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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第5章-1 王太子が相手でも譲りません。~説得編~

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10話 野良猫みたいだったようです

この話から桜子視点です。

 土曜日、朝から桜子は王太子のお供で東京見物に行った。


 案内役の政府関係者に加えて、ぞろぞろとSPを引き連れ、ひと目見ようと集まってくる野次馬排除に警察まで借りだされている。

 なんだかパレードのようだ。


 もちろん報道関係者も同行している。

 おかげで珍獣よろしく、どこへ行っても注目され、王太子と二人で少しでも会話を交わせば、パシパシとシャッターを切られる。


 新聞や週刊誌にまた婚約者として記事になるかと思うと、ウンザリせずにはいられない。

 それでも、行く先々にガイドが入っていろいろ説明してくれるので、普段住んでいる東京でも新しい発見があり、楽しいこともあった。


(なんか、『ローマの休日』の主人公たちの気持ちがわかった感じ?)


 幸い桜子は普段は自由だが、王太子となるとそんな自由はない。

 こんな生活は桜子にとって窮屈(きゅうくつ)なことこの上ないが、王太子はどうなのだろうと思った。


(生まれた時からこういう生活なら、それが当たり前で疑問に思ったりしないのかも……)


「桜子、今日は機嫌がいいね。具合はもう大丈夫なの?」


 移動の車の中、王太子が隣に座る桜子に声をかけてきた。


 この時間だけは外界から隔離されるので、まだ落ち着いて話はできる方だ。


「ええ、すっかり」


 昨日、圭介と話をして気持ちに余裕が出た今、今までずっと抱えていたイライラも影をひそめてくれた。


 圭介の言う通りだった。


 今まで断ることが優先で、まともな話もしていなかった。


 桜子の言っていることを理解してもらうには、まずは王太子のことを知らなければならない。


「すまない。毎日付き合わせて、疲れさせてしまったんだな。実は今日も来られないかと思っていたんだ」


「いえ、本当に大したことはないんです。おかげで昨日はゆっくり休めましたし。どうかお気になさらないでください」


「しかし、無理はしないでほしい。大切な身体だ。僕はまだ君の体調まで察してやれるほど君のことがわかるわけではないから、遠慮なく言ってほしい」


 本当に心配されていたようで、仮病を使った桜子の方が心苦しくなってくる。


(やっぱりウソはいけないわ)


 もっとも身体はともかく、精神的にはずいぶん参っていたので、体調不良には変わりなかったが。


 一方、王太子も似たようなスケジュールで毎日動いているわりには、はつらつとした顔をしている。

 やはりこういう状況に慣れているのだと思わざるを得ない。


「そのようなこと、殿下には望みませんから、お気になさらずにと申し上げているのです」


「圭介はそんなことを言わなくても、君に気遣いができるから好きなのか?」


 初めて王太子の口から圭介の名前が出て、桜子は少なからず驚いた。


(もしかして、昨日、圭介に連れ出されて、何か思うところがあったのかな)


「圭介は気遣いではなくて、そういうことが自然にできる人なんです。わたしのことをちゃんと見ていて、理解してくれて、わたしがヤキモチを焼くくらい、他の人に対してもそういうことができる人です。

 そんな人に会ったのは初めてで、だから、好きになったんです」


 圭介のいいところはたくさんある。

 どんな形で聞かれても、返事に困ることはない。


「桜子、今日はなんだかいつもと違うね」


 王太子はかすかに目を細めて桜子をじっと見つめてくる。


「そうですか?」


「この1週間見てきたけれど、なんだか君は野良猫みたいだった」


(野良猫って……)


 桜子はぷっと笑ってしまった。


 何かというと『結婚はお断りします』、『圭介が好きなんです』と繰り返して、踏み込んだ話にならない桜子は、警戒心バリバリの野良猫に見えてもしかたなかったのかもしれない。


(ほんと、圭介の言う通り、あたしは焦っていたんだね)


「それは失礼いたしました。なんだか突然のことばかりで焦ってしまって、落ち着いて物事を考えられなかったみたいです。今はだいぶ心に余裕ができました」


「それは僕のことを考えられる時間ができたということ?」


「ある意味そうですね。勘違いしては困りますけれど、同じ断るにしても、殿下をよく知ってからの方がいいと思いまして。その方が殿下も納得してあきらめてくださるかと」


「そのチャンスをもらえるのはうれしいな。僕をよく知ったら、君はきっと僕を好きになる」


「すごい自信ですね」と、思わずあきれた笑いをもらしそうになるのを笑顔でごまかした。


「でも、殿下もわたしのことをご存じないでしょう。

 小さい頃に1度会っただけの関係。それきり連絡を交わすこともありませんでした。

 その失った10年は子供が大人になっていく過程で、ずいぶん変わるものですよ」


「君の本質は変わっていないと思うよ」


「わたしの本質?」


「初めて会った時のことを今でも思い出すよ。君の瞳、あれは女王の目だった。誰にもかしずかない、そういう目。

 僕に対しても敬意は払うけれど、決してひざまずかない。なんの(おそ)れもてらいもなくまっすぐに僕を見ていた。そんな君に一目ぼれしたんだ」


「……その結果、ハーレムへのご招待ですか?」


 桜子はうっかり胡乱(うろん)な目を向けてしまう。


「誤解しないでほしい。王族は子孫を残すために子供を多く作らなくてはならない。一人の女性では無理だろう? あの頃の僕としては精いっぱいの求婚だったんだが」


「はぁ……」


「それから君のために日本語を勉強したし、婚姻制度も変えた。結果として、君のひと言はとても重要なことだったんだ。

 僕の国は一部富裕層が豊かな暮らしをしていて、その大半が王族やその親戚の貴族たちになる。国王に子が増えれば、その分富裕層の人口が増えて、財政を圧迫する。余計に貧困の差が広がるんだ。

 すでに王族は十分にいるのだから、血が途絶える心配はないし、富裕層の縮小には1番良い方法だったんだよ」


瓢箪(ひょうたん)から(こま)とというか……。わたしが意図したこととはかけ離れていますけれど、制度を変えて貧富の差が減れば、安心して暮らせる国民も増えるでしょう。それはよかったですね」


「僕は王族として、国民の安全と幸せを守る義務がある。君のお母さんは慈善事業に(たずさ)わっていて、君も将来はそういう道に進みたいと思っている。目指す道は同じなんだ。

 そんな君が僕を助けてくれたら、国民はもっと幸せになれる。僕は自分の国をそういう国にしたい。だから、桜子、君にも手伝ってほしい」


 王太子は桜子の手を取り、真剣な眼差しを投げかけてくる。


 今まで何度も『結婚しよう』と言われたが、これが初めてのプロポーズなのだと思った。

次話、この場面が続きます。

桜子はどう説得するのか?

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