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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第5章-2 王太子が相手でも譲りません。~計画編~

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3話 どっちを選ぶ?

本日(2023/01/17)は、二話投稿します。


前話からの続きの場面です。

「もしもおれが桜子と別れたとして、妃那に手出ししないという確約は?」


 圭介は顔を上げて、改めて王太子に向かい合った。


「罪に問わないことを書いた書面に僕が署名する。

 万が一、他の者がこの情報を手に入れても、それがあれば罪に問われることはない」


「なら、それをすぐに用意してください」


「別れる気になったのか?」

「それを見ながら考えます」

「いいだろう」


 王太子は席を立って、デスクに向かった。


 さらさらとペンを走らせる音が聞こえてくる。


 腕時計の秒針が規則正しく時間を進めていく。


 こうしている間にも刻一刻と時間は過ぎていくのに、何の解決法も見つからない。

 冷静に考えたくても、焦りで頭の中がただただ真っ白になってしまう。


「書面だ。英語で書いてあるから、読めるだろう」


 圭介は顔を上げて差し出された書面に目を通した。

 内容に間違いはない。

 署名もきちんと入っている。


「少々意外だったな。君のことだから、もっと簡単に別れると言うかと思っていた」


「桜子の相手があなたでなかったら、即決でした」


「なんだか、君は殺したいくらいに憎いな。君たちは互いに理解し合って、深く結びついている。

 桜子を手に入れても、君のことは忘れないかもしれない。どこかで生きていると思えば、しぶとく思い続けるかもしれないな」


「桜子のおれに対する気持ちはわかりませんけど、桜子は1度決めたらまっすぐ突き進みますからね。

 あなたが無理やり連れていっても、這ってでも泳いででも戻ってくるかもしれません。

 それくらいなら、おれを殺しておきますか?」


「そんな挑発には乗らないよ。そもそも一国の王太子が手を汚す必要などない。

 君のような子供ひとり、人知れず殺す方法はいくらでもある」


「殺されたくて言っているわけじゃないですよ。

 本当は死んだ男の方が忘れないって言いたかったんです。

 フラれた男は結局、それなりの幸せを見つけて生きていくものですから、逆に忘れるものだって。

 おれの命乞(いのちご)いです」


「桜子を失うくらいなら、死んでも構わないとは言わないのか?」


「おれが死んだら、妃那も死ぬ。それじゃ、ここで桜子と別れる意味ないですから」


「あの娘はそこまで君を愛しているというのか」


「そうなのかもしれない。そうじゃなかったら、あいつはこんな計画、最初から立てていない。

 結局、妃那のしたことは、あいつの気持ちに気づけなかったおれの責任です。

 桜子と別れるならもっと早くすべきだった。

 そうしたら、桜子はただ新しく好きな相手を見つけるだけでよかった。

 内戦も起こらなかった。そのせいであなたの国が壊されることもなかった。

 後悔しても過去は変えられない。責任を感じても、おれに取れる責任もない。

 自分の選ぶ道はいつも間違った方へ行ってしまう。情けないです」


 圭介は言葉をつづりながら、音弥から言われた言葉を思い出していた。


『16歳の君に何ができるの?』


(そういうことだよな……)


