表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第5章-1 王太子が相手でも譲りません。~説得編~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

183/320

12話 何がどうなったら、こうなる?

前話から引き続き、桜子視点です。

 日曜日、桜子は昨日に続いて王太子に付き添い、福祉施設慰問に向かう予定だった。


 ――が、朝目を覚ますと、家の中がなんだか騒がしい。


「もう、何の騒ぎ?」


 パジャマのまま居間に行くと、日曜日で従業員は全員休みのはずなのに部屋の掃除をしている。

 窓の外を見れば、やはり庭を掃除をしている人、それに見知らぬ黒スーツの男が何人もウロウロしていた。


「ああ、桜子、やっと起きたの?」


 段ボールを抱えて母親が通りがかる。


「何かあったの?」


「あんた、王太子に何を言ったの? 昨夜、ちゃんと断ることができたって言ってなかった?」


「そうだよ。ようやくお互いの言い分を理解し合えて、向こうは身を引いてくれたの。ほんと、よかったよ。これで心置きなく圭介に会えるー!」


 桜子がウキウキと言うと、母親は怪訝(けげん)そうに眉をひそめた。


「……ねえ、それ、本当に理解し合えたの? だったら、どうして王太子がうちに滞在することになるわけ?」


「は!?」


「今朝、迎賓館(げいひんかん)の方から連絡があって、今日から王太子がここに滞在するって。

 だから、従業員を全員呼び出して、朝から空き部屋の片付けしたり、掃除したり、家のセキュリティの強化したり、大わらわよ」


「な、なんで、そんなことに……?」と、桜子は開いた口がふさがらなかった。


「否が応でもあんたのそばにいたいんじゃないの? こんな急に、いい迷惑よ。

 おかげで今日の慰問も延期。子供たち、楽しみにしていたのに」


「ええと、じゃあ、あたしは出かけなくていいということで……?」


「あんたも早く着替えて手伝いなさいよ。人がウロウロしているのに、いつまでもパジャマでみっともない」


「ええー……」


 桜子は寝耳に水、狐につままれたような気分でフラフラと自分の部屋に戻り、とりあえず着替えて顔を洗いに行った。


「桜ちゃーん、いったいぜんたいどういうことなの!?」


 薫子が洗面所に駆けこんでくる。


「あたしにもわかんないよ。なんで、王太子がうちに住むのよ。ていうか、引き受ける? 普通」


 桜子はタオルで顔を拭きながら言った。


「同居なんて始まったら、『正式な婚約、秒読み』とか記事が出そうだよね」


「冗談やめてよ。それに、どうして知らない人と一緒に住まなくちゃいけないの!?」


 桜子はプツンと切れて、タオルを叩きつけた。


「なんか、うち、すごいことになってるみたいなんだけど。王太子が来るんだって?」


 そんなことを言いながら、彬も洗面所に入ってくる。


 家じゅう人がウロウロしているおかげで、なぜか兄弟3人が洗面所に集まってしまった。


「あの人、やっぱり何を考えているかわからないよ! 来たらひと言文句言ってやらないと! 家族の前なら、言いたい放題だよね!?」


 桜子の勢いに押されたのか、彬が後ずさった。


「なんか大変そうだから、僕、出かけてこようかなー……」


「デート?」


「そういうんじゃないけど……家にいても落ち着かなそうだし」と、彬はもそもそと口ごもっている。


「そうだよねー。ホテルの部屋の方が静かで楽しい1日を過ごせそうだもんねえ」


 ニヤっと笑う薫子を彬がギッとにらみつけるのを見れば、彬とカノジョとの関係性は明白だ。


(あたしの方が先に付き合いだしたのに、弟に先を越されてる……)


「いいなあ……あたしも圭介と――」


 変なことを口走りそうになって、桜子はあわてて口を手で覆ったが、薫子が好奇心に目をきらめかせて見つめてくる。


「桜ちゃん、ダーリンと何したいのかなー?」


「ち、違うの! デートしたいって思っただけなの!」


 真っ赤な顔で言い訳をしたところで、ウソだと自分からバラしているようなものだ。


 これ以上、薫子に突っ込まれたくないと思っていると、彬が間に入ってくれた。


「そっか。姉さんも圭介さんとそういう関係になってたんだね。おめでとうって言った方がいいのかな?」


「そうじゃないのー! ただ、あたしは普通にデートを――」


「じゃあ、まあ、王太子が来たところで心配することもなさそうだし、僕はやっぱり出かけてくるよ」


 彬は朗らかに笑って出て行ってしまった。


「彬くん、勘違いしてたねえ」


 薫子がうぷぷと笑っているのを見て、桜子はがっくりと頭を落とした。


「あたしたち、まだそういう関係じゃないのに……」


「だから、そういう関係になりたいんだよね?」


 桜子はコクンと素直にうなずいた。


「まあまあ、桜ちゃん、そんなに落ち込まないで。またチャンスは作ってあげるから」


 薫子はそう言って、ポンポンと桜子の肩を叩く。


「よろしく……ということで、あたしも逃げていいかな?」


「桜ちゃんはさすがに逃げたらマズいんじゃない?」


「やっぱ、ダメ?」


「ここ、桜ちゃんの家だし。今逃げたところで、どの道いつかは帰って来なくちゃいけないでしょ? それくらいなら、早々に退散してもらうように頑張る方が先じゃない?」


「ごもっともで……」


 あたしの平穏な日はいつになったら来るのかしら、と桜子は泣きたい気分だった。

次話は、変な勘違いをして出かけていった彬の話になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