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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第5章-3 王太子が相手でも譲りません。~実践編~

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1話 聞きたい声が聞こえてこない

本日(2023/02/10)は二話投稿します。


第5章-3【実践編】スタートです。


桜子視点になります。

 桜子はぼんやりとベッドに転がったまま天井を見ていた。


 何度も何度も圭介に言われたことが繰り返されて、その度に涙があふれてきたのに、今はもう涙も出てこない。


 どんなことがあっても好きだと言ってくれた圭介。


 いつも桜子のことを見てくれていた。


 別れを告げた時も、どこまでもやさしい言葉で桜子の幸せを願ってくれた。


(ねえ、圭介。あたしが圭介と別れて、王太子と一緒になって、本当に幸せになれると思っているの? 本当に幸せを願うなら、あの場からあたしを連れ去るべきだったんじゃないの? そうしたら、あたしはどこまででもついていったのに)


 王太子に何かを言われたんだろう。


 そうでなければ、あれほど信じていると言って待ってくれていた圭介が、手のひらを返したように別れるなどと言い出すわけがない。


 『裏切った』という言葉も圭介らしくない。

 圭介がそんな言葉をあんな平気な顔で言うわけがない。


 だから、ずっと圭介からくるだろう連絡を待っていた。


「あれはお芝居だったんだよ」と、言ってくれるのを。


 なのに、一晩経ってもそれはこなかった。


 スマホに残る履歴は家族や親せき、友達、知り合いのものばかりだ。


 婚約発表の連絡を聞いて、みんなお祝いを一言いいたくて、電話をかけてきている。


 家族は部屋に閉じこもって返事をしない桜子を心配して、いろいろなメッセージを送ってくる。


(ねえ、圭介、あれは間違いだったんだよって言ってくれないの……?)


 ひと言そう言ってくれたら、また頑張れる。

 王太子なんかいくらでも撃退して、婚約なんて白紙に戻してみせる。


(だから、ずっと待っているのに、どうして何も言ってくれないの? それは『間違い』じゃなかったからなの……?)


 乾ききってしまったはずの涙が再びあふれてくる。


「桜ちゃん、おはよう。起きてる? 起きてたら、ちょこっとだけでもご飯食べようよ」


 ドアの外からは頻繁(ひんぱん)に声が聞こえてくる。


「桜子、お願いだから出てきてくれ。つらいのはわかるけれど、このままでは病気になってしまう」


 王太子もしつこく声をかけてくる。

 今、一番聞きたくない声だというのがわからないのだろうか。


(この人さえいなければ)


 桜子の中で初めて嫌な感情が芽生えたのを感じた。


(こんな人がいるから、めちゃくちゃにされるの。この人が圭介との仲を壊したんだよ。

 ねえ、この人さえいなくなったら、あたしたちは元通りになるの?)


 死んでほしい、誰かにそんなことを思ったのは初めてだった。


 何度桜子がノーと言っても話を聞いてもらえないことが腹立たしい。

 圭介との仲を引き裂くことが憎らしい。

 傷心の桜子につけこんで、勝手に婚約を発表したのが許せない。


(死んじゃえばいいのに)


 そんなことを考えてしまう自分に気分が悪くなってくる。


「桜子、お願いだから、早まったことだけはするなよ。

 生きていれば、必ずおまえが幸せになる道は見つかる。

 だから、今は苦しいかもしれないけど、歯をくいしばって耐えるんだ。

 その先に幸せが待っているから」


 父親の言葉は桜子を苛立たせる。


(そう思うなら、お父さんが何とかしてくれてもいいのに。

 あたしがどれだけ圭介のことを好きでいるか知ってるのに)


 子供の恋愛に口出ししないといって、放置するのはズルいと思ってしまう。

 向こうは王太子の権力を使ってきているのだから、父親が対抗してもいいところだ。


(……あれ。あの人、権力なんて使ったっけ?)


 桜子の家に無理やり来たり、パーティに来させたりと、そういうことには確かに権力を使っていた。しかし、婚約に関しては、今まで命令されて無理やり従わされたことは1度もなかった。


 ただ桜子のご機嫌をとるようにニコニコして、しつこく言い寄って、そして、圭介を何らかの方法で引き離した。


 王太子は自分の手の中にあるものを使って、桜子に求愛していただけ。

 それに屈したのは圭介の方だった。


 だから、子供の恋愛には口を出さないと言っていた父親は、静観しているだけなのだ。


(バカ、もっと傲慢(ごうまん)でイヤな奴だったら、お父さんがあんな虫、駆除(くじょ)してくれるのに。中途半端にあたしを求めてこないでよ!)


「姉さん、みんな心配しているんだよ。無事かどうか一言でいいから、言ってくれない? それがイヤだったら、送ったメッセージを既読にするだけでもいいから」


 彬の声が聞こえる。


 大切な家族が心配してくれている。

 なのに、今はその人たちのことを考えてあげられない。

 1番大切なものを失ってしまった今、他のものがどうでもよくなってしまう。


(圭介はあたしの手の中にはいっぱい幸せが残っていると言ってくれたけど、圭介がいなくなっちゃった時点で、全部こぼれ落ちちゃったみたいなの)


 そんな風に大事な家族を思ってしまう自分にも腹が立つし、情けなくて、涙があふれる。


 そして、ドアが叩かれるたびに期待している。


「桜子、もう大丈夫。迎えに来たよ」と、言ってくれる圭介の声を。


 何度も何度も期待して、落胆(らくたん)する。

 その繰り返しでしかないのに――。

桜子は計画を知らされてないため、切ないスタートとなりました。

次話は彬と音弥、男同士の語り合いになります。

よろしければ、続けてどうぞ!

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