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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第6章-2 みんなからの祝福、いただきます。~妃那&彬編~

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1話 このポジションにやっとたどり着いたぞ

本日(2023/04/07)は、二話投稿します。

パート2【妃那&彬編】は神泉家のクリスマスパーティからスタートです。


圭介視点です。

 クリスマスパーティ当日、圭介は用意されたタキシードというものを初めて着た。

 蝶ネクタイがなんだか苦しい。サスペンダーも肩に食い込んで気になる。

 そして、一応、鏡の前で全身チェック。


(……なんか、七五三みたい)


 明らかに着慣れていないというのが見え見えだ。


 ドアのノックの音と同時にドアが開く。振り返ると、妃那が顔をのぞかせていた。


「準備はできた?」


 妃那は肩の出た真っ赤なロングドレスをまとって、髪はいつものように背中に流していた。

 ほんのりと化粧した顔は、いつもより大人びて見える。


「おう、そろそろだろ?」

「圭介、エスコートしてくれるんでしょ?」

「無理だよ。桜子がいるんだし。彬に頼んだら?」


 妃那はむうっと口をとがらせる。


「別に嫌いじゃないんだから、いいだろ? しかも、あっちの方が数段見栄えがいい」

「圭介がよかったのに。じゃあ、三人が来るまで」

「はいはい」


 窓の外をのぞけば、庭がイルミネーションになっているため、招待客は家の門の前で車を降り、光に彩られたアプローチを歩いてくるのが見える。

 家族連れも夫婦も皆、足を止めて庭を眺めてから玄関に入ってくるようだ。

 子供は庭に駆けだそうとして、親にあわてて引き留められている。


 だいぶ客が集まってきたようなので、圭介も妃那と一緒に部屋を出た。


 らせん階段までたどり着くと、玄関周りはものすごい人でごった返していた。


「……なあ、内輪のパーティじゃなかったっけ?」


「ほら、わたしの作ったイルミネーションが個人宅部門で優勝したから、それを見ようと予定になかった人も来ることになったみたい」


「忘年会よりクリスマスパーティってことか。こんなに人、入り切るのか?」


「少し寒いけれど、暖房を入れて庭も開放しているから、外でも過ごせるわ」


「ああ、そのために庭一面ガラス張りになってるのか」


「電飾を踏んでもらったら困るもの」


 圭介が妃那を連れて階段を下りていくと、辺りがざわめいた。


「あれが、社長令嬢か」と。


 今日のパーティで、ようやく妃那がお披露目になるのだ。


 ちらりと妃那を見やると、無表情な顔で無関心に集まっている人を眺めている。


 圭介の方がこんな注目の中、あまりの緊張に階段を踏み外してしまいそうで、何度も冷や汗をかいた。


(やっぱり、おれ、まだこっち側の人間じゃない!)


 せめて目立ちませんようにと、圭介は階段を下りきってほっと息を吐いた。


 口々に妃那にあいさつが始まる中、新たなざわめきが広がった。


 玄関口を見やると、藍田三兄弟が入ってくるところだった。


 桜子が王太子妃候補になったことはまだ記憶に新しく、もちろん変装をしているわけでもないので、全員の目を奪う。

 退院以来、初めての公の場だったのだ。


 桜子は知り合いに声をかけられ、微笑みを浮かべながら談笑している。


 今日の紺碧のロングドレスはずいぶんと落ち着いて見え、桜子のきれいな身体のラインがはっきりと表れる細身のものだった。

 ふくよかな胸からほっそりとした腰、スリットからのぞく足と、いつもよりずっと色香を放っている。


(やばい。きれいすぎる。おれにはもったいない)


