10話 夢がひとつ叶って、メリークリスマス
本日(2023/04/21)、二話目になります。
圭介が会場に戻ると、料理はすっかり下げられ、デザートがテーブルの上に置かれていた。
「圭介!」
呼ばれてキョロキョロしていると、桜子が人ごみから姿を現した。
「おう」
「もう、どこに行ってたの? あちこち探しちゃった」
「ごめんな。ちょっと家の方がゴタゴタしてて、時間を食っちまった。おかげで、おれ、何にも食べないうちに料理終わってるんだけど……」
「どれもおいしかったよー。全部味見しちゃった。ダーリン、毎日こんな料理食べてるの?」
薫子が桜子の隣でケーキをほおばっている。
「こんな料理って、おれ、何があったかもほとんど見てないし、味も見てないからわからん……」
「ケーキならまだ残ってるよ。もう見る影がないんだけど……。あ、ほら、写真撮ったから、見せてあげる」
桜子に見せられたスマホには、絵本の童話に出てくるようなカラフルな家が映っていた。
「え、これ? ケーキって」
「そう、お菓子の家。かなり大きかったよ。いろんなお菓子を使っていて、子供も大興奮。みんなバシバシ写真撮ってた。妃那さんがデザインしたのかな」
「たぶん?」
「あたしはこの壁模様のマカロンのところと、煙突のチョコウエハース食べたんだ」
「あたしは、雲の綿あめと壁のスポンジケーキ。クリームはオレンジ味だったよ」
桜子と薫子がそれぞれ指を差して教えてくれる。
圭介がそれのあった場所を見ると、土台しか残っていなかった。
(……おれ、何のためにこのパーティに参加したんだ?)
「妃那さん、やっぱり子供の感覚だから、こういうパーティなら楽しいよ。また呼んでほしいなー」
薫子が笑顔で言うと、桜子も「うん、うん」と同意する。
「圭介のうちだから、あとあと面倒じゃないし。来やすいのは確かよね」
自分はともかく、招待した二人に楽しんでもらえたのは何よりだったが、本来の目的を思い出して、圭介は辺りを見回した。
「ジイさんは見かけた?」
「ちらちらとは見かけたんだけど、圭介もいないし、あたしから声をかけるのはどうかなって」
「だよなー……」
源蔵の姿は、会場の中には見当たらなかった。
さすがに部屋まで押しかけて、あいさつに行くのもどうかというところだ。
こっちのメインイベントも、目的達成ならずで終わりらしい。
「まあ、次のチャンスを待とう。今日は普通にクリスマスってことで、最後まで楽しもうよ」
桜子の方に気にした様子もなく、明るい笑顔を向けてくれるのがせめてもの救いだった。
「パーティ、そろそろ終わるころだと思うけど、この後は出かけないの?」と、薫子が聞いてくる。
「どうする? あたしはかまわないけど……」
桜子は頬をうっすらと染めて、きょときょとと目を泳がせている。
(これは……この後のことを意識しているということで間違いないよな?)
パーティは9時には終わる予定だったので、その後は二人でイルミネーションを見がてら出かける予定だった。
母親のアドバイスに従って、ホテルも予約済み。
この日が来るのをどれだけ楽しみにしていたか。
(なのに、どうして予定外のことが発生するかなー!?)
