3話 僕が参加するのはまずいよね?
本日(2023/04/11)は二話投稿します。
前話からの続きです。
彬がその次に会った時、妃那は落ち込んでいた。
「サンタクロースはどう仮説を立てても、存在は証明できなかったわ」と。
「そうか、残念だったな」
彬は頭をなでてやった。
「その代りにね、圭介とクリスマスを一緒に過ごす計画を立てたのよ」と、妃那は気を取り直したように顔を上げた。
「ちょっと、待ってよ。二人のデートを邪魔するつもり? 姉さん、かなり楽しみにしているのに、そんなひどいこと、僕は認めないよ」
「わかっているわ。そんなことをしたら、圭介が笑ってくれなくなってしまうもの。だから、圭介と桜子がうちのパーティに来るのよ。そうすれば、圭介は桜子と一緒にいられるし、わたしも圭介とクリスマスを過ごせる。素敵な計画でしょう?」
「……そりゃ、君にとってはいい計画かもしれないけど、二人っきりで過ごしたいんじゃない?」
「セックスしたいから?」
「それも含めて、二人の世界を作りたいってこと。それなのに、君が明らかに邪魔しなくても、邪魔だって思われるようなところにわざわざ行ったりしないよ。だいたい姉さん、そういうおエラいさんの集まるパーティ嫌いだし。何が悲しくて、付き合って初めてのクリスマスをそんなパーティで過ごしたいと思う?」
「なら、桜子が来たいと思うパーティにすればいいのでしょう?」
「まあ、確かに」
「それを計画するわ」
ところが、その計画を聞いて、ぶっ飛んだ。
二人が見に行く予定だったイルミネーションを自宅に作るのはまだいい。
そして、桜子が神泉の婚約許可を取れるかもしれない、というエサをまくのもいい。
が、そのための手段に彬まで入っていた。
「いやいやいや、ありえないって! 僕がどのツラ下げて、君のうちに行けると思ってるの!?」
「でも、お父様に紹介するわけではないし、あなたは桜子の周りをウロウロしていればいいのよ」
「……何のために?」
「桜子の性格を分析して答えをはじき出したところ、婚約を認めてもらうために『気に入られるようなことをする』必要はないの。つまり、ありのままの自分を見せに来る。
知らない人ばかりの中で常に周りに気を使わなければいけないという状況は、難しいものがあるでしょう。そこで、あなたや薫子がそばにいれば、普段の自分を見せやすくなる。心の支えとでもいうのかしら」
「なるほど……。それなら薫子だけでいいじゃないか。僕が行く理由はないだろ?」
「あなたは家族でクリスマスを過ごすようだけれど、子供があなたしかいない状況では、ご両親は二人で過ごしたいのではないかしら。
そうなると、あなたは邪魔でしょう? だから、うちに来てもらった方がいいと思ったのだけれど」
「……そうかもしれないけど。それくらいなら、どっかプラプラしてるとか、家でゴロゴロしている方がまだマシ」
「あら、そう。あなたはどちらでもよかったから、その方がいいというのなら、かまわないわ」
「……君のお父さんの目に触れるところにはまず行きたくないから」
そういうわけで、クリスマスは一人寂しく過ごそうということになったのだが、話の流れで行くことが勝手に決まってしまっていた。
(……なんでさあ)
今思うと、桜子や圭介の性格から、彬も当然行くことになる、という流れだったに違いない。
もちろん抗えることもできただろうが、自然の流れには勝てなかった。
当日に仮病を使うことも考えたが、桜子がメインで、自分は付き添い。
紹介されるわけでもなし、個人的に話をすることもない。
要はおとなしく、パーティ会場をウロウロして、ご飯を食べてくればいい話なのだ。
そんなに気にすることはなかったか、と思い直した。
(僕、何テンパってたんだろう。恋人って紹介されるならまだしも、ただのクラスメートの弟で行くのに。ああ、もう、気にして損した)
というわけで、パーティ会場に来たのだが、圭介に妃那のエスコートを頼まれ、桜子の周りをウロウロする作戦はすでに失敗。
そして、妃那のそばをウロウロする羽目になった。
妃那のところへ行って、一応よそ行きのあいさつをすると、冷たい眼差しを向けてきた。
「あなた、使えないわね」とささやくように、冷たいお言葉。
「だって、圭介さんが行けって言うから」
「もういいわ。桜子が来た時点で、そもそも計画は終わっているのだから」
じゃあ、帰っていいの? と聞きたかったが、エスコート役として紹介されてしまった今、乾杯の前に逃げることもできなかった。
こういう場で、めったにパーティに来ない藍田の子息を放っておいてくれる人はいない。
妃那との関係は友人。彬は同族婚の神泉では相手にならない。
それをみんな知っているから、逆に彬の方に自分の娘たちをお勧めしてくる。
藍田の子息は婿養子と相場が決まっているから。
それは薫子も同様。
藍田の子供を欲しがる家はいくらでもある。
(だから、こういうパーティは年頃になってからは、特にイヤだったんだ)
桜子がそばにいれば、やんわり間に入ってもらえるものの、一人になってしまえば、自分で何とかするしかない。
笑顔でのらりくらりとかわし、気分を損ねないように、しかし、決して言質を取られるようなことは言ってはならない。
かなり神経を使うのだ。
ボケっとしていたら、いつの間にかよその家の子になってしまう。
なのに、唯一ほしがらない家。それが神泉家だ。
(……なんか、腹立つ。ほしいって言われたいわけじゃないけど)
壇上で涼しい顔をしている妃那がなんだか憎らしい。
彬のことをいつも『嫌いじゃない』と言ってくる女。
なのに、彬の存在を必要だという。
はては、彬のために死んだりしないとまで言う。
イヤイヤにも見えないし、頻繁に会いたいと言ってくる。
単に性欲旺盛なのか。
なら、自分はどうかと言われても、やはり桜子を好きなように妃那を好きだとは思えない。
好きというには、妃那は変だ。
楽しいし、セックスの相性もいい。何の問題もない。
そう、何も問題ないから、この関係を続けているのだ。
人に説明するのもめんどくさい関係だから、わかりやすく家族には『カノジョ』ということにしているだけ。
でも、最近変にイライラする。
自分の中に矛盾が生じているような気がしてならない。
そんなイライラを吐き出すために妃那を抱いて、またイライラして同じことを繰り返す。
そして、ここへ来てもそんな感情がわき上がってくる。
妃那が彬など全く知らない人間のように視線に入れてこないのが、腹立たしいのだろうか。
それとも、彬に気づいて少しでも笑みを浮かべて、合図してほしいのだろうか。
意味が分からない。
ふと気づくと、妃那の視線の代わりに父親、シンセン製薬社長の目とぶつかった。
なんだか、壇上からにらんできているような気がする。
(いや、気のせいだって。僕が誰かは知ってると思うけど、娘との関係を知ってたら、僕、今頃神泉家に抹殺されてるよ。『知る者』を穢したとか言って)
「皆さま、ご歓談を。庭の方も暖かくなっていますので、妃那の作ったイルミネーションもお楽しみ下さい。では、乾杯」
みんなのグラスが掲げられる。
それから、妃那が壇上から降りてきた。
「来て」と、すれ違いざまに妃那がささやく。
(どこへ?)
聞きたかったが、妃那はどんどん人ごみに埋もれていってしまう。
ふとポケットのスマホが震えていることに気づいた。
開いてみると、妃那からメッセージが入っていた。
『5分後に人に見つからないように2階に上って』となっていた。
次話もこの場面が続きます。
呼ばれた理由は?
お時間ありましたら、続けてどうぞ!




