14話 藍田の権力って、使っちゃダメなの?
本日(2023/03/28)、二話目になります。
桜子視点です。
その日の夜、桜子は夕食の席で家族に今日の報告した。
「――というわけで、圭介のお母さんにはお付き合いを認めてもらって、内々の婚約も認めてもらいました。あとは神泉の方で認めてもらったら、こっちもいいよね?」
桜子が父親の顔を見ると、複雑な顔をしていた。
「ダメなの?」
「いや、いいんだけど。ほら、あんまり向こうに脅すようなこと言ってもらったら、困るなーって」
「別に脅しているつもりはないけど。それだけの覚悟があるってことを言いたかっただけで」
「うーん、うーん、そうなんだけど、聞き方によればそう聞こえちゃうからなあ。実はうちも弱みとかあったりして、あんまり強く出られない部分があったりしてな」
「……そうなの? うちの権力、全部使っても、ダメなことってあるの?」
「不可能とは言わないけど、面倒なことがいっぱい起こることは予想される。ので、お父さんとしてはそういうことはあまり言ってほしくないなあと」
「お父さんがそう言うなら他の手を考えるけど。この線でいけば簡単に向こうも納得してくれそうだったから、もう決まりも同然って喜んでたのに」
桜子はしゅんとうなだれた。
「まあ、これからいくらでもチャンスはあるでしょ。とりあえず、お母さんには認めてもらったんだから、味方をひとり獲得。結果は上々じゃないの」と、母親が言う。
「そうよね。よく考えたら、一番の関門はお母さんだったんだもん。そのお母さんがいいって言ってくれれば、きっといい方向に転んでいくと思う。それに、あのお母さんなら、上手に助け船を出してくれそうだし」
「そうなの?」と、母親は意外そうに目を丸くする。
「別にはっきりそう言ってくれたわけじゃないけど、あたしの気持ちをわかってくれた今、そうしてくれそうな人だったから。やっぱり圭介のお母さんだね。素敵な人だったよ」
「そう? あんたがそう言うなら、きっとそうなんだろうけど」
母親はいまいち納得がいかないと言った顔をしている
「お母さんが猫かぶってたことだって、とっくにお見通しだったんだよ。本性を見せてくれたら、仲良くなれてたかもしれないのにって言ってた」
「あら、驚いた。どうも何かにつけて突っかかってきたのはそのせい? てっきり嫌われているのかと思ってたのに」
「本音でポンポン言い合える人だから、お母さんも好きになると思うよ」
「そうかもしれないわね。あの人、クラスで唯一あたしに媚び売ってこない人だったから。よっぽど嫌いなんだろうと思ってたけど、そうじゃなかったのなら、なんだかうれしいわ」
「ていうか、お母さん、青蘭の塀を乗り越えて脱走してたって本当なの?」
「やだ、そんな話までしてたの?」
「青蘭の塀って、あの塀?」と、薫子と彬も驚いている。
「そもそも何のために脱走なんてしたの?」
「ほら、あの当時、うちに無理やり閉じ込められて、学校と家の往復しかさせてもらってなかったから、学校を抜け出して音弥を探しに行ってたのよ」
「探すって、どうして?」
「千葉で一目ぼれして、その後あたしはすぐに東京に来ちゃったでしょ? 音弥もあたしを探してくれたみたいだったけど、どうも死んだことにされていたらしいから、あきらめちゃうじゃない? それならあたしの方から探しに行こうと。連絡先も知らなく名前だけだったから、結構大変だったわ。スマホとかない時代だったし」
「……お母さん、名前しか知らないお父さんに恋して、見つけて、結婚までしたんだ……。すごいね、そのパワー」
「だって、どうしてもこの人って思っちゃったんだもん。あんたと違って、藍田の力もお金も使えなかったから、苦労したわよ」
「それは間違いじゃなかったんだね。なんだか、あたしもわかるなー。この人って決めたら、なんでもやっちゃうし、できちゃうよね」
二人がきゃっきゃと喜んでいる中、周りには「藍田の女って……」と言わんばかりの変な空気が流れていた。
「……なあ、あんまり無茶はしないでくれよー」と、父親がぼやいた。
「もう、お父さん、そんなに心配しなくても大丈夫。よほどのことがない限り、あたしだってそんなことしないよ。こう見えて、ちゃーんと立場ってものがわかってるんだから」
「わかってたら、公衆の面前で抱きつくとかないと思うけど……」と、彬もぼそっと言う。
「……それはそれ、これはこれ?」
桜子がとぼけると、みんなが笑った。
お父さんの心配がどこから来るのかはもう少し先になります。
次回はクリスマスデートが「あれ?」な方向に……。
二話同時アップ、お楽しみに!
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