6話 これはただの八つ当たりです
本日(2023/04/14)、二話目になります。
4話の続きの場面になります。
彬視点です。
圭介が自分に近づいてくるほど、彬の中に抑えのきかない怒りがわき上がってくる。
(この人さえいなければ、僕は何にも失うことはなかったのに! 全部全部、奪っていくんだ!)
「ああ、よかった。間に合って」
彬は圭介の声を聞いて、たまりにたまった怒りが爆発した。
「どうして話したの!? 話したらどうなるかわかっていて……どうして!? こんな関係、どうやったって認めてもらえるわけもないのに!」
(ああ、本当は違う。圭介さんが悪いんじゃない)
こんな関係なのに、甘んじて受け入れてきた自分の責任。妃那に甘えて、手っ取り早く楽になろうとしていた。
その心地よさに抗えなかった。抗うことすらしなかった。
(だから、バチが当たったんだ)
「おまえは認めてほしかったの?」
「バカなこと聞かないでくれる? 認められるわけないのに。バカバカしい」
「認められると認めてほしいは、意味が違うよ。おれはおまえの気持ちを聞いたの。一般的な話じゃない」
問われて、彬は口をつぐんだ。
(認めてほしい? こんな関係を? 身体目当てに都合よく扱っている僕を認めてほしいなんて思うわけない)
でも、万が一認められたら、何も後ろめたいこともなく、堂々と妃那と会っていられる。
隠しておく必要もなくなる。
そして、それは本当に万が一の話でしかなく、実際にはこうして家を追い出されたのだ。
「……認められるものなら、認めてほしいよ」
バカバカしいと思いながらも、彬はぶっきらぼうに言い放った。
気持ちがどうであれ、事実は変わることはないのだから、今さらこんなことを言うことさえ、ムダに思える。
「だよな。おまえ、そんな顔してたから」
「そんな顔って……?」
「伯父さんに拒絶されたことが、一番こたえたんじゃないか? どんな関係であれ、おまえは神泉の娘の妃那の相手として、絶対に認めてもらうことはない。
それでも、心のどこかで期待してしまわないか? 実際に触れ合って、大切に思える相手になってしまった今、もしも認められるなら、なんて考えてしまわない?」
「そんなの、わかってる。頭でわかっていても、現実的にどうしようもないから、腹が立つし、イライラもする――」
彬ははっとして言葉を止めた。
先ほどまで意味の分からない感情に振り回されていた。それはこういうことだったのだろうか。
妃那は中身はどうであれ、同族婚の神泉家の娘。藍田の子息など物の数に入らない。
しかも、妃那は神泉家の『知る者』。神がかった存在。
そんな相手に自分が望まれることなど、決してない。
どうして、そんな相手がいなければ、生きていけないような関係になってしまったのか。
失ったら絶望して、動けなくなるとわかっていて、さっさと手放すこともしない。
それこそ、『万が一』を期待して、さらに深みに入ってしまった。
「もどかしいよな。いっぱい矛盾を抱えて、それでも一番いいかなって思った道を選んでも、結局、後悔したりして」
「その通りだよ。そうやって選んできた道の結果、今日が来たんだ。後悔しても取り返しのつかないことをしちゃったんだ。全部失って……」
彬はあふれてくる涙を見せないように顔をそむけた。
「……ごめんな。これ以上、どうしてやることもできなかったんだ」
圭介の大きな手が頭の上に乗る。なんだか父さんの手みたいだと思った。
まるで小さな子供をあやすように、かわいそうにと同情するように。
それはこの上なくみじめなものでしかなかった。
彬は手を振り払って圭介をにらみつけた。
「圭介さんが余計なことをするから、こんなことになったんじゃないか! 別に圭介さんにどうこうしてもらう必要なんてないのに……! どうして放って――」
圭介は彬の言葉をさえぎって、静かに言った。
「おれが話す前に、伯父さんが気づいてたんだ」
「そんな……」
「おまえら、ホテル代、カードで払ってただろ? あれは魔法のカードじゃない。あとで請求が来るんだ。明細書と一緒に。どこで何に使ったか全部わかる。伯父さんはそれを知って、おれに相談してきたんだ」
「それで、全部話したの?」
「話さざるを得なかった。妃那に男がいると知って驚いてた。しかも、月に何回もホテルを使って会ってる。心配していたし、怒っていた。相手はどんな奴かと」
「それで、僕だって言ったの……?」
「最終的には。けど、おれはどうして妃那がこんなことをするのか、伯父さんに知ってもらいたかった。
おまえは妃那にもう聞いているだろ? 伯父さんはそれまで妃那が兄貴にされていたことを知らなかった。
どうしておまえを必要とするのか、今の妃那にどれだけ大切なことかを、おれの知る限りで話した。
おまえのことは、妃那に男がいると発覚した時点で、遅かれ早かれ、興信所で調べればすぐにわかることだったんだ。だから、伯父さんに伝えた」
ただ恥ずかしかった。何も知らずに、全部圭介のせいにして。顔も合わせられなかった。
次回もこの場面が続きます。
この話の行きつく先を、ぜひ見届けていただければと思います。
二話同時アップ、お楽しみに!
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