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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第5章-3 王太子が相手でも譲りません。~実践編~

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4話 計画通りのはずだよね?

本日(2023/02/14)、二話目になります。


引き続き彬視点です。

 その前日の放課後、彬はいつものホテルで妃那と会っていた。

 今日の計画を聞くため――だけではない目的ももちろん込みだが。

 そのために『桜子が心配じゃないのか』と疑いの目を向けられながら、登校しなければならなかったのだ。




「では、明日は桜子に入院してもらわないといけないから、はい、これ。彬に渡しておくわ」


 シャワーを浴びた後、妃那は色違いのラベルが貼られた茶色の小瓶を三つを渡してきた。


「何これ?」


「これが麻酔薬で、こっちが睡眠薬。それから下剤」と、それぞれのラベルを見せながら妃那が説明してくれる。


「……これで、何するの?」


「桜子に意識不明になってもらうのよ」


「ええー、わざとなの!? 救急車、呼べば済む話じゃないの?」


「1日食事をしないくらいでは、重病人に見えないわ。

 意識もあって普通に歩ける状態だったら、救急車を呼んだところでタクシーを呼べばいいと、断られるだけ。

 それでは大事にならないでしょう?」


「……で、睡眠薬?」


「そう。この麻酔薬を布にひたしてかがせれば、軽い眠りにつくから暴れたりしないわ。

 寝ている間にこの睡眠薬を飲ませれば、さらに深い眠りにつく。

 ちょっとやそっと動かしたくらいでは起きなくなるから、救急車を呼んでも意識不明扱いになる」


「……なるほど。で、この下剤は?」


「それは薫子に」


「なんで?」


「薫子は桜子のそばをずっと離れないのでしょう。

 彬がその薬を使う時間、邪魔だからトイレにこもってもらうのよ」


「薫子だけ? 従業員から王太子や側近まで、うちにはウロウロしているんだけど」


「王太子たちは出かけるように手配してあるわ。

 従業員に関しては、今は近づかないでと言えば、従うものでしょう?

 薫子だけはきっとテコでも動かないでしょうから、これを使うのよ。

 朝食にでも混ぜれば、数時間後には効くから、薫子がいなくなったところで行動に移せばいいわ」




 そうして今日、彬はその通りの行動に移したのだ。


(ここまでは上々。僕にしては頑張った方じゃない?)


 救急車が近づいてくる音が聞こえて、彬はほっと胸をなでおろした。




 救急車の到着を待ち、彬は薫子と一緒に乗り込んだ。


「16歳女性、こん睡状態。これから搬送します」


 そんな声が前の方から聞こえてくる。


 車が動き出して、救急隊員が桜子の血圧を測ったり、まぶたを下げたりと、状態を確認している。


「彬くん、どうしよう! 桜ちゃん、死んじゃったら……!」


 薫子は泣き崩れて彬に抱きついてくる。


「大丈夫、大丈夫だよ。ほら、救急隊の人、診てくれてるし――」


 そう言いながらも、彬は徐々に襲ってくる不安に手が冷たくなり、唇が震え始めていた。


 なんだかおかしいのだ。


 救急隊の人たちの間に走る緊張感が、単に寝ているだけにしては大げさすぎる。


(まさか、この人たち、全員役者なわけじゃないよね? じゃあ、なんで? 寝てるだけなのに、どうしてみんな、そんなに青い顔してるの? なんか、おかしいよ)


 自分の飲ませた薬で、桜子の身に何かあったのではないか。

 その可能性に、彬は震撼(しんかん)した。


「弟さんと妹さんでいいんだね?」


 穏やかな顔で話しかけてくる救急隊の人に、彬は歯をカチカチ鳴らしながらうなずいた。


「お姉さん、なにか薬を服用したとか、普段から飲んでいる薬はある?」


 いきなり直球が来て、彬はビクンと震えた。


「ふ、ふふ、普段はピルくらいで、おとといの夜から部屋に閉じこもって、ご飯も水も口にしてなかったんですが……」


「おとといの夜から。何かあったんですか?」


「その、恋人と別れて……ショックで……」


「ご両親に連絡を取りたいんだけど、連絡先をもらえるかな」


 震えながら父親の連絡先を言った。

 来てもらうなら、父親の方が早いだろう。母親は出張中だ。


「あの、姉がこん睡状態って……。このまま目を覚まさないなんてこと……」


「もう病院に着くから、先生が診てくれるよ」


 そう言って、救急隊員は助手席に戻っていった。


(ねえ、なんで? なんで、大丈夫って言ってくれないの?)


 病院に着いてすぐにストレッチャーで運ばれていく桜子に続き、彬と薫子も後を追った。

 足元がおぼつかなくて、何度も転びそうになる。

 薫子も同じだ。


 そして、自分の方が兄だということにようやく思い至った。

 こんな時に妹を守ってやれないで、どうする。


「薫子、しっかり。あと少しだから」


 グズグズと泣いている薫子の手を引いてやった。




 桜子はそのまま処置室に運ばれていくので、付き添いの彬たち二人は廊下のベンチで待つことになった。


 緊張で汗ばむ手で薫子の手をぎゅっと握り、処置室からかすかに聞こえてくる音に集中する。

 自分の心臓の音の方が大きくて、やけにうるさい。


(大丈夫、大丈夫。姉さんはきっとよくなるんだから。すぐに薬が切れて、目を覚ますんだから)


 繰り返し繰り返し自分の中で唱えるだけの時間が過ぎていく。




 足早に近づいてくる靴音に彬が顔を上げると、父親と秘書の佐伯が看護師に連れられてこちらに向かってくるところだった。


「お父さん……!」と、薫子が泣きながら父親に抱きついた。


「おまえたちは待っていて」


 そう言った父親の顔はいつになく強張って、血の気もないように見えた。


「お父様、こちらです」と看護師に言われ、父親は薫子を励ますように肩を叩いてから、処置室に入っていった。


 また時間だけが過ぎていく。




 父親が医師にあいさつをしながら処置室から出てきた時は、彬は薫子とともに飛び上がるように立ち上がっていた。


「桜ちゃんは?」

「姉さんは?」


「大丈夫。命には別状ないって」


 父親の答えに、彬は腰が抜けるほど安堵してしまった。


「よかった……」


「低血糖で一時的に意識を失ったらしい。それは大した問題じゃないんだが――」


「何か問題があるの?」


「今はもう意識を取り戻していたんだけど、話もままならない。血糖値が下がっているせいもあるが、精神的にかなり参っているみたいでな。しばらく入院して、療養した方がいいって」


「しばらくってどれくらいなの?」と、薫子が聞く。


「血糖値の問題もあるから、少なくとも2、3日は様子を見て、後は経過次第だそうだ」


「その方が桜ちゃんにとってもいいよね。うちには王太子がいるし、部屋に閉じこもっちゃったら、ご飯の心配もあるし」


「おれはこれから入院手続きをしてくるよ。おまえたちは桜子が出てきたら、病室まで付き添ってやってくれ。おれも後から行くから」


 父親が佐伯と言葉を交わしながら去っていくのを見送りながら、彬はベンチに腰を落とした。


(とりあえず、これが()()()()なんだよね……?)

計画は順調に進んでいるようですが、彬も知らされていない『計画』あったりして……。

ハラハラする展開はしばらく続きそうです。

次回も二話同時アップ、お楽しみに!


続きが気になると思っていただけたら、ぜひブックマークで。

感想、評価★★★★★などいただけるとうれしいです↓

今後の執筆の励みにさせてくださいm(__)m

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