11話 ようやく会えた……けど
本日(2023/02/28)は、二話投稿します。
時間は少し戻って、圭介の方の話です。
今朝、圭介は突然妃那から桜子に会いに行ってもいいと言われた。
予定では3日後のはずだった。
「え? マジ!? 今すぐ会っていいのか!?」
「少し予定を早めてみたの。圭介が喜ぶかと思って」
まだ3日もあると思っていたところが、突然今日になったのだ。
それを喜ばなくて、何を喜ぶ。
「よくやった! おれはものすごくうれしい!」
妃那の頭をわしわしとこすり、それからすぐに家を飛び出した。
あと少しで桜子に会えると思うと、車の中でも運転手をせかしてしまう。
ようやくの思いで病院にたどり着き、受付で桜子の病室を聞いたのだが、事務員の返事に「へ?」と、間抜けな声が出ていた。
「ですから、藍田桜子さんは家族のみの面会となっておりますので、ご両親の許可なく面会することはできません」
「ウソだろー……」
圭介はくたくたとその場に座り込んでしまった。
ここまで必死にやってきた分、一気に気が抜けた。
(いやいやいや、別にあきらめる必要はないんだから。ほんの少しガマンして待っていればいいんだ)
どちらにしろ今日のニュースを見て、そう遅くないうちに家族もやってくるだろう。
圭介はロビーで落ち着いて座っていることもできず、うろうろと徘徊していた。
「ダーリン」
声をかけられて、圭介ははっと振り返った。
そこには薫子が立っていて、まさしく救いの女神が現れた瞬間だった
「薫子! よかった、おまえがいてくれて。桜子に会いに来たんだけど、家族以外面会禁止って言われて、誰か来るのを待っていたんだ」
はやる圭介とは裏腹に薫子の視線が冷たい。
「ねえ、ダーリン。どのツラ下げて桜ちゃんに会いに来てるの? 別れるって言ったのはダーリンの方だよね? 妃那さんを選んで、桜ちゃんを捨てたよね? 今さら何しに来たの?」
薫子は計画を知らない。
たまたま王太子に子供ができたことが発覚して、『じゃあ、それなら』的に戻ってきた図々しい元恋人にしか見えないだろう。
「すまん。おまえが怒るのも当然だよな。話をすると長くなるんだけど――」
「話を聞く必要はないよ」と、薫子はけんもほろろに言い放つ。
「いや、それでも……!」
「だって、知ってるもん。ていうか、さっき知ったばっかだけどー。ダーリンも一緒になってあたしたちをダマしていたんでしょ? ムカついたから、お返し。だから、さっきのは冗談」
薫子はニッと笑う。
「じゃあ、その、桜子に会いに行ってもいいのか……?」
恐る恐る聞いてみると、薫子は少し困ったような顔をした。
「桜ちゃん、あたしのせいで興奮させちゃって、今は鎮静剤で眠ってるんだけど」
「後にした方がいいか?」
「もちろん行ってあげて。眠り姫を起こすのは王子様の役目なんだから。目を覚ました時、ダーリンがいたら、桜ちゃん、きっと喜ぶよ」
圭介はうなずいて、薫子の後に続いて桜子の病室に行った。
特別室はホテルの部屋のように広々としていて、いたるところに花が飾られている。
むせかえるような花の香りの中、桜子はベッドに静かに横たわっていた。
「桜子……」
桜子の予想以上にひどい状態に圭介は涙が出た。
ふっくらとした頬はこけてしまい、目の周りも隈取ったようにくぼんでいる。
ぬけるような白い肌も、今は血の気がないだけで、ただ青白くくすんで見えた。
口元に手をかざせば、静かな呼吸が感じられる。
そっと頬に触れると、その温かさにほんの少しなぐさめられた。
点滴だけの生活では栄養は取れても、筋力は落ちてしまう。
掛け布団から出ている首も肩も元々華奢な感じだったのに、今はさらに細くなってしまった。
圭介はベッドわきのイスに腰かけて、桜子の細い手を握った。
ただただ逢いたくて、当然のように来てしまったが、こんな状態の桜子を見ると、ためらいを覚えてしまう。
いくら計画とはいえ、ひどいウソで傷つけて、ここまで追い詰めてしまったのだ。
(なあ、桜子、謝ったらおれは許してもらえるのかな。まだおまえを好きだって言える資格、本当にあるのか?)
次話はこの続きの場面になりますが、桜子視点になります。
お時間ありましたら、続けてどうぞ!




