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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第5章-2 王太子が相手でも譲りません。~計画編~

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5話 電話の向こうでは何が起こっている?

本日(2023/01/20)は、二話投稿します。


彬視点です。

前話から少し時間が戻ります。

 同じ日の放課後――。


 圭介と桜子の関係を元通りにする計画を聞く予定だったので、彬は期待半分、好奇心半分で、一日授業も上の空だった。


 おかげで、ホテルの部屋に入っても待ちきれない。


「で、どうするつもり? 話してくれる約束だよね?」


「別に今すぐどうこうしなくてもいいのだから、焦る必要はないわ」


「いや、でも、気になるし」


 妃那は彬の頬を両手ではさむと、ニッと笑った。


「薫子に頼まれているんでしょう? 聞いて告げ口するつもり?」


 耳元でささやかれて、ドキリとした。


 やはりこの人相手に、ウソは意味をなさない。


「……半分当たりで、半分外れ。君が二人を邪魔するようなことを企んでいるのなら、薫子に言う。

 けど、今回は違うんだよね? だから、君が薫子に内緒にしていてほしいなら、僕は黙ってる」


「なら、焦る必要はないんだから、1回してからでも遅くはないわ」


 妃那はうやむやにして、話をなかったことにするつもりはないらしい。


(なら、まあいっか。スッキリしてからの方が、頭もスッキリするし)


 好奇心より先に性欲発散が優先される思春期なのだ。


 というわけで、彬は喜んで妃那の誘いに乗らせてもらうことにした。




 二人でシャワーを浴びて部屋に戻ってくると、妃那のスマホがテーブルの上で震えていた。


 ホテルに入る時、妃那はいつもスマホの電源を切っているのに、今日は珍しくカバンからも出してある。


「彬、圭介からだから出るわ」


「はいはい、どうぞ。愛しい人からの電話は出た方がいいよ」


 彬はそう言ってベッドに座ったが、妙な気分だった。


 圭介は妃那が彬と一緒にホテルにいることを知っている。

 昨日のように遅い時間になって心配しているのならともかく、まだ日も暮れていない放課後の時間。

 そんなところに邪魔するような電話をわざわざかけてくるはずがない。


(何かあったんだ)


 彬は腰を浮かせて妃那のそばに行くと、妃那はそれに気づいてスマホをスピーカーに変えた。


 これで彬も聞くことができる。

 が、妃那は圭介と言葉を交わしながら人差し指を口に当てた。


 彬には黙っていろと言うことだ。


(……なんで? 僕と一緒にいるのは知っているはずなのに)


 仕方ないので静かに二人の会話を聞いていたが、スマホからは変に雑音が混じって聞こえてくる。

 相手もスピーカーなのだとすぐに気づいた。


 つまり、圭介のそばには誰かいる。

 その()()は話を聞いているので、圭介はもしかしたら、本当のことは全部話せないかもしれないと思った。


 妃那との会話から王太子と一緒にいることはじきにわかった。


 王太子は妃那のしたことを桜子と別れさせる条件として圭介に突き付けたのだ。


 もちろん、彬はすでに妃那から聞いていたことなので、今さら驚くことはない。

 しかし、王太子がこの情報を使って、二人の仲を邪魔するとは考えてもみなかった。


(これも、この人の計画の一部だったってこと? こうなることを最初から予測して?)


 圭介は桜子を選ぶと言った。

 罪を犯した妃那を助けることはできないと。


 それを聞いて、妃那は突然笑い出した。こんな風に笑う彼女は初めて見た。


 笑っても笑ってもおさまらない。目に涙まで浮かべて笑っている。


 その異様な光景に彬は恐ろしくなって、わずかに身を引いた。


 ようやく笑いを収めて妃那はすっと真顔に戻った。

 その変わり身の早ささえ、どこか恐ろしいと思わせる。


「ねえ、圭介。わたしのしたことを全部知って、嫌いになった?」


 それが妃那の一番聞きたかったことだと、彬は知っていた。


 圭介に嫌われたくないと、妃那は本気だった。

 嫌われないように一生懸命その方法を探していたことを、彬はよく知っている。


 妃那の顔がかすかに緊張しているのが見て取れた。


 許されないことをしたとしても、どうしても嫌いと言ってほしくない。

 そんな懇願(こんがん)が表れていた。


 『嫌いにはなれないよ』という圭介のやさしい一言に、妃那の目元はゆるんだ。


 その先を続ける圭介の言葉は、圭介の人柄をよく表していた。


 自分のせいだと責めるより、自分のせいじゃないと誰かに押し付けるほうが楽だ。

 圭介は人の非をなじることなく、自分が一部背負っても、相手の抱える責務を少しでも軽くしようする。


 一言で『やさしい』といってしまうには、言葉が足りないような気がする。


(なんか、器が違うよな……)


 妃那のしたことからしたら、『なんてことをしたんだ』と怒鳴りつけたてもおかしくない。

 おまえのせいで桜子を失うところだったと。


 彬なら恨み言の10個や20個、余裕で言っている。


 しかし、同時に彬も気づいてしまった。妃那が計画した最後の結末を。

 失敗した時に何が起こるかを。


(この人、自分が死ぬかもしれないことも計算に入れていたんだ)


 0.1パーセント以下の確率の中にそれを入れていた。


 自分がしたことが発覚したら、当然刑罰は免れない。

 内戦を起こしたとなれば、死刑になるかもしれない。


 そんな危険を冒してまで、圭介を手に入れようとしていたのだ。


 妃那は自分の賭けに負けた。


 そんなわずかな確率なのに、圭介は桜子を選んだ。


 しかも、嫌われることなく。

 選ばれなくても、本望な結末だったのかもしれない。


 妃那の穏やかな横顔はそんな結末を受け入れ、死ぬ覚悟さえできているように見えた。


 彬はそんな妃那の表情を見て、ぶるりと震えた。


(この人、死ぬつもりなの……?)


 彬は「ちょっと待って……」と、妃那の腕をつかんだが、彼女は怒った顔で「しいっ」と再び彬の言葉を制した。


(……あれ? なんか、普通の顔に戻ってる?)


 そして、妃那が続けた言葉にギョッとした。


「圭介、そんなふうに責任を感じているのなら、今からでも桜子と別れて、わたしを選んで」


(ちょっーと待て! この話の流れで、自分を選べとか言う!? しかも、自分の責任のくせに、思いっきり人に押し付けてるじゃないか!

 この、人でなし! こういう時は、『わたしのことは気にしなくていいから、圭介は桜子と幸せになってね』というのが定石だよね!?)


 彬は言いたくても言えないので、代わりにギッとにらみつけた。


 妃那はかすかに笑って返してくる。


 その笑みは勝ち誇ったものではなく、どちらかというと『バカなの?』と言っていた。


 そして、続く妃那の言葉を聞いて、彬もようやく意味がわかった。


「わたしの計画を完遂して。そうしてくれたら、わたし、圭介をもっと喜ばせてあげられるわ」だった――。

次話はこの続きの場面になります。

お時間ありましたら、続けてどうぞ!

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