18話 実は都合のいい関係ではありませんでした
本日(2023/05/05)、二話目になります。
前話の翌日の話です。
引き続き彬視点です。
せっかくの日曜日だというのに、彬は朝からベッドでゴロゴロしていた。
宿題をしようと思ったのだが、ちっとも手につかない。
昨日から母親の話が頭の中をグルグルしていて、集中できないので、あきらめてベッドに転がったのだ。
(なんか、僕、おかしい……)
関係の名前が『恋人同士』になってしまったせいで、頭が混乱する。
自分で納得している関係と、周りが思う関係の間に気持ちの悪いギャップがあって、それが変な考えを起こさせるのだ。
明らかに違うとはっきり言えないギャップ。
相変わらず彬の好きなのは桜子で、同じ気持ちは妃那に感じない。
でも、これから先、少しでも長く一緒にいたい、失いたくない。
これから先も桜子の幸せを見届けていくにはなくてはならない存在。
妃那と結婚できないわけではないかもしれない。
そんな可能性がゼロではないと知ってしまった今、それは一生でも許されるのかもしれないと思ってしまう。
(いやいやいや、今からなんで結婚まで考えなくちゃいけないんだよ? だいたい僕はともかく、あっちは、圭介さんと結婚できる可能性はあるわけだし。今、あきらめる必要はないんだから)
桜子の幸せを願っていたので、妃那が圭介と婚約した先というものを一度も考えてみなかったことに気づいた。
(二人がくっついたら、姉さんは悲しむのは確かだよな。けど、それはもうどうしようもないことだから、やっぱり新しい恋をするのかな。
で、圭介さんに代わるイイ男と仲良くやっている脇で、僕はあの人なしでどうするの? また誰か見つけるの?
それとも、姉さんは一生圭介さんのことを想って、結婚したりしない? それなら、僕はそばで安心して暮らせるけど)
ダメだ、ダメだ! と、すぐに否定した。
どう考えても、桜子がその悲しみを乗り越えられるとは思えない。
そこまで全力を尽くしても、圭介さんが手に入らないとなったら、この間のようにショックを受けて、また病気になってしまう。
あれは王太子を撃退するためのハンストだったり、ダンマリをしていただけかもしれないが、それはまだ望みがあったから頑張れたこと。
圭介が妃那と結婚してしまったら、完全に望みが断たれてしまう。
入院中、どんどん弱っていく桜子を見ていられなかった自分が、そんな絶望した桜子のそばでどうやって生きていけるのだろう。
そんな選択肢はやはり考えてはいけない。
(じゃあ、逆に姉さんが圭介さんとめでたく結婚したら、残されたあの人は、どうするんだろう)
神泉の血筋の人と結婚するのは間違いない。
でも、彬を死なせないと約束している。約束は絶対に守ると言ってくれる。それは信じている。
けれど、現実的に夫がいるとなると、性欲発散はダンナで間に合う。彬を呼び出す必要はなくなる。
なら、彬が呼び出しても、すぐに来てもらえるのだろうか。
(ていうかそれ、僕、ただの愛人じゃん! 不倫じゃん!)
せっかく付き合いを認められて、よそ様に少しでも顔向けができる関係になったのに、また人には言えない関係になってしまう。
ダンナに許しを得られる愛人というのはいるのだろうか。
(『知る者』なら、それもアリ?)
よほど理解のある男ならそれもあるのかも、くらいにしか思えなかった。
そんなこんなで悶々と考えを巡らせているうちに、やはり本人に直接聞いたほうが早いということに気づいた。
(……まあ、ぜひともすぐに知らなくちゃいけないことでもないんだけど。何気にヒマだし)
彬はスマホを取って、妃那に会えるのかメッセージを送った。すぐに会えるらしい。
(これぞ、都合のいい関係だよな)
いそいそ出かける準備をしながら、出かける寸前、宿題が途中だったことを思いだして頭を抱えた。
(……やっぱ、都合のいい関係なんかじゃないじゃん!)
圭介に言われた通り、どうやら大事なことを全部すっ飛ばして、何よりも妃那に会うことを優先しているらしい。
妃那が家まで車で迎えに来てくれたので、そのままいつものホテルに向かう。妃那は相変わらずの無表情だ。
(発情してる?)
彬はじっと観察してみたが、わからなかった。それはホテルに着けばわかることだ。
ホテルに着いてパネルの前に来ると、いつもの部屋が『満室』になっていた。が、妃那はかまわずボタンを押す。
そのまま受付で鍵を受け取り、足早に部屋に向かった。
「ねえ、なんで? 満室ってなってたけど?」
部屋に入ってから、彬は聞いた。
「まさか、忘れたのではないでしょうね? あなたの部屋だと言ったでしょう?」
「それは覚えているけど。もしかして、満室にしておけば誰も使わないから?」
「ええ、そうよ」
「それなら鍵を預かった方がよくない?」
「チェックイン、アウトが分かったほうがいいでしょう? お掃除してもらわないといけないから」
「……それも込みなの?」
「もちろんよ。何も変わらないわ。出る時に鍵を返すだけで支払いがなくなっただけのこと。
ところでお話は後でもいいかしら? わたし、かなりガマンしているのよ」
そこで初めて妃那の顔がうっすらと赤く色づき、目が潤んでいることに気づいた。
「ごめん、ごめん」と、彬は深く口づけた。
次話、この場面が続いて、パート2【妃那&彬編】が完結です。
お時間ありましたら、続けてどうぞ!




