10話 これって、計画通りって言う?
本日(2023/02/24)、二話目になります。
前話からの続きの場面です。
『計画通りよ』と答える妃那に対して、彬は思わず怒鳴っていた。
「は!? どこが計画通りなの!?」
『ふと思いついて、一つのファクターを増やしてみたの。そうしたら、成功率は変わらずに日数だけ減ったから、そちらにしたのよ』
「それ、計画通りって言う? ていうか、そんな変更あったら、なんで僕に知らせてくれないの? びっくりして、ムダに朝から走っちゃったじゃないか!」
『知ったところで、彬は計画に関係ないでしょう?』
「……そうかもしれないけどさあ。で、何、そのファクターって。変なことしてないよね?」
『単にDNA鑑定を早めただけよ』
「鑑定士を脅して?」
『違うわ。もともとは王太子の髪を本国に送って鑑定する予定だったの。
でも、ラステニアには子供が産まれると、最初に切る髪を取っておく習慣があるんですって。王太子の髪も王宮にあったのよ。
そのこのことを思い出させてあげれば、早く王太子の子かどうか知りたい人はそれを使おうとするでしょう? 要は日本から王太子の髪が届く時間を削ることができただけの話』
妃那はどうでもいいといったような言い方だった。
「なんで、そのファクターを入れようと思ったの?」
『気に入らないの?』
「そんなことないよ。計画が早まって、僕もうれしい。単なる好奇心で聞いただけ」
『桜子がしゃべったと言っただけで、圭介があまりにうれしそうな顔をするから、それなら「会えるようになった」と言ってあげたら、もっと笑ってくれるのかと思って』
「……それ、普通にわかるよね? 計画立てる時に考えなかったの?」
『日数はどうでもいいと言ったのは彬でしょう。日数を減らすようにわざわざ選択肢は取らなかったわ』
「ええー……僕のせい? けど、姉さんの入院は1日早めてくれたじゃないか」
『それはあなたがついうっかり口を滑らせる危険があったから、成功率を上げるために1日早めただけよ』
「ええー……それも僕が原因なの? 姉さんの身体のことを思って、とかじゃないの?」
『だって、桜子がひどい状態になればなるほど、あなたは放っておけなくなるでしょう。
最初に言ったけれど、あなたが唯一の失敗原因なのよ。忘れたの?』
(……やっぱり、僕、父さんの言うようにこの人にいいように操られているのかな)
「……そうでした。それで、圭介さんにはもう知らせたの?」
『ええ。そのまま病院に飛んでいったから、そろそろ桜子に会える頃ではないかしら』
「ほんと!? ああ、でも、姉さん、さっき暴れて薬で寝ちゃってるよ……」
『そのうち目を覚ますでしょう』
「で、君は一人で学校?」
『行くわけないでしょう。家にいるわ。彬、もういいなら、今日は会えるのかしら?』
「会えるけど、とりあえず圭介さんが来るのを待って、姉さんの様子を確認してからでもよければ」
『では、3時に迎えに行くわ』
「了解」と、電話を切った。
その直後、なんだかおどろおどろしい気配を背後で感じて、彬は恐る恐る振り返った。
そこに薫子が鬼の形相で仁王立ちしていた。
「彬くん、全部知ってたの!?」
「……いや、まあ、実は……」
「道理で彬くんの行動があやしいって思ったんだよ!」
「え、そう……? バレてない自信あったんだけど」
「彬くん、桜ちゃんが部屋にこもった時も学校に行っちゃうし、しかも帰りに神泉妃那に会って夜まで帰って来ないし。入院中だって桜ちゃんよりあの人の方が優先だし。充分あやしいでしょ?」
「……おまえのことだから、そこまで気になってたら、僕に問い詰めない?」
「確証がなかったんだもん。彬くんの性欲がどの程度のものなのか、あたしにはわからないから判断しようがないでしょ? 3日と開けずにHしなくちゃいられない変態性異常者だったら当然のことになるし」
「変態性異常者って……。僕、そんな風に見られていたんだ……」
(でもまあ、よかった。おかげであんまり突っ込んでこないでくれて。薫子に問い詰められて、黙っていられた自信ないし)
桜子第一の薫子はこの計画を知ったら、彬同様桜子に黙っていられたかどうかはわからない。
(やっぱり、ここでも僕のせいで失敗するところだったんだ……)
「だから、神泉妃那が何か企んでいるだろうと思っていろいろ調べていたの。もしかしたら、桜ちゃんを早く向こうの国に行かせる算段とか、王太子と早く既成事実を作って婚約を確定にするとか。
あの人なら考えそうでしょ? あの人がどんなことを仕掛けてきても、阻止してやろうと思って頑張ってたの」
「うん……」
「それが何!? 必死でかき集めて、今か今かと公式発表を待っていたのに、この情報も神泉妃那の企みなの!? まさか、桜ちゃんを喜ばせて地獄に叩き落すつもり!? 彬くん、いつのまにかあの人に骨抜きにされて、なに企みに加担しているのよ!」
「いやいやいや、おまえ、なんか誤解しているから。そんな企みなんてものじゃないし、実際に二人がうまくいくように計画していただけで――」
「は!? 彬くん、相手が誰かわかってるの? 神泉家の『知る者』なんだよ? 自分の目的のためにポヤンとした彬くんをダマして利用することなんて朝飯前なんだよ!」
「ポヤン……それは父さんにも言われたな。僕、そんなにダマされそうなの?」
つい今の今まで真っ赤な顔で怒り狂っていた薫子が、突然落ち着いた表情に変わった。
「……待って。お父さんも知ってたの?」
「うん」
「神泉妃那が何をしようとしているか知っていて、黙っていたの?」
「だって、別に二人を元通りにするためだし、口出ししないって、一応協力してくれてた」
薫子はポカンと口を開けて、彬の顔を眺めている。
「そんな、まさか。あの人に限って……」
「だから、ダマされてないと思うよ。1番疑ってたの、たぶん父さんだから。その父さんが黙っていたってことは、大丈夫ってことだろ?」
彬がなだめるように言うと、薫子は再びキッと怒った顔を向けてきた。
「じゃあ、なんで、あたしだけ蚊帳の外なの!? あたしだって、桜ちゃんのために何かしてあげたくて、頑張ってたんだから、協力させてもらってもいいじゃない!
それが、みんなそろってあたしや桜ちゃんをダマして、不安にさせて、それでも黙って見ていたなんて! こーの、人でなし!」
「ごめんごめん。黙っていたのは謝るよ。でも、それも計画の内だったから。おまえには内緒にするって」
薫子はギロッと彬をにらみつけると、胸倉をつかんできた。
「け、い、か、く。まずは全部聞かせてもらいましょうか!?」
「はい……」と、彬は目をそらしながらポツポツ話してやった。
それを聞いて薫子が『なんて素敵な計画なの』などと言うはずもなく、話し終わった直後、薫子はコメントもなく、そのまま彬の胸倉を引き寄せ、一本背負いをした。
ドテッと背中から落ちて、彬は痛みにうめいた。
「何するんだよ!?」
彬が転がったまま涙目でにらみつけると、薫子は仁王立ちで彬を見下ろしていた。
「彬くーん、これでおアイコよ。よく効くお薬をどうもありがとう! やっぱりあの女、最低だわ!」
薫子は肩を怒らせて、大きなフンをひっかけて去っていった。
いろいろなとばっちりが彬に行ってしまいました……。
次回はようやく圭介&桜子の感動(?)の再会。
二話同時アップ、お楽しみに!
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