「で、うちの方としては訴えを取り下げるために条件を飲まなければならない」
「それで?」
「その条件に圭介さんを手放さない、ということを入れられたら、結果、姉さんたちの邪魔をするということにならない?」
一応、丁寧に説明したのだが、妃那はじいっと黙り込んだまま、考え事をしている特有の目をしていた。
それから、ふっと目に生気が戻った。
「ねえ、彬。そのあなたの計画、成功率は何パーセントなのかしら?」
「知らないよ。ていうか、計画するとしたら君なんだから、わかるんじゃないの?」
「では、わたしの推測でざっくりと判断すると、ものすごく成功率は低いと思うわ」
「どうしてさ?」
「まず一つ目。そもそもそんなに簡単に済む話なら、わたしは内戦まで起こしていないわ。あの時点で一番成功率が高いのがあの計画だったのよ。つまり、その他の方法は全部使えなかったということ」
「二つ目は?」
「彬に声をかけた時点では、お父様はわたしのことなどどうでもよかった。『知る者』のわたしに怯えて、あなたとの関係を知ったところで、何も言えなかった。
あの内戦騒ぎの結果、圭介がお父様に苦言を申し立ててくれたおかげで、お父様はやさしくなったの。
だから、そもそもその計画は成り立たなかったのよ。もっともわたしが藍田家を訴えるように言えば、それも叶ったかもしれないけれど」
「どうしてそうしなかったの?」
「第一に、『知る者』は一族を繁栄する者。明らかに一族に不利益になることは認められない。たとえば、内戦の時のように、わたしは叱られる」
「うん」
「藍田家を正当な理由なしに訴えるということは、それだけでリスクを伴うものよ。
わたしたちが合意の上の関係である以上、わたしが訴えろと言ったところで、せいぜいあなたと別れさせるだけのこと。おじい様たちは藍田家に対して動かない。
万が一、怒って訴えたとしても、それを聞くのはせいぜいあなたの父親だけ。あなたの母親はあなたに責任を取らせるでしょう。つまり、わたしはあなたと結婚することになる。
それくらいなら、おじい様たちは無条件で訴えを取り下げるでしょう」
「よく知ってるね、僕の親……」
「では、無理やり理由を作ったとする。例えば、あなたにレイプされたとか、合意でなかった場合。
もちろんこちらは強い立場になって、条件を提示することができるかもしれない。
けれど、あなたの性格上、それはありえない。圭介がわたしの性癖について知っている時点で、その事実に疑いがもたれ、実はわたしの方から誘ったのではないかと、水掛け論にしかならなくなる。
そんな騒ぎが公になったら、あなたの家はともかく、秘密主義の神泉家では不利益としかならない。
やはり大事になる前に、示談成立になることでしょう。その和解に必要なのはせいぜい金銭、圭介を条件に入れるのはかなり難しいと思うわ」
「けど、今は? 君のことを大切に思っているわけだよね? 関係を知ったら、僕の家を訴えることもあるんじゃない?」
「そもそもその前提は間違っているでしょう。お父様は圭介に話を聞く前から気づいていた。けれど、すぐには動かなかった。なぜなら、わたしはお父様からすると、幼い子供のようで、なのに、ホテル通いをする娘。
理解不能に陥るので、わたしのことをよく知っている圭介に助言を求める。圭介が自分の婚約に障害になることをするはずがないので、あなたの家を訴えるようなことにはならない」
圭介は妃那の父親に対し、彬は妃那のために必要な存在だと話をしてくれた。
そして、やはりすぐには動くことなく、見守っていた。
結局、妃那の説得があって、付き合いを認めざるを得なくなった。
圭介から聞いた話によると、そういうことになる。
(……うち、全然訴えられる要素なし? 訴えられなければ、条件もないから、それを理由に姉さんたちの婚約を断ることもできないと)
「……ええと、そうなると邪魔することはないと」
「ええ。あなたの計画では個人の情報が全く反映されていない時点で、すべての選択肢においてすでに成功率が低い。それを乗算していくと、ほぼ不可能という成功率がはじき出されると推察される。
わたしならそのような計画を実行したりしないわ」
「……結局、君は本当に性欲発散のためだけに僕に近づいてきたんだ」
「だから、何度も言っているのに。あ、もしかして、これが信じられない話、ということなのかしら」
妃那が驚いたように言うので、彬は完全に脱力した。
「そうだよ」
「それを知るのはなかなか難しいわ。わたしのすることの何が信じられないのか、常々考えなければならないのでしょう?」
「……まあ、君はいつも信じられないことし出すから、僕が何度も聞き直した時は、気づけるよ」
「わかったわ。あなたの記憶力がないのか、そうでないのかもその都度言ってもらえれば、とてもありがたいわ」
「……うん」
さっきまでのもやもやが全部消えていく。
(僕、何を疑っていたんだろう。会った頃はともかく、この人がどこまでも素直で、ウソが嫌いなことを知っていたはずなのに)
どうやら、みんなこの人のことをよく知らないから、いろいろ勝手な人物像を押し付けているのかもしれない。
(なんで、こんなにほっとしているんだろう。信じてたものが裏切られなかったから?)
