15話 早く帰ってきてくれ
本日(2023/02/07)は、三話投稿します。
圭介視点です。
夕食前、圭介の元に妃那から9時ごろには帰るとメッセージが来た。
1度言えばきちんと聞いてくれる辺りは、非常に素直でかわいいと思う。
――が、今日に限っては早く帰ってきてほしかった。
そんな心情をくみ取れるのなら、妃那はもっと人とうまくやれている。
(おれ、どうなったか知りたいんだけど!)
とはいえ、緊急の用事でもないのに、ホテルにいる妃那に再び電話をかけるわけにもいかない。
夕食後は自分の部屋で家庭教師と勉強していたのだが、どうしても上の空になって、スマホを気にしてしまう。
(ていうか、あいつら、何時間ホテルにこもってるんだよ!? ご休憩3時間とか4時間じゃないのか? 毎度毎度延長してるのかよ。てか、何回やってんの?)
話でもしなければ間が持たないと思うのだが、昨日も丸1日ホテルにこもりっぱなしで、ただただやり続けているのかと想像しても、あまり現実味がない。
(やっぱ、それなりに話したりしているんだよな)
妃那の話す内容に、わずかながら圭介が教えたことではない人間らしい常識的なことが入ってきている。
それは明らかに彬の影響としか思えない。
(やっぱり、わからんな……)
好きでもない相手と1日一緒にいても飽きないでいられるということ自体、理解できない。
中高生なのだから、他に興味のあることもあるだろうし、彬の方は自分の友達付き合いや習い事もある。
なのに、妃那と会うのを優先している気がする。
(そっちにハマっちまったか? 相手は妃那だもんな)
圭介自身が知っていることではないが、痴女と思えるくらいに色気バリバリで迫ってきたことを思うと、経験はケタ違いなのだろう。
そんな身体におぼれ切っているのか。
とはいえ、1日中やり続けることなど、いくら若さがあっても不可能だと思う。
もっとも圭介には経験自体がないので、想像の域を出ない話でしかないが。
(いいとこ1、2回やったら、スッキリして帰ろうってことになると思うんだけどな……。他にすることがないわけじゃないんだし)
そんなことを考えながら、思わず「うーん」とうなった。
「わかりづらいですか?」と、家庭教師の大学生に聞かれてしまった。
「あ、違います。すみません、聞いてませんでした。もう1度お願いします」
実際のところ、桜子のことを考えると気が滅入るので、今は思い出さないように勉強に集中したいところなのだが――。
結局それもできず、どうでもいい他人の性生活を考えてみたりしているのだ。
ようやく9時を回ったところで、廊下をヒタヒタと歩くスリッパの音が聞こえきた。
その音の軽さから、妃那だとすぐにわかる。
「大変すみません。今日はここまでにしてください。大事な用事があるので」
「わかりました。では、また来週」
家庭教師はゆっくりと荷物をまとめているので、それを待っている時間も惜しい。
「では!」と、圭介は先に部屋を飛び出した。
妃那の部屋まで走って、勢いよくノックする。
「どうぞ」の声と同時に部屋に乗り込んだ。
「おい、妃那、待ってたんだぞ!」
「圭介、どうして怒っているの? 連絡はしたでしょう?」
妃那は理解ができないといったように、目をパチクリさせている。
「怒ってないぞ。ちゃんと連絡してきて、えらい。
だから、おまえが9時に帰ってくるのを今か今かと待ってたんだ。
あれからどうなったか、普通に聞きたいと思うだろ?」
「別に急ぐこともないでしょう?」
「だって、おれ、桜子に別れを言ったんだぞ?
あのまま放置して帰ってきて、心穏やかに過ごせるわけないだろーが!」
妃那は不思議そうに首を傾げながらソファに座った。
「圭介も座ったら? 立ち話もなんだし」
「……うん」と、圭介は勧められた通りに妃那の隣に座った。
「今日はなんだかいっぱい話をしたから、本当は明日の方がいいんだけれど」
「話したって、彬と?」
「そうよ。だって、わたしの計画について1から10まで聞いてくるんですもの。
おかげで、全然の関係ないお兄様の話までしてしまったわ」
「……おまえ、全部しゃべったのか?」
「隠すことでもないでしょう?」
「隠すことはないけど、相手がドン引きする場合もあるし……。
特におまえたちみたいに身体だけが目当てみたいな関係は、そういう重い話はどうかと思ったんだけど」
「彬は別に気にしなかったわ。……そうね、話した後はぎゅっと抱きしめてくれたわ。
気持ち悪いからやめてもらったけれど」
「……そんな愛のある抱擁が、なんで気持ち悪いんだよ?」
「愛がないから気持ちが悪いのでしょう。お兄様と同じではないの。そういうの、変態というのでしょう?」
「ええー……」
(そこに愛はやっぱりないのか?)
一度、彬とじっくり話をしてみたいと思った。
「それはともかく、おれたちの話は?」
「ねえ、圭介。そういえば、圭介と桜子が元通りになるように、とても素敵な計画を立てたのよ。
聞きたいかしら?」
妃那はぱっと顔をきらめかせて、圭介を振り返ってきた。
「それを聞きたいから待ってたんだけど……」
「あら、そうなの? てっきり、あれからどうなったかと聞くから、パーティの場で何があったのかを聞きたいと思ったのよ。
どうせ新聞にも出ることだし、明日でもいいと思って」
「そういうわけで、おれはおまえの次なる計画を聞きたいんだ。
ちなみに結論から言ってくれるか? おれらは元通り、平和に付き合えるのか?」
「ええ、もちろん。そのための計画でしょう? 完遂できない可能性は0.9パーセントよ」
「……その確率、確かなんだろうな? おれからすると、毎回外れているような気がしてるんだけど」
「どうしてか、圭介はわざわざ計画が失敗するように動いてしまうの。
だから、きっと圭介はあまり動かない方が計画は成功するんだわ」
「いや、でも、おれらのことなのに、どうしておれが除外されるんだ? 当人だろ?」
「別に圭介にやってもらうことはないもの。逆に変に動かれたら失敗するかもしれないわ」
「じゃあ、その計画を邪魔しないためにも、詳しく聞かせてもらえるか?」
「もちろんよ。きっと圭介はすごく喜ぶと思うわ」
「本当だったら、いっぱい頭ナデナデしてやるからな」
「約束よ。圭介はとりあえず普段通りに生活していれば、20日後に桜子に会えるわ」
「……20日後?」
聞き間違いかと思ったが、「ええ」と妃那は真面目な顔でうなずく。
「……ちょっと待ってくれ。おれ、おまえのことだから、遅くとも数日のうちに桜子への別れを撤回できるようにしてくれると思ってたんだけど。
20日って、そんなに先まで、おれら、別れたままになるのか?」
「だから言ったのに……」と、妃那は口をとがらせる。
「何が?」
「わたしはね、最初3日で成功する計画を立てたのよ。なのに、彬が日数なんてかかってもいいと言うから」
「へえ……。ちなみに3日で済む方法ってどんなの?」
「……圭介、言ってもわたしを嫌わないと約束して」
「嫌いになるような内容なのか?」
「彬はそう言っていたけれど」
「まあ、遂行する前だから、話だけってことだろ? 聞いたところで問題ないよ」
「やっぱり圭介ね」と、妃那はにこりと笑う。
「で?」
「手っ取り早く邪魔な王太子を暗殺」
ぺしっと圭介の手が妃那の額に飛んでいた。
次話、この場面が続きます。
お時間ありましたら、続けてどうぞ!




