6話 眠り姫は王子様を待っている
本日(2023/02/17)、二話目になります。
圭介視点からスタートです。
圭介は桜子が緊急入院したことを翌朝の新聞で知った。
3面の記事だったが、テレビでは朝から大きく報道されていた。
病院前には報道陣が集まり、関係者に話を聞いたりと、大ニュースだ。
親である音弥や華の姿もテレビには映し出されていたが、暗い顔でノーコメントを通している。
王太子も今日の午後にはお見舞いに行くとのことで、病院周りは警備員が準備をしているらしい。
原因は度重なる心労で胃痛、ということになっていた。
婚約が決まってその重圧に耐えきれなかったというのが理由だ。
ただでさえ一国の王太子の妃となれば大変なのに、桜子はまだ高校一年生。
それが家族の元を離れ、遠い国の王太子の妃になるというのはどれだけストレスのかかるものかと、入院したことに疑いを持つ人はいなかった。
「なんかさあ、このままいけば、すぐに婚約白紙になりそうじゃねえ? 世論のおかげで。このまま婚約を強行したら、王太子は人でなしだろ。実際、そう言われているし」
登校中の車の中でスマホのニュースを見ながら圭介は言った。
「それくらいであきらめるような王太子だったら、計画はいらなかったのではないかしら。桜子との婚約はそのままにして、結婚は先にするとか」
妃那もスマホを見ながら静かに言った。
「……そうか。なあ、本当におれにできることない?」
「ないわ」
「なんか、何にもしないってのも落ち着かないというか……」
「余計なことをしない方が計画が成功すると言ったわ」
「わかってるんだけどさあ……」
圭介は重い気持ちでため息を吐いた。
*** ここから彬視点です ***
王太子が見舞いに来るということで病院の外は大騒ぎだった。
報道陣と警備員が入り乱れ、そこへやじうまも加わり、病院関係者は静かにするように叫び続けている。
彬はそんな様子を桜子の病室から眺めていた。
桜子は今朝目を覚ましたが、一言も話してくれない。
目を見開いたまま、じいっと天井を見ているだけだ。
「姉さん、安心していいよ。王太子はここには来ないから。お見舞いっていっても形だけ。だから、今はゆっくり休んで」
彬は桜子の手を取ってあやすようになでた。
ドアがノックされ、薫子が花を生けた花瓶を運んでくる。
「ほらほら、桜ちゃん、きれいでしょ? みんな心配して、こんなにお花がいっぱい」
朝からいろいろな人から花や励ましのメッセージが届き、部屋の中は花畑のようになっている。
そんな中に圭介からのメッセージの一つでもあったら、桜子は元気になるのかもしれない。
でも、それは望めないことだ。
(ごめんね、姉さん。もうちょっとガマンして)
病院に来てからは点滴で栄養を取っているし、血糖値も一晩経った今、正常値に戻っている。
気持ちを楽にするために安定剤も投与されているので、泣くこともない。
ぼんやりとしているのはそのせいかもしれない。
最後に桜子が叫んだ時、圭介を待っていると言っていた。
ずっとずっと圭介だけを待っているのだ。
(大丈夫。ちゃんと迎えに来てくれるから、今は眠ってていいんだよ)
花に囲まれて、眠り姫のように。ただ運命の王子様が迎えに来るのを待っていればいい。
長い眠りの先に、それは待っているんだから。
彬は口にすることはできないので、心の中で何度もそう語りかけた。
その後、病院にやってきた王太子はかなりお冠だったらしい。
「僕は婚約者だ! どうして面会ができないんだ!」と、大騒ぎしていたと、看護師が後で話してくれた。
表向きには知らされていなかったが、桜子の面会は家族に限定されている。
なので、婚約者であっても許可はされない。
もっとも、医者が妃那に買収されているので、本当に家族のみの面会でなければならないのかはわからない。
もちろん王太子との面会は、医者がいいと言っても、家族が断固拒否するが。
昨日、医者の買収の件を父親に聞いて、後で妃那に電話をかけてみると、あっさり認めてくれた。
「ええー……。僕、聞いてないんだけど」
『別にあなたが知る必要はないでしょう。それにしても、あなたの父親はやはり邪魔だわ。余計なことをしてきそうで』
「……でも、一応、手出ししないって言ってたし。単に姉さんのことが心配なんだよ」
『そんなに桜子が大事なの?』
「父親なんてそういうものなんじゃない?」
『あら、そう』と、妃那は気のない返事をする。
「とりあえず、姉さんは計画通りに入院したわけで、このまま何もしなくていいの?」
『そうね』
「じゃあ、また」と電話を切ろうとすると呼び止められた。
『ねえ、彬』
「何?」
『圭介があんまり笑ってくれないのだけれど、どうしたらいい?』
「やっぱり圭介さんも落ち込んでいるんだね……」
『どうしてわかるの? 会ってもいないのに』と、妃那は意外そうに返してくる。
「そりゃ、普通に考えればわかるよ。いずれうまくいくってわかっていても、姉さんと引き離されて、会いたいのにガマンしなくちゃいけないんだから」
『そういう時はどうしたらいいの? 圭介にも聞いたのだけれど、大丈夫と言うだけなの』
「じゃあ、君の得意なシミュレーションで方法を探してみたら?」
『とっくにやったわ。でも、『桜子に会う』になってしまうんだもの。メインの計画と矛盾するから使えないわ。それ以外は全部成功率が低くて』
「でも、ゼロじゃないんだろ?」
『高くても1%とか』
「じゃあ、全部試してみたら? 1%でも足していけば100%になるかもしれないし」
『あなた、バカなの? 確率は足し算ではなくて掛け算よ。1%はいくつあっても1%』
彬は正論すぎる正論に頭ががくっと落ちた。
「それはそうなんだけど、たとえ1%でも、どれかは効果あるかもしれないし、それに君がそうやって一生懸命圭介さんを励まそうとしている気持ちはわかってもらえるだろ?
そうやって積み重ねていったら、圭介さんも少しは元気が出るんじゃないかと思ったんだよ」
『元気が出たら、笑ってくれるの?』
「そうとは限らないけど、少なくとも笑うには元気が必要じゃない?」
『そうなの?』
「元気じゃない人はそう簡単に笑わないと思うけど」
『ふーん』と、妃那はやはり気のない返事をする。
あまり伝わらなかったらしい。
「ほら、僕だって姉さんが元気になるには、圭介さんのことを教えてあげることだってわかってるだろ? きっとそれをしたら、姉さんは笑顔になることは間違いなし。
でも、できないから、それ以外の方法では無理だってわかっていても、なんとかなぐさめてあげようって頑張ってる。
元気まで行かなくても、少しでも気が楽になれば、笑ってくれる可能性は上がるじゃないか」
『彬がそういうのならやってみるわ』
「……ちなみに、人が死んだりしないよね?」
『大丈夫よ。圭介が笑顔になるのにそんな選択肢は出てこないから』
「ていうか、最初から外しておこうよ……。じゃあ、まあ、お互い頑張るってことで」
そうして電話を切った。
妃那とは会う約束はしなかった。
桜子の状態が落ち着くまでは会えそうにないと思った。
何もせずには待っていられない圭介、その圭介を元気づけたい妃那、桜子も『眠り姫』のままではいられないかも?
次回、二話同時アップ、お楽しみに!
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