彬が顔を上げると、妃那は不思議そうに首を傾げた。
こんなことを昨日から考えていたということは、この人にはわからないのかもしれない。
彬を全面的に信じ切って、疑ったりもしない人だから。
彬は妃那を抱き寄せて口づけた。絡んでくる舌に答えながら、その場に押し倒す。
「ねえ、圭介さんと姉さんが婚約してもいいの?」
「かまわないわ」
「どうして?」
「結婚するわけではないもの」
「でも、放っておいたら、いつか結婚しちゃうよ」
「そうね。でも、今すぐではないからまだ考える時ではないわ。
あなたは婚約させたくないの? わざわざ計画まで立てて、わたしに意見を求めるくらいなら、始めからわたしに頼めばいいのに」
「いやいやいや、それ、違うから! 君のしたことを確認したかっただけで、婚約の邪魔なんてしたくないよ!」
「なら、よかったわ。そんなことをしたら、圭介に嫌われてしまいそうだもの」
妃那は潤んだ目で彬を求めながらも、うっとりとしたような笑みを浮かべた。
「それで、姉さんたちが結婚したら、君はどうするの? 他の人と結婚するの?」
「その可能性はとても高いわね」
「じゃあ、僕は?」
妃那はすぐに返事をしなかった。考え込んでいるようにじいっと目の前の彬の顔を見つめている。
「……ねえ、あの二人が結婚した場合、わたしたちも結婚する可能性がかなり高いと推察されるのだけれど、わたしの気のせいかしら。興奮していて、考えがなかなかまとまらないわ」
「けど、君の推察なら、かなりの確率でそうなるってことじゃないの?」
彬は笑って、そのまま唇をふさいで黙らせた。
なんだか、今は妃那をやさしく抱きたい気分だった。
妃那の好みではないと知っているが、どうせこれでまだおしまいではない。
「こんな風に焦らされたら、余計にしたくなってしまうわ」と、次は妃那が襲ってくるのを知っているから。
桜子を好きな気持ちとは違う。
けれど、同じくらいかけがえのない存在。
すごい幸せじゃなくても、けっこう幸せでいられる相手。
そんな相手と一生いられるのなら、この人生も悪くない。
(でもまあ、そんなのは先の話だから、今はやっぱり『今』を楽しみたいよね)
妃那&彬のサブカップル、未来が少し見える形で、ハッピーエンドとさせていただきます。
結果、圭介たちの婚約を邪魔することはないということで……。
二人をくっつけた薫子に軍配ですかね。
もっとも、妃那&彬にも問題が残っていますので、本当の意味でのハピエンストーリーは、番外編になる予定です。
本編はあくまで圭介&桜子カップルメインで行かせていただきます!
次回から、パート3【ジイさん編】がスタートです。
二話同時アップ、お楽しみに!
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