16話 けっこう過酷な計画だよな?
本日(2023/02/07)、二話目になります。
前話からの続きの場面です。
「どうして怒るの!?」
妃那は額をおさえながら、恨めし気に圭介を見つめてくる。
「おまえ、全然反省してないじゃないか! 人の命を何だと思ってんだ!?
人を死に追いやる計画なんて、直接おまえが手を下さなくても、おまえは罪を負うんだ。
内戦もそう。おまえが立てた計画で、どれだけの人が亡くなって、傷ついたと思ってんだ!?
おまえが自分の命を大切にできないとしても、他人の命まで粗末に扱うな!」
「……どうしてそんなに怒るの? 嫌わないって言ったのに」
「嫌わないよ。だって、おまえは何にもわかっていないんだから。おれがちゃんと教えておけばよかったって後悔した。おれにも責任があるって言ったのは、そういう意味だ。
お願いだから妃那、命というものを大切にしてくれ。人の命を奪う計画を思いつくのも、実行するのも一切なし。おまえ自身の命であっても、失ってしまうようなことは2度と考えるな」
「……わかったわ。彬にも同じようなこと言われたから」
妃那はそう返事をしたが、やはりこれは理解しづらいことなのだと思わずにはいられなかった。
同じようなことを彬に言われても、それを悪いことだと認識していない。
(そんなの、どうやって教えたらいいんだよ……)
「でもね、圭介、わたしはもう2度と自分から死のうとは思わないわ」
「え……?」
顔を上げると、妃那はにっこりと無邪気な笑顔を浮かべていた。
「彬が言ってくれたから。わたしが必要なんですって。わたしなしには生きられないと言うの。だから、わたしは死ねないのよ。
わたしも彬がいないとこんな風に圭介にやさしくしてもらえないから、死んでもらっては困るの」
「それって――」
(愛の告白じゃないのか?)
「ねえ、圭介。わたしは圭介がいないなら生きている意味がないと思っていたけれど、圭介を失っても別の人がいたら、死にたいと思わないものなのね。
そんな人がどんどん増えてしまったら、わたしはずっと死ねないわ」
鮮やかに笑う妃那を圭介はなでてやった。
「そう、そうやってみんな誰かのために生きてるんだ。一つの命はその人だけのものじゃないってこと。
もしもおまえが誰かに命を奪われたら、彬も死んでしまう。死ななくても悲しい思いをする。
そんな失われる命が二つだったら、三つだったら、いったいいくつの命がさらに失われて、どれだけ悲しい思いをする人がいるんだろうな。
おまえは頭がいいから、わかるだろ? だから、人の命を奪ってはいけないって言ったんだ」
「さっきより、ずっとわかった気がしたわ」と、妃那は神妙な顔でうなずいた。
「おまえは彬に出会ったことで、一つ経験をしたんだ。大事なことを習った。大人になるってそういうこと。
だから、いろんな人と出会って、経験を積めば、みんなが言っていることがもっとずっと理解できるようになる。それは『情報』では手に入れられるものじゃないから、これからもいろんな人と関わっていってほしい。
その中にはきっと、おまえに生きていてほしいっていう人が出てくるはずだから。そういう人たちにおまえは生かされていくんだ」
「そうね。彬に言われた時、なんだかとても幸せな気分だったわ。
圭介以外の人でもわたしをそんな気分にしてくれる人は、きっといるということなのね」
「もちろん」
「ところで、圭介。計画はどうするのかしら?
もうスタートしてしまったけれど、20日も待つのがどうしてもイヤだというのなら、もう一度考え直せないこともないけれど」
「その計画はまともなんだろうな?」
「そうよ。彬にちゃんと確認してもらって、これなら圭介に嫌われるようなことはないと言っていたから」
「……もしかして、日数を短くすると、犯罪絡みになっちまうのか? だから、彬が日数はどうでもいいって言ったとか」
「そうよ。犯罪もダメ、人が死ぬのも傷つくのもダメ。かろうじて軽傷は仕方ないって、ダメダメ尽くしよ」
それを不満げに言うあたり、妃那はまだまだ理解が足りないらしい。
(まあ、すぐに頭を切り替えられる問題じゃないからな……)
「彬が全面的に正しい。彬がそれで大丈夫っていう計画なら、おれはかまわないよ」
「ずいぶん信用しているのね」
「してるよ。いい奴だって言っただろ?」
「イヤな奴よ」
相変わらずな妃那の言葉に、圭介はぷっと笑った。
「それじゃ、計画を説明してもらおうか」
妃那は丁寧に説明してくれたが、内容は圭介にとっても、桜子にとってもかなり過酷なものだった。
数値には現れない『精神的苦痛』が加味されてない計画。
妃那らしいと言えば、妃那らしい。
しかも、妃那の言っていた通り、圭介にできることが何もない。
(おれの方は普通に20日過ごすだけで、桜子は入院までしなくちゃいけないなんて……)
「そういえば、藍田氏にもおまえがうまくやってくれるみたいなこと言っちゃったんだけど、大丈夫か?
だから、おれが本気で別れたわけじゃないってことを知ってるんだけど」
「圭介……。そんな厄介な人を計画に入れたら、成功率が下がるじゃない」
妃那は心底いやそうな顔をする。
「やっぱり?」
「だって、あの人、行動パターンや性格が全部矛盾しているから、関係者に組み込むとエラーの連発になるんだもの。
この間の計画でも桜子の父親だから、どうしても関係者にせざるを得なくて苦労したのよ」
「なんか、イメージつくな……」
「その人、傷ついている桜子に本当のことを言ってしまう可能性があるということでしょう?
計画の方は改めて計算し直してみるけれど、少なくともそれだけはすぐに口止めしないと、即失敗よ。
彬に口止めするだけでも大変なのに」
「時間も時間だし、明日の朝でも間に合うか?」
「だといいけれど」
「……じゃあ、一応メールだけ入れておく」
おやすみと圭介は部屋に戻って、自分のスマホを取った。
幸い桜子にスマホを貸した時の音弥の連絡先が残っていたので、メッセージは送ることができた。
『圭介です。明日の朝に詳しいことを話しますので、今は桜子に本当のことを話さないでください』と。
次話は翌朝の話、【計画編】最終話になります。
短めなので、よろしければ、続けてどうぞ!




