10話 最高の切り札でしょう
本日(2023/01/27)、二話目になります。
【4話 サヨナラのあいさつ】の続きの場面です。
圭介視点に戻ります。
パーティ会場である大広間を出た圭介は、閉まる扉に寄りかかって大きく息を吐いた。
目を閉じれば、桜子の泣き顔が浮かんで、めまいがしそうだ。
自分の想像以上に精神的に参っている。
胸が締め付けられ、苦しいくらいに切なくなる。
「おれとしては、意外な結末だったけど?」
圭介はゆっくりと目を開いて、声の主を見た。
黒のタキシード姿の藍田音弥は、いつになくエレガントでかっこよく見えた。
そして、今までで一番不機嫌だった。怒りさえ垣間見える。
その理由はわかっているので、怖いとは思わなかった。
「優先順位の問題です」
「なるほど。君の優先順位はあのお嬢さんが上だったと。桜子は二の次で」
軽蔑したように見つめてくる音弥の顔を見て、圭介は思わず笑みをもらしていた。
「どっちでもないですよ。おれが1番欲しかったのはこれです」
圭介は上着のポケットからたたんだ紙を取り出し、音弥に渡した。
「結局、彼女が優先されたということだろう?」
その文面に目を通した音弥は、紙を叩き返してくる。
「お父さんも桜子のことになると、意外と冷静じゃいられないんですね。
実はここに書いてある名前の子が自由なら、何とでもなるんですよ。
お父さん、言っていたでしょう。16歳のおれでは何もできないって。
何も持っていないおれが何かしようとすること自体、間違ってるって気づいたんです。
それなら、持ってる奴を頼るというのが、おれの出した結論です。
ここに薫子が来ているってことは、妃那が動いています。後がどうなるかは知りませんけど……。
最近あいつ、おれに頭をなでてほしくて頑張っていたんで、悪いようにはならないと思います」
音弥はくっと笑ったかと思うと、腹を抱えてさらに笑い出した。
「誰でも手に入れたいと思う最高の切り札を、ちゃっかり手なずけて手に入れているとは」
「それは、たまたまですよ。偶然の重なった結果です」
「今ある手の中で最高の一手を出す。やっぱり君は桜子の選んだ男だね。部下にするより、『お父さん』になりたいよ」
「それはおれにとって最高の誉め言葉です。おれが受かりたいのは『役員面接』じゃなくて『お父さん面接』なんですから」
音弥は笑いを収めて、目をきらりと光らせた。
「では、おれは泣いている桜子をなぐさめて、王太子ともいずれ幸せが見つかるよ、とやさしく言ってやればいいのかな?」
「お願いします。おれの演技、かなり陳腐だったんで。王太子にバレるんじゃないかとヒヤヒヤしました。
ほんと、もう、泣いている桜子を見てるのはつらくて……。おれの一世一代の大芝居でした」
「藍田に来たらそんな機会いくらでもある。将来は大俳優だよ」
じゃあね、と音弥は涼しげな流し目を送りながら広間に入っていった。
(で、お父さん? 結局、あなたの場合は、どれが演技でどれが本当なんですか?)
聞いてみたかったが、いずれ聞くことはできるだろう。
それとも、もしかしたら間近で見続けるうちに、わかる時が来るのかもしれない。
そんな日が来ることが楽しみだった。
とりあえず、圭介の一発逆転ですかね?
次回は妃那が用意してきたこれからの計画。
さて、どんなものなのか。
二話同時アップ、お楽しみに!
続きが気になると思っていただけたら、ぜひブックマークで。
感想、評価★★★★★などいただけるとうれしいです↓
今後の執筆の励みにさせてくださいm(__)m




