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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第6章-2 みんなからの祝福、いただきます。~妃那&彬編~

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17話 愛の力で突っ走れって……

本日(2023/05/05)は三話投稿します。


前話からの続きの場面です。

「ごめん、姉さん。僕のせいで……」


 彬が呆然としたままつぶやくと、桜子がやさしく肩を抱いてくれた。


「彬が謝ることないよ。相手にどういう意図があろうと、彬の気持ちは真実なんだから。

 好きになっちゃったものは仕方ないよ。そう簡単にあきめられるものじゃないんでしょ?」


「ごめん……」


「あたしだって、妃那さんが強敵だからって、尻尾まいてすごすごと逃げ出すわけにはいかないの。

 あたしはこんなことで圭介をあきらめたりしない。あっちの家に必ず婚約を認めさせる。

 今はこっちが形勢不利でも、きっと逆転する。何か方法は必ずあるって信じてる」


「彬くん、謝るのはあたしの方だよ。あの人を手玉になんて取れないのわかってたのに……」


 薫子はそう言って、暗い顔でうつむいた。


「やれやれ、なんだかみんな遭難でもしているみたいだわ」


 母親のノンキな言葉に、全員ががっくりと頭を落とした。


「遭難って……」


「音弥があんまり深刻に話して、子供たちを驚かすから、みんなビビっちゃってるじゃない」


「いや、でも――」


「音弥も変なところで頭を使いすぎるのよ。もっと単純に考えてみたら?」


「……単純に?」と、父親が首を傾げる。


「まあ、厄介な相手かもしれないけど、そこまで計算して動いているようには思えないわ」


「どこが?」


「だって、まず桜子の婚約は、神泉の許可が絶対に必要なものではないんだもの。単に、圭介くんの未来のために、プラスアルファにするためだけのもの。

 親権を持っている母親が承知しているんだから、それ以上は強硬手段には出られないでしょう。

 神泉の名前までなんて欲張らなければ、うちで『圭介くん』だけもらうだけ。婚約には何の支障もない。以上」


「……あ、そうか」


「もう、音弥は欲をかきすぎるのよ。何でも一度に手に入れようとするから、複雑になるんでしょうが。

 桜子たちの婚約に際して、もたらされるうちの利益まで計算してたんでしょ?

 こういう場合は一番欲しいものが何なのかを考えれば、そこから解決策というものが生まれるのよ」


「華……。おれにはやっぱりおまえが必要だ!」


 抱きつこうとする父親を押しやって、母親は彬を見た。


「あんたも自分が本気で好きになった相手を信じなさい。あんたがそこまで好きになれる子が悪い子だなんて、あたしは絶対に信じない」


「でも、僕は単純だからダマされても気づかないし……」


「じゃあ、あんたはどうして今そこで元気に座ってるの? あんたとの関係が公になった今、彼女にとってあんたはもう不要な存在でしょ?

