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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第6章-1 みんなからの祝福、いただきます。~母ちゃん編~

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2話 ジイさんはご機嫌ナナメらしい

本日(2023/03/07)、二話目になります。

 神泉家の夜の食卓――。


 智之と妃那は出かけていたので、祖父母と母、圭介の4人だった。


 相変わらず4人で食事するにはムダに長いダイニングテーブルで、半分以上がただテーブルクロスに覆われている。

 百人から招待できる広い食堂兼大広間は天井も高く、よけいにがらんとした感じがしてしまう。

 特にする会話もなく、全員無言でナイフとフォークを動かすだけだ。


 食事中に会話をする習慣がないのか、それとも単に仲が悪いだけのことなのか。

 わりとおしゃべりな母親でさえ、食事中はほとんどしゃべらない。


 時々話をしても、そっけないやり取りばかり。

 それでも最近は、妃那が子供のように学校であったことをペラペラと話すので、智之が相手をしてやったりと、わずかながら家族らしい食卓になってきたところだ。


 ――が、今日はそんな二人が外出。美術館に行った後、二人で食事をしてくるらしい。

 どんな豪華な食事をしてくるのかと思えば、回転寿司だった。

 さきほど妃那が喜んで写メを送ってきたのだ。


(子供だよな……。ていうか、伯父さんも坊ちゃん育ちで、そういうところに行ったことがないんじゃないか?)


 きっと高級寿司屋では堂々としてサマになる智之も、妃那に付き合って回転寿司では、もしかしたら、居心地の悪い思いをしているのかもしれない。

 そんなことを考えると笑ってしまいそうだ。


 ただでさえしんとしている今夜の夕食なのに、祖父の源蔵の機嫌がかなり悪かった。

 そのオーラは間違いなく、圭介に向かって流れてきている。

 食事中はしゃべらないポリシーなのか、何も言ってこないのがかえって気持ち悪い。


「ジイさん、なにか言いたいことでも?」


 源蔵は「ううん」と発声練習のようにノドを鳴らす。

 そして、一言「今朝の報道」と言った。


「ああ……。やっぱりテレビに映ったりするのはマズかったですかね?」


「当たり前だ。神泉の名を汚しおって」


「名前は出ていなかったような……」


「そんなもの、わしが止めたに決まっておるだろう。年頃の男女が公然とイチャつきおって」


(イチャつく……。ジイさんの口から聞くと、笑っちゃいそうなんだけど)


「もしかして、ジイさんが『ご学友』にしたんですか?」


「当たり前だ。おまえはまだここの後継者の一人には変わらん。あんな藍田の娘とウワサにでもなってみろ。いい恥さらしではないか。

 だいたい、先日の件でもわかっただろう。藍田の人間というのが。おまえのことなどあっさり捨てて、王太子妃になるところだったではないか。この先、何があるかわからないということだ」


「ジイさんたち、妙にご機嫌でしたもんね……」


 源蔵や智之は圭介が妃那と結婚することを期待している。

 今では無理やり話を進めたりすることはなくなったが、あきらめたわけではないのだ。


 だから、桜子が王太子との婚約が決まった時は『これで邪魔者は消えた』と、万々歳だったのだろう。


 桜子との付き合いも今は静観しているが、たとえば婚約などの話になれば、まだ早いなどと難癖(なんくせ)を付けて、のらりくらりと逃げようとするに違いない。


(こっちはこっちで解決していかなくちゃならないんだよな……。ていうか、ロミオとジュリエット、いい得て妙だ)


 その時、母親がめずらしく食事中なのにクスリと笑った。


「母ちゃん?」


「『お母様』だろう」と、源蔵に注意される。


 長いこと『母ちゃん』だったのに、今さら『お母様』と呼ぶのはかなり違和感がある。

 一応、源蔵の前では注意しているのだが、長年染みついたクセはそうそう変えられない。


「いえ、あの映像を見た時、縁日のくじ引きを思い出したのよ。ほら、いっぱいひもが束になっていて、一本引くと景品が釣れるやつ」


「ああ。小さいころにやったな。で、景品って、いつもしょぼいのばっかで。なのに、母ちゃんに1回だけって言われてさあ」


「そうそう。で、あの映像、みんなあのお姫様に手を出していて、ちょうどくじのヒモみたいに見えなかった? その中から1本引いたら、出てきたのはなんと自分の息子。『あら、大当たり』って思っちゃったのよ。それを思い出したら、おかしくて」


「母ちゃんってば……。景品と引く人、逆になってるだろ」と、圭介も苦笑した。


「百合子、茶化すでない」と、源蔵はさらに不機嫌そうに眉を動かす。


「あら、だって、わたしの息子ですもの。あんなふうに大勢の中から選ばれて、自分の息子が1番と思ってもいいでしょう?」


「なんだ? 『学友』ではなく『恋人』にすべきだったと言いたいのか?」


「いいえ。それはわたしも珍しくお父さんに賛成よ。圭介のために感謝するわ」


 母親の言う通り、こんなことは今までになかった。


 源蔵は突然娘に感謝されて戸惑ったのか、「むむ」といったように口ひげをわずかに動かした。


「相手が王太子様ならともかく、ただの高校生の圭介があの子の相手と紹介されるには、まだ早すぎるもの。変なウワサで二人の邪魔をされても困るし、周りに振り回されるにはまだまだ子供すぎる。かわいそうだわ」


「母ちゃん……」


(それって、おれらの付き合いを認めてくれてるってことだよな?)


「だから、あまり口出しはしたくないけれど、軽率なことはしないこと。年頃の男女が付き合うとなれば、身体の関係も止めることはできないけれど、妊娠だけは気を付けてちょうだい」


 母親に真顔で言われて、圭介は顔が赤くなった。


「……それは大丈夫」


「え、やだ、うそ。もうそういう関係なの?」


 母親は口に手を当てて、面白そうに笑っている。


「なってねえから!」


「もう、恥ずかしがることないのにー。赤くなっちゃって。まだまだねえ」


「そうじゃねえ!」


 なんでこんなことを大声で否定しなくてはならないのか。

 チャンスを逃してばかりの圭介としては、泣きたい気分だった。


「二人ともやめんか! みっともない!」


 源蔵が怒鳴ったので、とりあえず母親も笑いを収めてくれた。


「まあまあ、百合子はもともとにぎやかな子でしたから。なんだか昔を思い出しますね」


 祖母の琴絵がやんわりと間に入ると、源蔵は鼻を鳴らして居住まいを正した。


 圭介も食事に戻ったが、向かいの母親が時々意味ありげに笑ってくるので、非常に居心地が悪かった。


(ぜってえ、誤解されてる……!)

次回はこの続きの場面からになります。

まずは母親に桜子を紹介したい圭介ですが……。

二話同時アップ、お楽しみに!


続きが気になると思っていただけたら、ぜひブックマークで。

感想、評価★★★★★などいただけるとうれしいです↓

今後の執筆の励みにさせてくださいm(__)m

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