「泣き言はそれで充分か?」


「泣き言ついでに、電話かけてもいいですか?」


「桜子にか?」


「妃那に」


「別れる前に恨み言でも言うのか? それとも命を救えなくて謝るのか?」


「それはすでに決断した後の答えでしょう。時間はあるんですから、焦らないでくださいよ」


「僕が聞いていても構わないというなら、かけてもいい」


「スピーカーにしろと?」


「そういうことだ。余計なことを言えばすぐに切る」


「出てくれればいいんですけどね……」


 彬と一緒にいるので、昨日のように電源を切っている可能性はある。


 圭介はポケットからスマホを取り出して、妃那に電話をかけて、テーブルの上に置いた。


 少なくともコールはしている。


『圭介?』


「妃那、彬と一緒なのか?」


『そうよ。今シャワーを浴びたところ』


「ちょうどよかった。おまえが電話に出てくれて」


『どうしたの?』


「妃那、おまえがしたこと、王太子に聞いた。ごめんな。助けてやれないかもしれない」


 圭介の言葉に妃那は黙った。


 束の間の沈黙が流れる中、王太子はじっと圭介を見つめている。


『わたしを捨てて、桜子を選ぶの?』


「おまえのしたことは許されないことだ。どんな形であれ、罪は償わなくちゃいけない。亡くなった人のためにも。

 そんな罪を犯したおまえを助けるために、桜子を不幸にすることはどうしてもできない」


 妃那が急に笑い出した。

 甲高く、狂ったように聞こえてくる笑い声は、思い返してみても初めて聞くものだった。


『なんて素敵なの? ねえ、圭介、あなたはやっぱり素敵だわ。

 この計画を考えた時、失敗する確率は0.1%以下と算出したのよ。

 圭介がわたしを選ぶと信じて疑わなかったわ』


「初めてのデートより、確率が低いじゃないか」


『そうよ。だって、実際に失敗したんだもの。もっと精度を上げなくてはならないでしょう?

 なのに、圭介は見事にわたしの計画を失敗させるのね。素敵すぎて笑ってしまうわ』


「それは謝った方がいいのか?」


 妃那は笑いを収めてまた沈黙した。


『ねえ、圭介。わたしのしたことを全部知って、嫌いになった?』


「嫌いにはなれないよ。半分はおれの責任だし。

 おまえにこんな計画立てさせて、実行までさせたのは、おれのせいだから。

 もっと早く気づいて、おまえの気持ちに答えてやれば、こんなことにならなかったのにって後悔している」


『圭介、そんなふうに責任を感じているのなら、今からでも桜子と別れて、わたしを選んで。わたしの計画を完遂して。

 そうしてくれたら、わたし、圭介をもっと喜ばせてあげられるわ』


「おまえの気持ちはうれしいよ。まだもう少し時間があるから、考え直してみることにする」


 圭介はそう言って通話を切った。


「あの娘、狂人か? もっとも他国に争いの火種をまく時点で、すでに普通の人間ではないが」


 王太子を見ると、あきれたような顔をしていた。


「妃那はただ愛を欲しがる子供です。おもちゃがほしくて、駄々(だだ)をこねて、わめいて、なりふり構わない。善悪もわからない。人の気持ちにも(うと)い。

 頭がいいだけに扱いは難しいけど、大人が正しく導けば、決して間違ったことはしない子です。

 そういう大人が身近にいなかった、かわいそうな子なんです」


「そういう娘に同情して、桜子と別れる決心をしたのか?」


 圭介は息をつきながら、小さくうなずいた。


 正直、これが正しい選択なのか、自信はない。

 それでも――。


「子供の責任は親にありますからね。まあ、おれは本当の親ではないけど、妃那の面倒をずっと見ていましたから」


「それで桜子が不幸になってもいいと?」


「あなたに任せます。どんな桜子であっても、幸せにするつもりなんでしょう?

 そういう人がいるのなら、必ずしも桜子が不幸になると今決める必要はないですから。

 妃那にはおれしかいないんです。

 見殺しにするにはどうしても幼すぎる。そんな幼い子の未来は奪えない」


 圭介は言って、ぐったりとソファに寄りかかった。


 もうそろそろ時間だ。


 覚悟を決めなくてはならない。

 桜子を見て、別れを告げる覚悟を――。


 たぶん一生見たくないと思っている顔をするだろう。

 そんな桜子を見て、自分を保っていられるのだろうか。


 非情にもノックの音が聞こえてくる。


「さあ、お迎えだ。行こうか」


 圭介はうなずいてソファから立ち上がった。

次話、この続きの話になります。

王太子と一緒にパーティ会場に行った圭介は桜子と会うわけですが……。

よろしければ、続けてどうぞ!

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