 神泉側がそれを理由に桜子と圭介くんの婚約を認めないなら、それで彼女は圭介くんと婚約してめでたしめでたし。わざわざ関係まで親に認めてもらう必要がないじゃない。

 まあ、桜子と圭介くんの婚約を引き延ばすための時間稼ぎということもあるから、音弥の懸念(けねん)もあながちはずれとは言わないけど。

 そもそもその間、あんたと付き合って何のメリットがあるの? そんなことをしてたら、圭介くんの心が離れていくだけじゃない。そんな矛盾したことする?」


「そういうことをしそうな気もするけど……」


「本当に時間稼ぎをしたいだけなら、もっと他の方法にしない? あんたと付き合ったら、あっちにだってデメリットがないわけじゃないのよ?」


「どうして?」


「あんた、仮にも藍田の子息なのよ? そこら辺の男と一緒にしちゃいけないわよ。

 音弥は娘を持つ父親だし、男の立場でものを考えているから、弱い立場に思っているみたいだけど、あたしなら、傷モノにしたなんて言わせておかない。

 二人が愛し合っているのなら、いらないと言われようが息子を無理やり押し付けるわよ。それこそうちの権力を使ってでもね。

 そんなありがた迷惑な状況が目に見えてるのに、あんたと付き合わせるって、よほどのバカじゃなければ考えないわよ」


「……それは向こうにも事情があったりで、仕方なくだったりするんだけど」


「そう、向こうはそういうデメリットも考慮した上で、仕方なくでもなんでも、あんたを認めたの。

 ていうか、あっちだってよりによって、なんで藍田の子息なんだって思ってるわよ。

 そこら辺の男なら、大金積んでポイ捨てで済むんだから」


「……つまり、僕たちが付き合うことに姉さんたちのことは関係ない?」


「結論から言うとそうね。そもそもこの件にあたしは何の意図もあるようには感じられないし」


「え、でも、結果として姉さんたちの邪魔することにはなるわけだし」


「それは単なる結果論で、彼女はそこまで考えていないと思うわ。もしかしたら、そういう目的があって、最初はあんたを利用しようとしたかもしれない。

 けど、彼女は利用したはずのあんたを捨てられなくなっちゃったんじゃないの? 親に認めてもらってでも、手放したくなかった存在。それだけ大切に思われているって証拠じゃないの?」


 親に認めさせることを計画したかもしれない。

 その目的が単に関係を明らかにするだけのことだったら、あんなに泣いて引き留めたりしない。


 今頃、彬は抜け殻のようにベッドに転がっていたはずだ。

 最悪、死んでいたかもしれない。


 そういう姑息(こそく)なことができる人間ではないから、好きになったのだ。


(……好き?)


 カノジョなどと紹介したせいで、頭が混乱しているらしい。


「そう、なのかな……」


「もちろん、向こうの家にあんたと彼女の関係が知られた今、桜子の婚約に支障が出る可能性もある。

 けど、この秒読み段階の中で彼女があんたを選んだのなら、逆にそれを盾に戦うことだってできるのよ」


「どうやって?」


「愛の力で突っ走る」


「はい?」


「女ってのは所詮愛されたい生き物なんだから、愛してくれない圭介くんより、あんたの方を取る可能性があるってこと。

 付き合いを認めさせたように、結婚まで認めさせることができたら、あっちの家はもう圭介くんを手放さざるを得ないということでしょう?」


「いや、でも、僕、さすがにそこまで考えてないし……。だいたい神泉家が結婚まで認めるとは思えないけど」


「あら、そうかしら。彼女は『知る者』よ? その彼女が決めたことは家の決定。つまり、彼女が本気であんたが好きで、この先もずっと一緒にいたいと訴えれば、神泉の家も従わざるを得ないのよ。

 そう思わせられるかどうかはあんたの愛の力、ということ。

 あんたは今だけでいいと言ったけど、逆に彼女が『知る者』であるからこそ、あきらめる必要はないと、あたしは思うわよ。要はあんたの気持ち次第でどうにでもなるという話」


「……今までそんなこと考えてもみなかったから、うん、ちょっと考えてみる」


 そう答える彬に母親は微笑んだ。それから、母親は桜子を見た。


「桜子、あんただって、最後まで神泉家の許可をあきらめることはないのよ。

 彬のことで向こうは突っぱねてくるかもしれない。でも、あんたはあたしの自慢の娘よ。

 よさを認めてもらえれば、ぜひうちと縁続きになりたいと思わずにはいられないわ。

 だから、あきらめないでどこまでも突っ走っていいのよ。

 みんなに祝福される形で結婚できるのが、なんといっても、あんたたちにとって一番幸せだと思うから」


「お母さん……。うん、あたしもあきらめたりしないよ。きっとあたしをほしいって、思わせてあげる」


「薫子も落ち込まないでいいのよ。あんたの計画でもしかしたら、運命が動き出したのかもしれないんだから。

 これから先、彬の恋がうまくいった時は、やっぱりあんたが愛のキューピッドになるのよ。まだ結論を出すのは早いわ」


「うん。そうだね」と、薫子も笑顔でうなずいた。


「さあさあ、いつになったらプレゼントがほしいって言ってくれるのかしら。クリスマス終わっちゃうわよ。来年でいいのかしら」


 母親がとぼけたように言う。


「ああ! 忘れてた! ちょーだい!」

「あたしもほしい!」

「僕も!」


 手を出す三人に父親と母親は顔を見合わせて笑った。

さて、真相はいかに?

次話で妃那からその話を聞きます。

よろしければ、続けてどうぞ!

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