5話 この計画の失敗は、おれのせいか?
本日(2023/04/14)は二話投稿します。
時間は少し遡って、圭介視点になります。
その少し前、パーティ会場で圭介は源蔵を探して、桜子と人ごみを縫って歩いていた。
ちらりと姿を見かけて追いかけると、すでにその姿は消えている。
人に聞いても、「ああ、今、こちらにいましたけど」と言われる。
乾杯からかれこれ一時間近くが経つが、源蔵が捕まらない。
気合を入れてあいさつに行こうとしていたのに、その機会がちっとも訪れない。
薫子はとっくにあきらめて、料理を食べに行っている。「捕まったら、呼んでねー」と言い残して。
「ああ、もう、ジイさん、絶対に逃げてる!」
「やっぱり、あたしに会いたくないのかしら」
「さすがに往生際が悪いだろ? いい大人がすることか? ここまできて、逃げるとかありえねえ」
「伯父様の方も見当たらないわよね」
「……もう、せっかくのチャンスだったのに」
がっくりと圭介は頭を落とした。
「じゃあ、少し休憩して、何か食べない?」
「そうだな」
二人で壁際に並ぶブッフェテーブルに行って、真っ先に七面鳥のところへ行った。
薫子がそこにちょうどいたからだ。
「あ、桜ちゃん、ダーリン。おじいさん、見つかったの?」
「ううん。なんか行き違いになっちゃって。ご飯を先にしようかと」
「この、七面鳥、脂のってておいしいよー。さっきから、何度もお替りしてるの」
「じゃあ、あたしも」
二人で取り分けてもらって、七面鳥の丸焼きを食べ始めた。
「あ、うまい。初めて食べた」
「うん、おいしい。皮のところが特に。パリパリしている」
「そういや、妃那は? ずいぶん見かけてないような気がするけど」
「今日の主役なんだから、あっちこっち引っ張りだこなんじゃない?」
圭介は振り返って会場をぐるりと見回したが、目立つ赤いドレスは見えなかった。
妃那が見当たらないということは、そのそばにいるはずの彬も見当たらない。
そして、さっきから智之の姿もない。
このパーティの主催者が長く席を外しているというのもおかしい。
(……なんか、やばいことになってない? 普通に考えて、その三人って、これから何か起こりそうなメンバーだよな?)
「ごめん。ちょっと食べてて。おれ、探してくる」
桜子に言いおいて、圭介は妃那を探し始めた。
会場にも庭にもいない。
圭介は会場を抜け、階段を上って妃那の部屋に向かった。
(まさか、二人でやってるとかないよな。ああ、いや、妃那のことだから、後先考えずに彬を引っ張り込んだかも)
嫌な予感は見事に的中して、2階の廊下に入ったところで、妃那が泣きながらこちらへ向かって走ってくるところだった。
妃那は圭介に気づくと、胸に飛び込んできた。
「妃那、どうしたんだ!? 何かあったのか!?」
「圭介のバカ! どうしてお父様に話したりしたの!? おかげでお父様が怒って、彬を帰してしまったのよ! 全部圭介のせいよ!」
妃那は圭介の胸をボコボコ叩きながら、わんわん泣いてわめいた。
「だって、おまえ、カードなんて使うから。明細書からバレるだろ。おれが話したっていうより、伯父さんが気づいていたんだよ」
「どうして圭介は言ってくれなかったの!? 言ってくれたら、こんな計画立てなかったのに! 圭介のせいで全部台無しよ!」
「……計画?」
「そうよ! 今日のパーティで彬をお父様に紹介するつもりだったのよ!」
「バカ。なんでそんな計画立てるんだよ? おまえもわかってただろ? 親に認めてもらえるような関係じゃないって」
「わかっているわ!」
「だったら――」
「桜子の弟としてなら紹介してもいいと考えたのよ。そうしたら、お父様にも彬の話ができるもの。
圭介と叔母様が桜子のことを話していたみたいに、わたしもお父様と彬の話をしたかったの! だから、計画を立てたのに!」
「彬もその計画を知っていたのか?」
「知らないわ。だって、お父様には顔を合わせたくないから、パーティには来ないと言っていたんだもの。だったら、無理やり来させるようにするしかないでしょう」
「それで、おまえの計画通り彬はやってきて、伯父さんに彬を紹介したけど、帰れって追い返されたのか?」
「違うわ。圭介がお父様にも桜子を紹介すると言っていたから、彬には桜子のそばにいてもらうつもりだったの。そうしたら、一緒に紹介できるでしょう? でも、紹介する前にわたしがガマンできなくなってしまって、彬と部屋に行ったの。そうしたら、お父様が入ってきてしまって……」
「現場を目撃してしまったと……」
こくんとうなずく妃那を見て、圭介はぐらりと倒れそうになった。
「全部、圭介のせいよ! わたしの計画をめちゃくちゃにして! いつもいつも圭介はわたしの計画を失敗させるんだから!」
(……おれのせい? おれが伯父さんにしゃべったことを知らせなかったのが全部の原因? ああ、そうだよな……)
「すまん。それで、彬は? まさか、殴られてどっかでひっくり返っているとか!?」
「彬なら帰ったわ。お父様に帰れって言われて、帰るって。わたしはイヤだと言ったのに、彬はさよならと行ってしまったの。
だから、早く追いかけないと。彬が死んでしまう。彬はわたしがいないと生きていかれないの。傷ついた時、わたしがそばにいないとダメなの。死んでしまうのよ!」
圭介は妃那の頭に手を置いた。
「彬はおまえにとって一番大事なんだな」
「そうよ!」
「おれよりも?」
「圭介には桜子がいるもの。けれど、彬にはわたししかいないのよ!」
それは単なる『好き』なんかより、ずっと『大切』だと言っているのだ。
たった一人のために自分がある。
そんな風に思えるのは『愛』というものなんじゃないかと思った。
きっと妃那の中でその言葉と感情がリンクしていないだけなのかもしれない。
「妃那、彬を失いたくないんだよな?」
「絶対にイヤよ。わたしが幸せでいるために、彬が必要なの」
「なら、その気持ちをおれだけじゃなくて、伯父さんにもちゃんと伝えて。どうして彬が必要なのか、どうして彬じゃなくちゃダメなのか。落ち着いて、伯父さんが納得するまで話すんだ」
「そうしたら、お父様は許してくれるの?」
「伯父さんが決めることだから、おれにはわからない。けど、伯父さんはおまえのためにできることを探していた。彬のことも知っていて、ずっと黙っていた。それは決して頭から反対する気はなかったってこと。話し合いで充分に解決できることだと思うよ」
「……わかったわ」
「おれは彬を追いかけてみる。きっと落ち込んでると思うし」
「お願い、圭介。早く見つけて。彬が死んでしまったら……!」
妃那は再び泣き出した。
「大丈夫。おまえがいるから、きっと死ねないよ」
圭介は妃那の頭をなでると、その身体を離し、踵を返した。
次話は4話の続きの場面に戻ります。
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