9話 いつもの日常が戻ってきた
本日(2023/03/21)は、二話投稿します。
前話と同じ日のお昼休みです。
昼休み、クラスメートが桜子の周りを囲む。
「桜子さん、わたしたちもお弁当を持ってきたの。ご一緒してもいいかしら」
「今日は久しぶりに圭介に会えたから、ご遠慮してもらってもいい? ぜひ、今度」
桜子は断って、圭介と妃那のもとに来る。その頃には薫子も教室に姿を現した。
「ねえ、あたしたちが休んでいる間もみんなお弁当を持ってきてたの?」
みんなで弁当を広げて食べ始めてから、桜子が聞いてきた。
王太子がいる間は弁当派の桜子に合わせて、昼休みの教室はにぎやかだったが、この一か月は圭介も妃那と二人だったので、一緒にカフェテリアで食事をしていた。
「おれらも教室にいなかったから、どうだったか知らないんだけど、みんなカフェテリアだったかも。おまえが戻ってきたから、また弁当復活か?」
「ええー。この調子で毎日断るのはなあ……」
桜子はゆううつそうにため息をつく。
「今となっては、おまえの気持ちがよくわかる。昼くらい静かにメシ食いたいよな」
「圭介、とりまかれてたの?」
「休み時間のたびになー。カフェテリアの方がこいつと二人だし、まだゆっくりできた」
「そうだよねー。あたしたちがいなかったら、そうなるよねー」
(『妃那と二人』に引っかかったか……?)
桜子がむうっとしたように口をとがらせているので、圭介はあわてて話題を切り替えた。
「そういや、今日も車で来たのか?」
「ううん、電車」
「大丈夫だった?」
「うん。写真はバシバシ撮られたけど、彬と薫子も一緒だったから、近寄ってくる人はいなかったよ。ていうか、薫子が追っ払ってた」
「薫子、番犬みたいだなー」
「ダーリン!」と、薫子が目を吊り上げる。
「おかげで、安心。頑張って桜子を守ってくれよ」と笑いかけると、「もう」と、薫子は頬をふくらませた。
「じゃあ、今日の帰りは久しぶりに一緒に帰れるな」
桜子が「うん」とうれしそうにうなずく。
「ほんと、久しぶりだよねー。王太子が来てからは車だったし、その後は入院で。いつもの放課後がやっと戻ってくる」
「おれもうれしい」
本当に全部元通りになったのだ。
それ以上に、桜子との距離をさらに縮まった気がする。困難を乗り越えて、また一歩と。
それだけでも今は幸せに感じる。
その放課後、昇降口で待っていたのは薫子だけだった。彬はいない。
「もしかして、あたし、お邪魔? せっかく久しぶりの登校で、二人っきりの時間を過ごせるのにって」
圭介たち二人を見た薫子が、真顔で聞いてくる。
「何言ってんだよ。彬もいないし、途中から桜子一人で帰らせられないだろ? いてくれて逆によかったよ。ちなみに彬は?」
「デートだって」と、桜子が答える。
「デートって、カノジョと?」
「うん。カノジョって言うといつも否定するんだけど、絶対カノジョだよねー。『好きじゃないの?』って聞くと、『嫌いじゃない』って答えるの。もう、素直じゃないんだからー」
そう言って桜子は朗らかに笑っている。
(……いや、それは本当のことなんじゃ?)
「それって、桜子から見て、彬が恋してるって思うのか?」
「バレバレだよ。彬ってほんと素直だから、わかりやすいもん。カノジョから呼び出されると、いそいそ出かけていくし。彬が恋に目覚めてくれて、お姉ちゃんはうれしいよ」
「そうだよな……」
「だって、恋するって素敵じゃない? つらいこともあるけど、幸せもいっぱいだもん。あたし、こんな気持ちになるの初めて。だから、薫子もいい人を見つけてね」
「あたしは興味ないもーん」と、薫子はつーんとそっぽを向く。
弟をよく知っている桜子の目から見て、彬が恋をしているのなら、その可能性は高いと思う。
(でも、相手が妃那だからなあ……)
恋に目覚めさせてやってくれと、切に願った。
「ああ、でもいいなー、放課後デート。思ってみれば、あたしたち、付き合い始めてからあんまりデートってしてないよね」
「放課後1回デートして、文化祭行って、家に行ったのも含めて3回くらい?」
家に行った時のことを思い出して、互いに顔を赤くしてしまう。
「ええと、実は少なくない? これが普通なの? 平均したら月に1回くらいじゃない」
桜子はあわてたように続けた。
「そういや……。付き合い初めは神泉の家に行って、家に閉じ込められて、会えるような状態じゃなかったし。ようやくデートできるようになったと思えば、王太子がやってきてまた不可能。まあ、学校で会える分、まだマシだけどな」
「それで、しばらくはその反響のせいでまたデートできないなんて……」
ふうっと桜子はため息をつく。
「それなら、桜ちゃん、変装していけばいいよ」と、薫子がニコッと笑いながら言った。
「変装?」
「ほら、もう寒くなってコート着てるから制服は見えないし、あと、ちょっと髪型変えてメガネでもかけて、桜ちゃんの美しいオーラを消せば、目立たないよ」
「ああ、なるほど」と、桜子はうなずく。
「それにイチャつきさえしなければ、最悪はご学友と歩いているだけって思われるし」
「デートってイチャつきたくなるものじゃない?」
「そこは、状況が状況なだけにガマンするしかないけどー。デートできないよりはよくない?」
「そりゃそうだよ」と、桜子は真顔でうなずく。
「ダーリン、明日の放課後はヒマ?」
薫子が桜子の向こうから圭介をのぞき込んでくる。
「家庭教師断るだけだから、基本的にいつでもヒマといえばヒマだけど」
「じゃあ、さっそく明日。桜ちゃん、今日は変装道具、買って帰ろう」
「明日のために? もう? 圭介もいいの?」
「おれはだから、いつでも」
「そういうことなら、準備しておくね!」
きらきらした笑顔で元気よく言われて、デートなど関係なしに今ここでイチャつきたくなっていた。
次話はその翌日の放課後デートの話になります。
よろしければ、続けてどうぞ!




