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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第5章-1 王太子が相手でも譲りません。~説得編~

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14話 冷たい空気、出してます

 同じ頃――。


 藍田家ではすでに騒ぎは収まり、和やかな雰囲気の中、非常に冷たい空気が流れていた。


 ちゃぶ台を囲んでそんな空気を醸し出している張本人の桜子は、自分のご飯を黙って食べていた。




 家の準備が整ったところで、大勢のお供を引き連れ、夕方ごろに王太子が藍田家へ到着した。

 両親と薫子と一緒に玄関までお出迎え。

 そして、王太子とその側近をそれぞれ部屋に案内した。


 夕食まではゆっくりしてもらう、ということになったので、桜子は自分の部屋で宿題をやったりしていたのだが、そこへ王太子が乱入。


「桜子、これからは一つ屋根の下だね」


 戸口で気取って言う王太子に、桜子は問答無用にクッションを投げつけた。


「この部屋、立ち入り禁止!」


 ここは自分の家。

 お嬢様の仮面もかなぐり捨てて、桜子は素で行くことにした。


(敬語使わなくちゃいけない人とは生活できないわよ!)


「そんなに怒ることないのに」


「そうね。でも、今怒ったわけじゃなくて、朝から怒っているの。あたしの言ったこと、わかってもらえたはずじゃなかったの?」


「だから、わかったって言ったじゃないか。僕はバカじゃないから、何度も繰り返さなくても大丈夫」


「いえいえいえ、何もわかっていらっしゃいません」


「今、君が圭介を好きな気持ちはよくわかった。僕は君の気持ちが変わるのを待つと言ったよ」


「あたしのうちまでノコノコ入り込んで、目の前で待つなんて、普通はありえないでしょ? 陰ながらそっと見守って、様子をうかがって、チャンスが来たら目の前に現れるとか、そういう意味でしょ」


「国が違うから、文化も風習も違うんだ」


「ああー、それ言います? 郷に入っては郷に従えという言葉は知りませんか?」


 桜子の嫌味など王太子はあっさりと聞き流してくれた。


「帰国までに時間があるといっても、限度はある。一度離れてしまったら、君は簡単に忘れてしまうだろう。そうなる前に、僕は僕にできる全力を尽くしたいんだ。そうしなかったら、僕は一生悔やむことになる」


「……もういいです。どうぞ気のすむまでご自由に」


 桜子はあまりにバカバカしくてそう言い放つと背を向けた。


「桜子、僕は君の気持ちを大切にしたい。でも、どうやっても手に入らないなら――」


 身体に絡みつく腕を感じた瞬間、桜子はその腕をつかみ、身体を反転させて足を払った。


 倒れ込む王太子に合わせて、桜子のひじが鳩尾(みぞおち)にのめり込む。


 ぐえ、と王太子はとても高貴とは言えないうめき声をあげて失神した。


 大の男が倒れる音に家中が気づかないわけはない。

 家族はもとより、側近たちも駆けつけてくる。


「で、殿下!」

「桜子、どうしたの!?」


 もうこの際、ウソも方便だと、桜子は泣きべそを作った。


「お母さん、この人、いきなり部屋に押し入ってきて、あたしを押し倒そうとしたの! 無理やり犯そうとしたのよ!」


 半分はウソではない。

 桜子は自分に言い聞かせながら、よよと泣くふりをして、母親に抱きついた。


「お母さん、怖かった! いやだ、あたし、こんな人と一緒に住むなんて!」


 ひっくり返っている王太子を見れば、母親の目には何が起こったかは一目瞭然。

 桜子が空手の有段者だということも知っている。

 男一人に簡単に押し倒されるわけはない。


「桜子、それは怖かったわね」


「うん、うん。だから、お母さん――」


「部屋にはカギを付けてあげるから、もう2度とこんなことは起こったりしないわよ。皆さん、殿下をお部屋にお運びして。お医者様を呼んだ方がいいかしら」


「へ? お、おか、おかあさん……?」


 顔を上げると、母親はニッコリと笑って桜子を離し、運ばれていく王太子に付き添っていってしまった。


(追い出してくれるんじゃないのー!?)


 桜子は唖然(あぜん)としたままみんなを見送り、ヨロヨロとその場に座り込んだ。


「大丈夫、桜ちゃん?」と、薫子が心配そうに顔をのぞき込んでくる。


「……大丈夫じゃない。お母さんに裏切られた」


「桜ちゃん、それはお母さん相手に作戦ミスだよ」


「どうしてよ?」


「お母さんがなんでこんなめんどくさいことを引き受けたか聞いたらね、王太子たちの滞在費が破格で入ってくるんだって」


「お母さん、お金の方があたしより大事なんだ……」


 桜子はぽっかりと開けた口がふさがらなかった。


「まあまあまあ。国庫っていうのは財布のひもが固いから、福祉費用を分捕(ぶんど)るのに、お母さんはいつも苦労しているわけだ。

 この滞在費は国庫から出されるから、そのまま事業にお金を回せる。お母さんはお金のためというか、恵まれない子供のことを優先しただけだよ」


「……それは仕方ないね。あたしもガマンするしか」


「それにしても、王太子様も桜ちゃん相手に力技とは、バカだねー。この際、股間つぶして、男として終わりにしてあげたら? そうなれば、さすがに桜ちゃんをあきらめてくれると思うよ」


「……さすがに王太子様の股間はねえ。これから跡継ぎが必要だろうし。その前に、あっちの国の人にあたしが抹殺されちゃうよ」


「それはさておき、思ったよりしつこい人で困ったちゃんだねえ。桜ちゃん、これ以上は刺激しないほうがいいかも」


「どうして?」


「ダーリンの方に手を出してくるかもしれないから」

「まさか。そこまで悪い人じゃないと思うよ」


「ただ桜ちゃんを力づくでものにしようとしてきたってことは、嫌われても何でも、もう手段を選ばないってことでしょ? 桜ちゃんの方が落ちないなら、ダーリンを狙ったほうが早いって思う可能性はゼロじゃないよ」


「あたしはどうすればいいの?」


「いつまで滞在するかわからないのが難点なんだけど、それまでは穏やかに話して、ダーリンとも見せつけるようなことをしない。そういう関係をずるずると引き伸ばして、帰国の日を待つ」


「内戦って終わりそうなの?」


「まだ続いてるからねえ。国家平定までどれくらいかかるんだか、そこまではあたしにもわからないよ」




 薫子の忠告通り、桜子はおとなしくしていることにした。


 ――が、どうやら(かも)し出される冷たい空気は自分で抑えられるものではなかったらしい。

次話は前話の続き、彬と妃那の話になります。

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