 ようやく隣に立てるパーティまでたどり着いたのに、圭介は相変わらず人ごみに飲まれていて桜子に近づけない。

 まだまだ見えない規制線が二人の間にあるようだ。


 時間になって会場となっている食堂に人が入り始め、ようやく人の流れができたところで、桜子に近づくことができた。


「圭介。今日はお招きありがとう」


 桜子に伴って薫子と彬もあいさつをする。

 二人とも中学生なのに、良家の子女らしくきちんと礼儀正しくて、その姿は美しかった。


「来てくれてうれしいよ。こんなに人が多いと思わず……」


「予定外の出来事でしょ? 妃那さんが賞を取ったりして。さっき通りがかりに見てきたけど、素敵だった。後でゆっくり見たいな」


「うん。あいさつが終われば庭も解放されるから、充分楽しめると思うよ」


「その前にやることやらないとね」

「ジイさんの機嫌がいいことを祈って……」


 二人でむん、と気合を入れた。


「あ、そうだ、彬。妃那のエスコートしてくれない?」


「は? なんで僕が? 圭介さんでしょ、この場合」


「会社関係の人間の来ている中で、妃那のエスコートなんかしたら、そのまま婚約なんてウワサが立っちまう。それを避けるためにも協力してくんない?」


「けど……」と、彬はいまいち気が進まなそうだ。


「しかも、おまえの方がずっとこういう場に慣れてそうだし。おれ、普通にコケそうでやばいんだよ。頼む」


「わかりましたー」と、最後には彬もしぶしぶのようにうなずいた。


「……それにしても、彬、カッコいいな。同じような格好してるのに、どうしておれは七五三みたいなんだ?」


「それ、本人に聞かないでよー。姿勢とか歩き方もあるんじゃない?」


「ほうほう」


「圭介さん、社交ダンスやっているんでしょ? 頑張れば、かなり姿勢矯正できると思うよ」


「うん、今度注意してやってみる。じゃあ、妃那のこと、よろしくな」


「了解しました」


 彬は身をひるがえして妃那の方へ歩いて行った。


「まあ、確かにこの後のことを考えると、彬に任せた方がいいわね」と、桜子が言う。


「おまけに妃那の隣に並んで遜色(そんしょく)ないし。美男子美少女カップル」


(……ちょっと待て。伯父さんの前に出るんだよな。おれ、マズいことしたかも! ていうか、親に紹介できる関係じゃないって知ってて、なんで彬を招待するんだよ!?)


「どうしたの?」

「あ、いや、大丈夫。中に行こうか。そろそろ始まる」

「うん」


 桜子と薫子をエスコートして中に入ると、やはり注目された。

 今度ばかりは圭介も多少名前が挙がっている。


「あの子、神泉会長のお孫さんなの? 藍田のお嬢さんたちと一緒にいる」

「あら、ご存じなかった? 桜子さんのご学友じゃない」

「あれ、神泉家のご子息だったの?」

「ええそう。お付き合いしている相手かと思ったら、神泉家の血筋の人ではねえ」

「ただのご学友ということね」


 そんなこんなで、上流階級の皆様も、恋人かもしれないと疑っていたかもしれないが、『ご学友』と認識してくれた。


 それがいいことなのか悪いことなのか、圭介にはいまいち判断ができなかったが。


 それでも今、ようやく『神泉』の名を持つという意味が実感できた。


 このパーティに集まる人たちの会話からも、その権力や財力のすごさに圭介を見る目が違う。

 これがどこの誰ともわからない庶民ではありえないことだ。


 せめて桜子の家と釣り合う家柄がほしいと、この家の門を叩いたのは、決して間違いではなかった。


 今になってよくわかる。


 越えなければならなかった困難も、これから起こるだろう困難もある。

 それでもこの『神泉』の名という切り札の価値に比べたら、微々たるものに思えた。


 船上パーティに行った日、圭介は従業員に変装して桜子を遠くから見ていた。

 そして、今日、その桜子は自分の隣にいる。


 この先もこのポジションを守るために、ひたすら前に一歩一歩進むのみ。

 迷うだけの道はもう残っていない。


「さあ、行こうか」


 圭介は桜子に微笑んだ。

次話からはこのパーティに至る経緯になります。

よろしければ、続けてどうぞ!

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