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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第6章-2 みんなからの祝福、いただきます。~妃那&彬編~

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2話 パーティを企画した黒幕は……

本日(2023/04/07)、二話目になります。


彬視点です。

 わき上がる拍手の中、真っ赤なドレスをまとった少女が壇上に上がった。


 小柄な体に似合わないくらい、ふくよかな胸をドレスに押し込み、長い黒髪を身体にまとわせている。

  どこか無表情で、泉を思わせる静かで淡々とした目を群衆に向けていた。


 隣に立っていた彼女の父が紹介を続ける。

 父親の方は背も高く、恰幅(かっぷく)もいいので、余計に彼女が小さく見える。


「わたしの娘、妃那は長きにわたり病をわずらっておりましたが、ようやく回復し、こうして年の最後に皆様に紹介できることができました。今年はわたしにとって彼女の回復や藍田グループとの業務提携拡大等、よい年を過ごすことができました」


 父親の招待客たちに対するあいさつはまだまだ続く。


 彬は適当に話を聞きながら、その父親の隣で動きもせずに立っている少女を見ていた。


「おきれいなお嬢さんね。お人形さんみたい」

「しぃ! 神泉家の『知る者』なのよ。百年ぶりに現れたという神様みたいな存在に、見た目がどうとか言っちゃダメよ」

「じゃあ、これからシンセンの業績は……」

「ええ、うなぎのぼりでしょう」


 女性たちは仕事の話に興味ないのか、やはりその少女のことをウワサしている。


(……中身は3歳児の痴女なんだけどな)


 彬はそんな妃那の様子を見ながら、内心ぼやいた。


 しかし、妃那が『知る者』なのは間違いない。

 (あま)(さい)を持つ存在。妃那はいずれ神泉家の当主になる。一族を繁栄に導く存在だ。

 彼らにとっては、神様にも等しい存在。それが妃那だった。


 妃那が知力を駆使すればあらゆることが可能になる。

 近くで見てきた彬は、それをイヤというほど知っていた。


 シンセン製薬の業績はどこまでも上がっていくことだろう。

 すでに『知る者』の存在が明らかになったことで、その後の会社に対する期待で株価は上昇。かなりの収益を得ている。


 とはいえ、今のところ妃那が会社のために力を使っている様子はない。

 好きな男を手に入れるためだけにクーデターまで起こし、犯罪まがいのことに平気で力を使っていた。

 ただの何も知らない子供だった。


 けれど、最近ずいぶんと変わってきたと思う。

 そもそもこのパーティを企画したのは妃那なのだ。




 ***




 12月初めの放課後、いつもの場末のホテルの一室で、彬は妃那と会っていた。


 週末を含めて週に3回から4回、性欲発散を目的として会う関係を、ここ数カ月続けている。

 互いに別に好きな相手がいて、その相手に望みがない。

 行き場のない思いや嫉妬、憎しみなどを互いにぶつけ合ってきた。


 何度も繰り返し抱き、抱かれ、互いの身体を知り尽くした今、心にたまる負の感情を吐き出し、心地よい満足感を得られる。

 なくてはならない存在となっている。


 その日も妃那を心行くまで抱いた後、ベッドの中で彼女は話し出した。


「ねえ、彬。クリスマスとは、恋人同士で過ごすものなのね」


「んー、相手がいれば」


「それなら、わたしは圭介と過ごしたいわ。でも、圭介は今年、桜子と過ごすんですって」


「それが普通だよな。今年は姉さん、いないのか……」


 毎年クリスマスは家族で過ごしてきていた。

 ごちそうを食べて、ケーキをつつき、翌朝に両親からプレゼントをもらう。

 毎年、当たり前のような年中行事だった。


 今年からはもう違うんだと思うと、彬はすっきりしたばかりだというのに、気が重くなった。


「わたし、写真や映像でしか、クリスマスを見たことがないのよ。街がキラキラしていて、きれいなんでしょう?」


「うん、そうだね。まあ、今月に入ってどこも飾りつけしてあるから、クリスマス当日じゃなくても見られると思うけど」


「でも、クリスマスの日は特別なのでしょう? なのに、うちでは忘年会なんですって」


「……普通じゃない? 君のうち、神道なんだから。キリスト教のお祝いなんてしないよ」


 妃那はむうと口をとがらせる。


「なら、彬の家はキリスト教なの?」


「全然。単なるパーティやる日。宗教には全然関係ないよ。もっともそういう人ばっかじゃない? 日本なんて無宗教とか、複数の宗教とか、なんでもありな感じだし」


「ふーん。なら、うちでもパーティをしてもいいってことよね?」


「ええー……どうかな。それは歴代にないことじゃない? 当主が反対するよ」


「でも、わたしは『知る者』だもの。おじい様はわたしが頑として譲らなければ、言うことを聞いてくれるわ」


「そういうことなら、忘年会からクリスマスパーティに変更はできるかもね」


「家でクリスマスをするって、どうするの?」


「どうするって……。ツリーを飾って、クリスマスの料理食べて、クリスマスケーキ用意して。後はサンタクロースからのプレゼント。目が覚めると枕もとに置いてあるんだ」


「素敵ね。わたしもいろいろ調べてパーティを計画しようかしら」


 妃那はうっとりしたように笑みを浮かべた。


「……犯罪なしだよ?」と、彬はめっとにらむ。


「わかってるわ」


 妃那は口をとがらせた。


「ええー、ちょっと待ってよ。クリスマスパーティを企画するのに、なんで犯罪絡みになるの!?」


「サンタクロースが絶対にうちに来るように、前もって誘拐して監禁しておかないといけないでしょう。サンタクロースはかなりの巨体と思われるから、そのためには数人は人を雇って、武器を用意して、きっと国外にいるから、偽造パスポートを用意して――」


「ちょっと待ってー! それ、なんか違うから!」


「だって、よその家に行かれたら困るわ。計画を成功させるには、確実に確保しておかないといけないポイントよ」


 妃那が真面目な顔で言うので、彬は言葉がなかった。


「ねえ、知ってる? サンタクロースが来てくれるのは、いい子のところなんだよ?」


「わたしがいい子じゃないと言いたいの?」


「犯罪は悪いことだから、いい子のすることじゃないね」


「なるほど」


(……サンタクロースはいないって言った方がいいのかな)


 3歳児相手だったら、夢を壊さないためにも言わないが、相手は知識豊富な『知る者』なのだ。

 どうせ調べればわかってしまう。


「ええとね、サンタクロースっていうのは架空の人物で、プレゼントを持ってくるのは実際、親なんだよ」


「そうなの?」


「普通に考えて、プレゼント持って空を飛んでくる人間はいないだろ?」


「彬、非存在の証明は、存在の証明より難しいのよ。サンタクロースが絶対にいないとは言い切れないわ」


「……いや、信じてもいいけど、国によってはツリーの下にプレゼントを置いて、25日に開けるところもあるし」


「それはサンタクロースのいない国なのね。やはり早く探し出して、確保しないとまずいではないの」


「本当に見つかったら、僕にも紹介して」


 それ以上、言えることもなかったので、そう言ってその場は終わった。

次回もこの回想の続きになります。

妃那がこのクリスマスパーティを計画した理由は?


続きが気になると思っていただけたら、ぜひブックマークで。

感想、評価★★★★★などいただけるとうれしいです↓

今後の執筆の励みにさせてくださいm(__)m

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