15話 半分ウソだけど、家族に報告です
本日(2023/05/02)は、二話投稿します。
前話から引き続き、彬視点です。
昨夜寝ていない彬は、明け方早く家に帰ってくると、ほとんど一日寝て過ごした。
ようやく夕方になって行動開始。
「あー、もう、やっと起きた!」
洗面所で顔を洗っていると、薫子がやって来て不満げに言った。
「ふー、やっと起きられた」
身体の疲れも取れて、気分は爽快だ。
「もう、お父さんとお母さん、プレゼント渡そうとして待ってたのに。何度起こしても起きないんだから」
「ごめん、気づかなかった。それで、父さんたちは?」
「夕ご飯の時に戻ってくるから、その時にって」
「姉さんは? 出かけてないの?」
「今日は家にいるよ」
「で、で、昨日の話の続きなんだけど、何、カノジョって? 神泉妃那のこと?」
「そう。いろいろ片付いたから、今日の夕食の時にでもみんなにもちゃんと言っておくよ」
その夜、家族がそろって、いつもより少し贅沢にデパ地下お惣菜で、クリスマスパーティとなった。
「で、お母さんたちは、どんなクリスマスを過ごしたの?」と、桜子が聞く。
「あたしたちは銀座でお食事して、ホテルに泊まってきただけよ」
「盛り上がった?」と、薫子が興味津々に聞くと、にっと笑って母親は右手を見せた。
「新しい指輪をもらいましたー」
姉と妹は「見せて、見せて」と顔を近づける。
それを見て、父親はほけほけと幸せそうな顔をしている。
その後は神泉家のパーティの話になった。
どうだったか詳しいことは、薫子が撮った写真を見せながらぺらぺらと話してくれた。
どうやら妃那が計画していたパーティはどれも成功だったらしい。
食事は立食式、七面鳥をメインに巨大ローストビーフ、後は食べやすいようにオードブルはいろいろな種類のピンチョス、サンドイッチや巻きずし、子供の好きなポテトやオニオンフライといったファーストフードまで。
どれを食べてもおいしかったと言っていた。というか、全種類制覇したと薫子は豪語していた。
そして、クリスマスケーキは壮大な庭付きのお菓子の家。牧場の小屋をイメージしたらしい。
(僕も一緒に計画したのに……)
何にも見られなかったし、何にも食べられなかった。イルミネーションも門から玄関に入るまで、ちらっと見ただけ。
すべてがうまくいった今となっては、残念で仕方がない。
(しかも、僕、来年は絶対に行けないし)
ぐすん、と彬は鼻をすすった。
「それで、神泉会長にはあいさつできたの? 一番の目的だったんでしょ?」と、母親が桜子に聞く。
「できなかったー。あれは、明らかにあたしと顔を合わせまいとして、逃げていた……」
桜子がむうっと口をとがらせる。
「逃げる?」と、母親は驚いたような顔をする。
「だって、そうとしか考えられなかったもん。ちらっと姿が見えると、どっかに消えちゃうの。
まるで鬼ごっこしているみたいだったよ」
「あの神泉会長が姑息な手を使うとは思えないけどなあ。婚約を認めるかどうかはともかく、パーティ客へのあいさつくらいはするだろ。主催者側なんだから」
父親は納得できないといったように首をひねる。
「もしかして、桜ちゃん、怖がられていたんじゃない? きっと一度話を始めたら、絶対婚約を押し切ってくるって」と、薫子。
「こっちはそのつもりなんだからしょうがないじゃない」
「だから、せめて顔を合わせなければ、回避できると」
「とはいえ、そんなの大勢いるパーティの場だからできることで、改めて機会を設けてあいさつってなったら、逃げられないんじゃない?」
「そういう時は仮病使うとかで急に来られなくなったとか、家に押しかけても病気で寝てるとか」
「そうやってずるずると引きのばして、いつまでも婚約させないってこと?」
「うん、そう」
「うーん。つまり、ただ単純にあいさつがしたいって言っても、会ってもらえないってことになるから、何か方法を考えなくちゃいけないわけか」
桜子は腕を組んで悩んでいる。
「あたしも協力するよ。いい作戦を考えよう」
「でも、いまひとつ、わかんないんだよね。妃那さん、親公認の恋人ができたみたいだし、圭介はもうどうでもいいんじゃない?」
彬は思わずむせた。
「大丈夫? あわてて食べないの。ほんと、小さい頃から変わらないんだから」と、桜子がとんとんと背中を叩いてくれる。
「姉さん、知ってたの?」
「あたしも今日、圭介から電話をもらって知ったところなんだけどー」
「圭介さんから電話があったんだ」
「うん。昨日家のゴタゴタで、パーティの後、出かけられなくなっちゃったでしょ。改めてごめんって。で、その理由も教えてもらったの。
妃那さん、どうもそのことでお父さんとケンカ? みたいになってて、圭介が仲裁に入ってたとか」
「相手は神泉の人じゃないの?」と、母親が聞く。
「それは聞かなかったけど、隠れて会っていたみたいだから、違うんじゃない?」
「……それ、僕です。みんなに一応、言っておこうと思ってたんだけど……」
彬がぼそぼそと言うと、桜子と母親は「はいっ?」とすっとんきょうな声を出し、薫子は疑り深い目でじいっと見つめてくる。そして、父親は世界が終わったといったような顔をしていた。
「あ、あんた、本当に妃那さんと付き合ってるの!?」
桜子は驚きすぎたのか、声が裏返っていた。
「だから、そうだって」
「だって、神泉の人がどうして彬を認めるのよ? しかも、『知る者』の妃那さんなんて、殺されてもおかしくないじゃない」
「だからまあ、コソコソ隠れて会ってたわけで。けど、このままってわけにもいかないから、あっちのお父さんに紹介してもらった……」
彬はウソまではいかない程度に話をしていた。
「で、あっさり許してくれたの?」
「すったもんだはあったけど、最終的には納得してもらえて、無事に親公認で会えることになったわけ」
「彬がずっと『カノジョ』って言ってたの、妃那さんのことだったのかあ。うん、それは忍ばざるを得ない恋よね。万が一親に知られたら、引き裂かれてしまう。映画のような設定よね」
桜子は「うん、うん」と納得している隣で、薫子もやれやれといったように笑っている。
「ああ、もう、やっと納得いったよ。昨夜、彬くん、いったんは交渉が決裂したから、パーティの途中で帰っちゃったんだね。で、妃那さんはそのままお父さんと交渉を続けて、で、めでたく朝まで寝ないでクリスマスデート」
「余計なこと言うなよ!」
思わず赤くなってしまうから、全部暴露させられてしまう。
「事実でしょ? でも、あんなに落ち込んでる彬くん、初めて見たから、よっぽど妃那さんのことが好きなんだってわかるよ。あたしにも必死で隠そうとして、ウソついて。よかったね、うまくいって」
薫子はにっこり笑った。
(……なんか、違うんだけど。僕、わりと本当のことを話してたつもりだよ?)
「彬にとっても素敵なクリスマスになったんだね。よかった」
桜子はほんのり顔を赤くしてふんわりとした笑顔を向けてくれる。
(姉さんに祝福されるのはなあ……)
彬はうれしいと思うより、切ない気分の方が勝っていた。
次話もこの場面が続きます。
お時間ありましたら、続けてどうぞ!