そういうことも含めて、自分のことで頭がいっぱいだったのが、すべての原因だった。
彬がパーティに来た時点で、もっと注意を払うべきだったのだ。
おかげで、ドレスアップしたきれいな桜子を目の前に、まさかのお預け。
自業自得というには、悲しすぎる結末だ。
(だからって、妃那と伯父さんをこの状態で放っておくわけにもいかんしな……)
「桜子、マジですまん。今夜はこのまま出かけるってわけにはいかなくて……」
圭介はしょぼんと頭を落としながら、桜子に謝った。
「もしかして、さっき言ってた家の方のゴタゴタ?」
薫子からまっすぐな視線を向けられているのを感じる。なんだかすべてを暴かれているような気分だ。
彼女も彬と妃那の関係を知っているので、何か察することがあるのかもしれない。
「うん、まあ、今は詳しく話せないんだけど……。ほんと、ごめんな。おれの方から誘ったのに」
「そんな、気にしないで。あ、そうだ、プレゼントを渡したかったんだ」
「え、マジで? おれも用意してあったんだけど」
「じゃあ、お二人がプレゼント交換している間、あたしは庭の写真でも撮ってるかなー」
薫子は相変わらず気遣いがうまい。そんな彼女が立ち去ろうとして、ふと振り返ってきた。
「ねえ、そういえば、彬くんは? 全然姿を見てないけど」
「あー、彬、先に帰ったんだ。なんか、体調悪いとかで」
「え、そうなの? 帰るなら、ひと言くらいあってもいいのに!」
「もう!」と、薫子は頬をふくらませた。
(それもやっぱり、おれのせいだよな……)
桜子のプレゼントはクロークに預けてあるということで、圭介も自分の部屋から取ってきて、庭のテラスの席で落ち合った。
「悪い、待たせた」
一人で座っていた桜子の隣に、圭介も腰かけた。
「ううん。イルミネーション見てた。こんなふうに座ってのんびり見られるなんて、贅沢だよね」
「暖房のおかげで、外でも寒くないしな」
「ほんと、クリスマス一日にどれだけ財産を使うんだか。恐ろしいわ」
「おまえらしい感想で」と、圭介は笑っていた。
「妃那の記念すべき初クリスマスだから、許してやって。ていうか、神泉家始まって以来のクリスマスだな」
「そういえばそうだよね」と、桜子も笑った。
「じゃあ、はい、プレゼント。メリークリスマス」
長細い小さな包みを差し出すと、「ありがとう」と、桜子は笑顔で受け取ってくれた。
「あたしのはこっち。メリークリスマス」
大きめの紙袋からリボンのかかった包みが出てくる。
「開けていい?」
「うん。あたしも開ける」
二人で並んで包みを開き始める。
「あ、きれい。ネックレスだー」
「気に入ってもらえるといいんだけど」
「うん、こういうシンプルなの、好きなの。ほら、ずっとつけていても気にならないし。せっかくならずっとつけていたいもん」
(薫子、ばっちりだ!)
圭介は内心拳を握りしめながら、自分の軽い包みを開いた。
中から出てきたのはオフホワイトのマフラーだった。ふかふかしていて気持ちいい。
「……もしかして、手作りだったりする?」
恐る恐る桜子の様子をうかがうと、にっと笑顔を返された。
「へへー。退院した後、頑張って作ってみました」
桜子は照れたように言う。
「マジで!?」
「編み物、初めてだったから、最初は慣れなくて大変だったよ。でも、喜んでもらえてよかった」
「これは普通に喜ぶ! カノジョからの手編みのマフラーとか、おれの夢! ていうか、妄想。ついに叶う日が来た!」
バンザイと圭介はマフラーを掲げた。
「もう、大げさだよー」と、桜子はコロコロと笑う。
「圭介、これ、つけてくれる?」
桜子は首に巻いていたスカーフを外し、圭介にネックレスを預けてくる。
背を向けて髪を上げると、きれいなうなじがのぞいて、思わずドギマギしてしまい、留め金を持つ手が震えてしまった。
「やっとできた」と、留まった時にはほっとしてしまった。
「どう?」と、桜子が振り返る。
首筋で銀の鎖が光を反射してきらきらと輝いている。白い肌と相まって、どこかなまめかしい。
どちらかというと、ネックレストップの真下のくっきり浮かび上がっている胸の谷間の方が気になってしまった。
「うん、きれい。……けど、そのゴージャスなドレスには小さすぎるかな」
「普段用なんだから、今はいいのー」
(くぅ……。これは何の拷問だ!?)
まだまだ招待客がウロウロしている中、相変わらずご学友でいなければならなかった。
家に帰った彬はどうしているのか。
次回、二話同時アップ、お楽しみに!
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