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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第6章-1 みんなからの祝福、いただきます。~母ちゃん編~

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13話 王子様キャラじゃないのは確かだけど

本日(2023/03/28)は二話投稿します。


前話からの続きになります。

「ねえ、桜子さん」と、問いかけた母親の顔は、珍しいくらいに真面目だった。


「圭介にも同じことを言ったんだけど、あなたもまだ若いんだし、今から将来まで決めるのは早くない? 将来がどうとかの前に、今の恋愛を楽しんだ方がいいと思うんだけど。どうしてそう先を急ぐ必要があるのかしら」


「だって、早くしないと圭介が誰かに盗られてしまいますから。わたしはそれが不安で不安で、お宅の門を越えたんですけど。お母様に言われたことを一生懸命考えて、結果として圭介にはお婿になってもらうことに決めました」


「わたし、冷静になれって言っただけよね? 少しすれば学校も始まるし、そんなに焦らなくてもじきに会えるって意味だったんだけど。それがどうして婿まで話が行っちゃうのよ?」


「あの時、圭介は神泉家にいて、放っておいたら、そちらの後継者としてすぐに決まってしまう状況でした。お母様は自分の立場を考えなさいともおっしゃった。だから、よく考えた末、あの状況で圭介と会っても何の意味もないことに気づけたんです。そして、誰にも文句を言われずに圭介と会う方法は、うちのお婿になってもらうことでした。圭介も同意してくれましたし、うちも圭介を認めていたので、藍田の権力を総動員してでも奪い返すつもりでした」


「怖いこと言わないでよ。本当にそうなってたら、今頃わたし、帰る家がなくなっちゃってたんじゃない?」


「最悪はそうなります」と、桜子はにっこり笑った。


「そもそもわたしが欲しいと思って手に入らないものはないんですから。それが、わたしの立場です。それを思い出させてくれたのは、他の誰でもないお母様ですよ」


「ええー……、結局、わたしのせいなの?」


「もっとも妃那さんの問題があったりで、強硬手段を取ることはなかったんですけど、それくらい圭介がほしいと思ったんです。わたしの未来のために、幸せになるために、どうしても必要不可欠な人なんです」


 母親はふうっと大げさなくらいに息を吐いた。


「あなたの気持ちは分かったわ。ただ、わたしは母親として、やっぱり圭介に苦労させたくないの。まだ結婚もできない歳なのに、将来を決められて、重荷を背負わせたくない。

 せめて社会人になるまで待てないのかしら。二人がきちんと向き合っていれば問題ないことでしょう? 別に付き合いを反対するわけじゃないんだから」


「その通りだと思います。ただ、わたしの方が問題が起きやすくて、正直、今回の王太子妃騒ぎでけっこうこたえているんです。これからも権力を使ってわたしと結婚したいという人が現れてもおかしくありません。もちろんその度にわたしは撃退しますけど、その間圭介と会えなくなってしまうし、こんなことはこりごりなんです。

 そのための措置として、婚約をしたいと思っています。お母様の心配もわかりますので、公表せずに内々にではどうでしょうか。もしもの場合にのみ、その事実を明らかにして、相手の方にお断りする。そういった形を取りたいのですが」


「そうね。あたしはそれでもかまわないけど、神泉の方はどうかしら」


「わたしたちは家族みんなに認めてもらうつもりなので、神泉の方にもわたしと圭介の結婚を認めてもらいたいと思っています。強硬手段を取ることなく、圭介にはお婿に来てもらいたいので」


「それはもう脅しにしかなっていないと思うけれど?」


「いえいえ、そんな。父もそこまでお宅が欲しいと思っているわけではないですし、面倒なことをする人ではないので。快く圭介を送り出してもらえれば、何の問題もありません」


「だから、それが脅しだって言ってるのに……」


「仕方ありません。そちらがわたしのものを奪おうとするから、そういう風になっちゃうんです」


 桜子はやはり笑顔のまま見つめてくる中で、母親は圭介にちらっと視線を移した。


「圭介、あんた、こんなお嬢さんに好かれちゃって、どうするのよ。王子様じゃなくて、せめて騎士とか下僕でいればよかったのに」


「下僕ってなんだよ……。だからって、王子キャラでもないけどさあ」




 そんな話が終わった頃、デザートが運ばれてきた。

 正直、話に夢中になっていて、何を食べていたのか記憶にない。とはいえ、腹はいっぱいになっている。


「まあ、あなたも本性丸出しにしてくれたし、圭介をどう思っているのかもわかったし、会ってよかったわ」


 母親が目元に笑みをにじませると、桜子も少しほっとしたような笑顔を返していた。


「わたしもお会いできてよかったです」


「不思議な縁だけれど、ほんと、顔も性格も華さんによく似てるわ」


「母ちゃん、知ってるのか?」と、圭介は驚いた。


「お母様、うちの母と同級生だったの。でも、顔はともかく性格が似てるなんて意外です。母は学校では猫かぶって完璧なお嬢様をしていたって言ってたのに」


「それくらい気づいていたわよ。あの人、身体が弱いフリして、しょっちゅう保健室に行っていたんだけど、実は学校の塀を乗り越えて、脱走していたのよ。あの身のこなしはとても身体の弱いお嬢様じゃなかったわ」


