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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第5章-1 王太子が相手でも譲りません。~説得編~

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6話 卒業作戦、決行

 落ち着かない1週間がようやくすぎ、金曜日がやってきた。


 圭介の方は普段と変わらず学校に行って、夜は家庭教師の日々だったが、桜子は連日連夜パーティに出席。

 父親の顔を立てて逃げるわけにはいかないらしい。


 この1週間を振り返っても、圭介が桜子と二人で過ごせた時間はゼロ。

 桜子は休み時間も昼休みも王太子に(はべ)る女子たちに紛れて、まともな話もできない。


 今ではほとんどの女子が弁当持参で、教室で王太子を囲んでのランチタイムだ。


 そんなこんなで、桜子の情報は昼休みに薫子から聞くしかなかった。


「で、桜子の週末の予定は?」


 教室の片隅で、妃那と薫子、三人で弁当を広げながら圭介は聞いた。


「明日は王太子様の東京見物に同行、日曜日は福祉施設の慰問(いもん)だって」


「それって、桜子が行かなくちゃいけないことなのか? 別に正式な婚約者ってわけじゃないだろ?」


「王太子様のご指名だからねー。王太子様がぜひぜひと言えば、あちこちのお偉いさんからお父さんの方へ圧力がかかって、断る方が面倒くさくなる、という状況」


「昼は学校で夜も週末も出かけるんじゃ、身体だってキツいだろ。大丈夫なのか? さすがに心配になるよ」


「桜ちゃん、体力はあるからそっちの方は心配いらないけど、精神的にやられてるかも。ダーリンが足りなくて、エネルギー補給ができてないんだよねー」


「それは冗談か?」


「ダーリンは平気なの? 桜ちゃんと全然一緒にいられなくても」


「平気なわけじゃないけど、今はガマンするしかないだろ? おれに何かできるなら、何でもするけど」


「じゃあ、一つ提案」


「何かいい方法があるのか?」


「その名も『卒業作戦』。あそこに埋もれている桜ちゃんを救出して、手に手を取って逃げる」


 薫子はニッと笑って、王太子を囲む女子の集団を指さした。


「……て、そのまんまじゃないか。おれ、誘拐犯にされるぞ」


「学校の中なら大丈夫だよ。いい場所を見つけておいたから。そこなら二人っきりで過ごせるよ」


「いい場所ってどこ?」


「旧生徒会室。今は物置になってるから、誰も来ないし、これで開けられるよ」


 薫子はそう言って古びたカギを渡してくる。


「……どうやって手に入れたんだ?」


「このカギを預かっている先生にかわいくお願いしてみました」


「それ、『かわいく』じゃなくてゆすったんじゃねえのか?」


「そんなことないよー。カギ貸してくれたら、その先生のほしいっていう写真のデータをあげるって約束しただけ」


「へえ。たまたまその先生のほしい写真なんか持ってたんだなー」


「そうなのー」


 てへ、と薫子は舌を出す。


(……て、普通にヤバい写真だろうが! カギひとつにそこまで準備するのか!?)


 とはいえ、週末も桜子に会えないし、来週になったからといって期待できるものでもない。


 圭介は受けとったカギを握りしめた。


「薫子、ありがたく使わせてもらうよ。けど、あんまり危ないことはするなよ」


「わかってるってー。タイミングは先生が来て、全員の生徒が着席する寸前だからね。廊下も人がいなくなるし、逃げてもすぐに追手はかからないはずだから」


「了解」


「お礼は厳選した上、後でお知らせします」


「はいはい。なんでも好きなものを」


 圭介は苦笑して薫子の小さな頭をなでた。




 それから十数分後、薫子の言われた通り、最後の生徒が着席する直前を狙って圭介は席を立つと、桜子のところへ行って手をつかんだ。


「桜子、ちょっといいか?」


 そして、そのまま桜子の返事も待たずに引っ張ると、そのまま教室を飛び出した。


「圭介、どこに行くの!?」と、当然のことながら桜子は驚いている。


「黙ってついてきて」


 授業開始のチャイムに追われるように廊下を駆け抜けていく。

 旧生徒会室は階段を下りて、さらに廊下のはずれにあった。


 薫子に渡されたカギでドアを開けて、桜子を先に中に押し込み、内側からカギを閉める。

 そこまで息をしていたのか記憶がないが、ようやく圭介は大きく息を吐いた。


「何かあったの?」


 桜子は状況がのみ込めないのか、落ち着かなさそうに辺りを見回している。


「悪い、急に。なんか、二人で過ごす時間が全然なかったから、ちょっと授業サボり。迷惑だったか?」


「バカ。そんなことあるはずないじゃない」


 桜子は泣きそうな顔で微笑んで、圭介の胸に飛び込んできた。


 物置になっているのは確かで、部屋の中は使われていない机やイス、棚には教材などがゴチャゴチャと詰め込まれている。

 ホコリ臭い雑然とした部屋であったが、授業中のこの時間、外からは何の音も聞こえてこない。


 二人だけしかいない空間、二人だけの時間――。


 桜子の身体をぎゅっと抱きしめ返すと、その温もりに気持ちが落ち着いてくる。


「ずっとこうしたかった」


 自分が思っていた以上に、不安だったらしい。


 こうして桜子が腕の中にいると、そんな不安が溶け出していくようだった。

次話は、この続きの場面になります。

授業を抜け出した圭介と桜子、二人で話すことは?


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