15話 クリスマスは路線変更に……
本日(2023/03/31)は、二話投稿します。
日曜日の夕食時、突然源蔵に言われたことに、圭介は「え?」と、顔を上げた。
「だから、24日は家で会社関係の忘年会があるから、おまえも来なさいと言っておる」
源蔵は相変わらずの無表情で圭介に一瞥をくれた。
「いや、おれ、もう予定入ってるし。今さら言われても困るんですけど」
「あら、あんた、もうデートの約束しているの? ちゃっかりしてるわねー」
「そんなのカノジョがいたら当然だろ。イルミネーションを見に行くんだ」
本当のところのお楽しみはその後なのだが――。
「ホテルの予約はもう取ったの? 早めにしないと、予約いっぱいになっちゃうわよ」
お見通しとばかりに母親にムフフと笑われ、圭介は一瞬言葉を失ってしまった。
「母ちゃん! だから、息子をからかうのはよせって!」
――と言いつつ、「予約しておかないとマズいのか」と、頭の片隅では母親の助言に感謝していた。
「静かにせんか!」と、源蔵に怒鳴られる。
「よいか、圭介。うちが優先だ。断りなさい」
「もう、お父さんもヤボなんだから。何の日か知ってるでしょうに。カップルがラブラブ過ごす日よ?」と、圭介の代わりに母親が答える。
「だから何だ? うちはキリスト教ではない」
「あら、おじい様」と、間に入ったのは妃那だった。
「それは間違っているわ。昨今、クリスマスに宗教的な意味を持つ日本人は約1%。99%は『クリスマス』と名のついた日を楽しむものになっているの。だから、キリスト教徒でなくてもお祝いをしていい日ということ。その日を『忘年会』と称するのは非常におかしな話だわ」
妃那が淡々と説明をする。
「だから、何だと言うんだ?」
そんな源蔵の不機嫌もどこ吹く風で、妃那は顔を上げるとにっこりと笑った。
「そういうわけで、うちもクリスマスパーティをしましょう。天井に届くくらいの大きなもみの木を買って、わたしが飾り付けをするの。圭介も手伝ってくれていいけれど、一番てっぺんの星はわたしのものよ。
みんなプレゼントを用意して、木の下に置いて、25日の朝にみんなでプレゼントを開けるの。
素敵でしょう? ね、お父様、いいでしょう? わたし、ツリーを飾りたいの。お庭もいっぱいに飾りたいわ」
妃那は好奇心に目をきらめかせて父親の智之を見る。
「そうしてやりたいのはやまやまなんだが……」と、智之は源蔵の顔色をうかがっている。
「あら、素敵じゃない。わたしも賛成だわ。じみーな忘年会なんて出る気がしないけど、ぱーっと家中を飾ってどんちゃん騒ぎをしたら、楽しいんじゃない? 子供だって来るし、みんな喜ぶわ。ついでにいっぱいワインを用意して」
(……母ちゃん、酒飲んでバカ騒ぎしたいのか?)
「うちは喪中だ。派手なことなどできん」
源蔵の言葉に、葵が亡くなってまだ一年もたっていないことを思い出す。
妃那が気にするかと思ったが、今はどうもクリスマスパーティの方が優先のようでほっとした。
「おじい様、それこそ宗教違いよ。クリスマスは神道には関係ないのですから、誰も気にしたりしないわ」
あくまでクリスマスをやりたい妃那は頑として譲らない。何のかんのと理屈で攻めまくる。
結局、源蔵も「おまえたちで勝手にやれ」とあきらめた。
「圭介もほら、桜子さんを誘ったら? そうすれば、うちのパーティにも出席できるし」
母親が提案してくる。
「うーん、どうかな。桜子、そういうパーティってあんまり好きじゃないから」
「でも、お父さんたちに紹介するチャンスでしょ?」
「うーん」
「藍田の娘が来るというのか? わしは会ったりせん」
源蔵はふんと鼻を鳴らす。
「わたしは会ってみたいですけどね。妃那を振ってまで圭介くんが選んだ女性。ただのお人形さんとは思えないので、興味あります」
そう言ったのは智之だった。なんだか値踏みする気満々のように見える。
(ていうか、もしかして、親バカ? うちの娘の方が絶対かわいいのにって)
「圭介、わたし、日本一のイルミネーションを目指して、設計するわ。見ないと絶対損と思うくらいの。だから、一緒にクリスマスをしましょう。圭介がいないのは絶対にイヤだわ」
「ちょうどいいじゃない、見に行く予定だったなら。最悪、パーティが終わってからでも出かけることもできるし」
母親も同意するので、圭介は「うーん」とうなった。
「じゃあ、一応、桜子には聞いてみるけど。だいたいあっちの方が先約なんだから、必ずしも来てもらう必要ないし。あいつが来たいって言ってくれれば」
電話で相手の顔が見えないのはイヤなので、月曜日に学校に行って聞こうと思った。
次話は翌日、学校での話になります。
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