「……知らなかった。それじゃ、わたしのしたことって……」


「そう。あなたがうちの門を越えてきた時、『ああ、あの母親にしてこの娘アリだな』って思ったりしたのよ」


 母親はそう言って笑った。


「母ちゃんたち、仲良くしてたわけじゃないのか?」


「それはないわね」と、圭介の問いに母親は肩をすくめた。


「だって、ムカつくでしょ。胸倉つかんでも、絶対に本性を見せようとしないあの態度。今思い出しても腹立つわー」


「ていうか、おまえの母ちゃん、何者? うちの学校って、刑務所みたいに塀が高いじゃないか。それを乗り越えるって――」


「木に登って塀の上に下りて、その向こうにジャンプ。猫みたいだったわ」


 答えたのは母親だった。


「それ、すごい身体能力だよな」


「うん、うちのお母さん、運動神経抜群だから。それくらいやってのけるよ」と、桜子が真顔でうなずく。


「実はそんな苦労しなくても、外に出る方法はあったのよねー」


 母親はうふふっと口に手を当てて笑う。


「そういや、母ちゃんも学校を抜け出して父ちゃんに会いに行ってたとか聞いたことあったっけ」


「そうなの。青蘭には少し塀の崩れたところがあってね。今はもうないと思うけど、外に出るためにわたしはそこを使っていたの。でも、ムカついたから教えてやんなかった」


「母ちゃん……」


「だからね、あの人がもうちょっと本性出してくれてたら、仲良くなれたかなとは思うのよ」


「きっとそうだと思います。だって、わたし、お母様のこと好きになりましたもの。きっと母も」


 桜子は飛び切りの笑顔を母親に向けてくれた。




 食事が終わると母親とは店の前で別れ、圭介は桜子と一緒に青山通りを歩いていた。


「ああ、もう、緊張したー。ご飯、どこに入ったかわかんないよ」


 再びメガネの変装姿に戻った桜子は、ぐいっと大きく伸びをする。


「そうだったのか? 最初はそんな感じだったけど、途中から平気で話してたから大丈夫だったかと」


「んー、それでも話す内容には気を付けてたから、やっぱり気を張ってたよ。お母様も言ってたけど、変に脅すようなことは言いたくなかったし」


「おれはああいう目をしたおまえも好きだけどな。絶対に曲げない信念があって、そこにまっすぐ突き進む強い目。ドキドキするよ」


 圭介が笑って言うと、桜子は驚いたように目を見開いた。


「圭介にはそういう風に見えるの?」


「あ、もしかして、違うのか?」


「ううん、逆。王太子が言ってたの。同じように目が好きだって。それを女王の目って言ってた」


「そういや、言ってたな。おれには意味がわかんなかったけど。庶民にはわからないものだって言ってた」


「見ると従わざるを得ない気になる目なんだって。ひざまずきたくなるって。あの人、本物の王子なのに、結局下僕にしかなれない人だったんだわ」


 桜子はそう言ってクスクスと笑った。


「やっぱり圭介が間違いなくあたしの王子様ってことだね」


「……言われて、すっごいうれしいんだけど、道の往来で言われちゃうと、キスもできなくて困ったりする」


 桜子とは手もつなげない現状、やはり外でデートはいろいろ制約があるのだ。


「あたしも今、おんなじこと思った。言うタイミング間違えたって」


 二人で顔を見合わせて、そして吹き出して笑った。


「……あのさ、桜子。イヴの夜は金曜日だし、泊りで出かけられるか、親に聞いてもらってもいいか?」


 隣を歩く桜子をチラッと見ると、火を噴いたように真っ赤な顔になっている。


 小さく「うん」とうなずく桜子はどこまでもかわいくて、抱きしめたくなる自分を押さえるのが大変だった。


(どうか次こそ邪魔が入りませんように!)


 今はそれを願うだけだ。

次話は桜子が家に帰った後、家族へ報告になります。

よろしければ続けてどうぞ!

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