8話 なかなか本題に入れません
本日(2023/01/24)、二話目になります。
「なんだか、彬と話していると、余計に話が長くなる気がするわ」
妃那がやれやれといったようにため息をつく。
「悪いねー。クドクド話してもらわないと、僕の頭では理解できないんだよ。
で、君は成功したら圭介さんを手に入れられる、失敗してもお兄さんの遺言を守れる計画を立てたというわけだ。
ある意味、どっちに転んでも君としては損はないよね?」
「ええ、もちろん。計画を立てるのなら、そうでなくては。
なのに、おかしいの。気づけばわたしは、確実に圭介を手に入れるように、綿密な計画を練っていたのよ。
どうでもいいはずの命なのだから、結果など半々で充分でしょう?
死んでもいいと思っていたのに、何とか圭介と生きる確率を上げようと必死になって。
その時に初めて気づいたの。自分が生きたいと思っていることを。圭介と一緒に幸せになりたいと。
でも、たとえ計画が成功しても、圭介がわたしを好きになるかどうかは別問題。
だから、今度はその方法を考えて、あなたを利用することにしたの」
『利用』は言葉が悪い。
けれど、彬も実際に妃那を『利用』した。
お互い様だ。
彬も桜子を好きでい続けるために、その誘惑に乗ったのだ。
「結局、この関係は二人を別れさせる計画には含まれていなかったんだね」
「あなた、本当に記憶力がないのね。最初に言ったではないの。何度繰り返せばいいのかしら」
「覚えてるよ! そもそも君が何を考えているかわからないから、言ってることを頭っから信じられないんだよ!」
「なら、今、こうして説明するのもムダなことなのかしら」
彬は息をついて座り直した。
「最初の頃はともかく、今は信じている。君のことを少しずつ知ってきて……ただの無邪気な子供だってわかったから」
「失礼ね!」と、妃那は眉を吊り上げる。
「いい加減、自分が子供だって自覚しなよ」
「何を偉そうに。自分だって子供のくせに」
プンプンと頬をふくらませている姿こそ、子供だと思わず笑いたくなる。
「僕は充分子供だよ。ちゃんと自覚してる。何の責任も取れないし、親の庇護のもとで生きるしかない。
遅く帰れば、親に説教されて、ひたすら謝る子供なんだよ」
「彬も怒られたりするの?」
「めったにないけど。僕、一応マジメだし」
「あら、本当に普通にあることだったのね。うちのお父様がおかしいのかと思ってしまったわ」
妃那は感心したようにまじまじと彬を見つめてくる。
「……何が?」
「昨日、遅くに帰ったら、お父様に叩かれたから」
「それは愛されてるね」
「どうして? 圭介もそんなようなことを言っていたわ」
「どうしてって……。普段から叩かれてるわけじゃないんでしょ?」
「初めてだったわ」
「じゃあ、やっぱり、君は大切にされているってこと」
「大切なのに叩くのは、やっぱり納得がいかないわ」
「まあ、そうだね。君の場合は言葉通じなさそうだし。思いあまって手が出ちゃったんじゃない?」
「そうなのかしら……」
「で、話を元に戻すと、僕とこういう関係になって、今まで話したことから見ても、圭介さんともうまくいくようになってきた。
後は姉さんと別れてくれれば、無事に圭介さんは無事に君のものとなる。
だから、クーデターを起こした、と」
「そういうこと。計画は着々と進んでいたけれど、わたしがわざと漏らしていた情報を薫子が早々に拾い集めて、あなたの父親がちゃっかりそれを利用しようとしたりするから、おじい様たちにバレてしまったのよ。
圭介が桜子をあきらめるための切り札として取っておいたのに。
本当に腹が立つわ、あなたたち親子。おかげ怒られてしまったではないの」
妃那は思い出したのか、怒ったようにフンと鼻を鳴らす。
「薫子はなんとか君の企みを阻止しようと頑張っていて、結果、とりあえずは回避できたんだから、姉さんたちにしてみれば喜ばしいことだよ」
「彬、そのおかげで王太子がノコノコやってきて、桜子にとっては状況が悪化したということに気づいている?」
「ああ、やっぱ、最悪の事態を招いたって感じ……?」
「だから、流れに身を任せて抗わない方がいいと言ってあげたのに。余計に傷つくのは桜子の方なのだから」
「それだけ、姉さんだって圭介さんを失えないって必死だったんだよ」
「もっとも、王太子が自分の国にいようが日本に来ようが、結果は変わらないわ。
相手は粘着質で、いつまでもいい返事をしない桜子を待っているほど気長ではない。
いずれ圭介に話を持ちかけてくる。わたしの用意した切り札を手に、別れるように言ってくる。
圭介が桜子のことをどれだけ好きでも、さすがに自分のせいでわたしが死ぬかもしれないと思ったら、桜子と別れる決意をする――という計画だったのよ」
ようやく元々の計画の全貌がわかって、彬はスッキリした気分でふうっと息を吐いた。
「で、君は二人を元通りにするって言ってたのに、どうして今さら君を選べなんて言う必要があったのかを聞きたかったんだけど」
「それ、最初の質問よね? いったいどれだけ話を遠回りしたら、たった一つの質問でこんなに時間がかかるのかしら」
(それは僕も思うけど! 知らないことだらけなんだから、仕方ないじゃないか!)
長々引っ張りましたが、次回でようやくその答えが聞けます。
別れを告げた後の圭介も気になるところ。
二話同時アップ、お楽しみに!
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